マルチトラックのドラム音源を任意のサンプルに差し替えるプラグイン

SPLDrumXchanger
音作りの幅を広げてくれるドラム用リプレイサー

SSPL DrumXchanger オープン・プライス(市場予想価格/34,650円前後)SPLといえば数々の個性的なアウトボードのリリースで有名。これまでもかなりお世話になってきました。そして、そのキャラクターは、現在プラグインとしても十分に発揮されております......これらのプラグイン、同社のハードウェアと同様に扱える辺りは本当にさすがですね。そして新たにリリースされたこのDrumXchangerは、簡単に言ってしまえばリプレイサーなのですが、そんなひと言で終わってしまうような単純なモノではなさそうですよ。SPLが持つ特許=Transient Designerを採用し、マルチトラック・セッション時にレベルに依存しないドラム・サウンドの差し替えを可能とするプラグインだそうです。

チ内蔵のTransient Designerで差し替えたいサウンドを抽出


冒頭で触れたTransient Designerとは、レベルごとに独立したダイナミクス処理を可能とする技術ということで、先に同社からプラグインも発売されています。そして本プラグインはこのTransient Designerの技術を生かして誕生したもので、原音用(Original)と差し替え後の音源用(Sample)にTransient Designerが2基搭載され、それぞれ処理を行えるようになってます。ちなみに生ドラムの差し替えってあまりやったことないんですが、いざやるとなると、結構な労力を要することは経験済み。実はそれほどまでに難儀な作業なので、あまりやらないという理由もあるのですが、それ故にこの辺りがどう改善されているのかかなり楽しみですね。 本プラグインはWindows/Macで使用可能。RTAS/VST/Audio Unitsのプラグインとして認識します。早速インストールしセッションを起動。マルチで録ったドラム・トラックを立ち上げ、キックに本プラグインをインサートしてみました。今回筆者が用意したキックの原音には、うっすらと、いわゆる"カブり"と呼ばれるスネアやタム、ハイハットの音などが混ざっています。そこでOriginalのTransient Designerにて欲しい音(ここではキック)だけに絞り込んで行くのですが、アタック、サステイン、ダッキングのツマミをそれぞれいじっていくとかなりの変化が起こります。アタックの強弱の付け方の案配も優秀なのですが、特にサステインの切れ具合などは思わずうなり声が出てしまうほどのもので、ゲートのように良くも悪くもバッサリとカットするという感じではなく、きちんと原音に忠実。すごく良い処理の仕方をしてくれます。さらにダッキングのツマミもまた素晴らしいです。原音のアンビエンスは維持したまま、ドラム・ヒットのみのレベルを減少させることが可能です。またハイパス/ローパスのフィルターの効き加減もとても良く、この時点でも十分なくらいいろいろと使えそう。Transient Designerは、すべてのドラム演奏のゴースト・ノートを含めダイナミック・レベルに一切依存することなく忠実に認識するというだけあり、抽出も非常にスムーズ。それでいて無理矢理な感じが無い所も良いですね。しかしここから先が本プラグインの本領発揮の部分であります。

音サンプル音もチューニングなど調整可元音とサンプルのミックスもできる


先ほど抽出した元の音を、中央のTrigger部でレベルの調整などをして、いよいよサンプル音源へと差し替えます。本プラグインには、24ビット/96kHzの高解像度ライブラリーが付属しているので、まずはその音源を呼び出し差し替えてみました。ライブラリーにはドラム・キットが収録されており、スネア、キック、そして4つのタムが収録されたキットが合計4つ用意されます。中央上段にある"SPL Kit"よりそれぞれの音をチェック可能で、聴いてみるとなかなかのサウンドです。このとき"SPL Kit"のドラムのアイコンをクリックして1音(スネア)を選択し、元のキックの音がどう変化するのかをチェックしてみましたが、出音はバッチリとスネア。いやあ、面白い。続けてキック、タムなど違う音色に変えてみてもその差し替わり具合はさすがという感じ。コレ、めちゃくちゃ面白いです。サンプル音の調整はSample部(右側のTransient Designer)にて行うのですが、こちらもまた、原音の処理と同じように素晴らしく、ハイパス/ローパス・フィルターはもちろん、アタック、サステイン、チューニングなども調整できます。さらにすべてのサンプルは、上下1オクターブずつのピッチ調節がリアルタイムで行えるほか、画面中央にはディレイ・コントローラーやフェイズ・ボタンも装備。サンプル音への差し替えが的確に行えそうですね。そして画面一番右のOutput部には、原音とサンプルを好みの配分で出力できる"DRY/WET"のツマミもあるので、単に差し替えるだけではなく、原音とサンプルを好きな割合で混ぜて出力することも可能です。ココでもいろいろな効果が試せそう。 さらに、WAV形式の自分のオリジナル・サンプルなども読み込めるので、ドラム音源に限らず変わったネタなどを差し替えてみるのも面白そうです。実際筆者のライブラリーからドラムとは全く違う音色を読み込んでみたのですが、こちらも問題無く発音できました。コレはぜひとも体験してもらいたいですね。今回チェックしてきたこのDrumXchangerは、単なるリプレイサーで終わらずに、音作りの幅をさらにに広げてくれるもの。新しく、かつ面白いプラグインだと思います。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年10月号より)
SPL
DrumXchanger
オープン・プライス(市場予想価格/34,650円前後)
▪Windows/Windows 2000/XP/Vista/7、1GHzのCPU、512MBのRAM、1,024×768以上のモニター解像度▪Mac/Mac OS X 10.4以上、Power PC G4もしくはINTEL Core Duoプロセッサー、512MBのRAM、1,024×768以上のモニター解像度※オーソライズ時にiLokキーが必要