SUMMIT AUDIO ECS-410 Everest 278,000円
ECS-410 Everestからは、これまで私が使ってきたコンソールやチャンネル・ストリップとは違う絶妙なサウンドを得ることができ、非常に新鮮な思いをした。早速、本機の面白さと素晴らしさを皆さんにも伝えていきたいと思う。
チューブ・サウンドはワイド・レンジコンプのプリセット・モードも有用
同社チャンネル・ストリップのフラッグシップ機として、"Everest(エベレスト)=最高峰"と銘打たれた本機。厚みが10mmもあるフロント・パネルには立体感があり、美しい仕上げからは高級感が漂う。本機はマイクプリ、EQ、ダイナミクス、そしてドライブ・バスという、個別の入出力を備えた4つのセクションを持ち、それぞれを独立したプロセッサーとしても使用可能だ。
各セクションを見ていこう。まずはマイクや楽器を接続するためのマイクプリ・セクションから。リア・パネルに集中する入出力端子として、マイク・イン(XLR)×1、+4dBアウト(XLR)×1、−10dBアウト(TRSフォーン)×1、インサート(TRSフォーン)×1が装備されている。さらに、フロント・パネルには楽器用のHi-Z(フォーン)×1を装備。また、−20dBの"Pad"、位相を反転させる"Polarity"、ファンタム電源の"+48V"、60Hz以下をカットするハイパス・フィルター"HPF"、チューブもしくはソリッド・ステートいずれかの出力を選択できる"Output"といったスイッチ群がそろう。音に関しては、ワイド・レンジなチューブ・サウンドが印象的。温かみを保ちながらもアタックが決してもたつかず、ヌケも良い。そして何より、ノイズ・フロアが低いのだ。このマイクプリを通した楽器の音色にはつやと粘りが出て、真空管機器を長年手掛けてきた同社の底力を感じた。
チューブ・コンプ採用のダイナミクス・セクションは、入出力用にリア・パネル上の+4dBイン/アウト(XLR)×1を持つ。フロント・パネルには−6〜+13.5dBの"Gain"と"Threshold"、4〜100msの"Attack"、50ms〜1sの"Release"などコンプレッション設定用のノブが並ぶ。ここで、レシオの値を設定するためのノブが無いことに疑問を持つ人がいるだろう。このコンプには"Classic/Tight"という2種類のモードがあり、レシオの値は各モードにプリセットされている。前者はレシオ=3:1とスムーズなかかり具合で、ボーカルにマッチ。後者はレシオ=10:1で、ピークやトランジェントを抑えるのに最適だ。これらのプリセットは入力するサウンドに適切に反応し、非常に使いやすかった。どんな音も豊かにしてくれる、実に音楽的なコンプレッションを得ることができた。
音に存在感を出すドライブ・バスルーティングをスイッチで瞬時に変更
音楽的という表現は3バンド・パッシブEQセクションにも言える。入出力端子はリア・パネルに+4dBイン/アウト(XLR)×1を装備。フロント・パネルにはLOW、MID、HIGHの各帯域に中心周波数とかかり具合を調整するノブが1つずつ備えられている。LOWとHIGHについてはピーキングとシェルビングを選べる。各帯域の中心周波数はそれぞれ6ポジション用意されており、ロータリー・スイッチで切り替え可能。ブーストしても曇りの無い音を演出してくれる上に、倍音関係を熟知した周波数ポイントの設定が実用的だ。
最後に、音に存在感を付加する狙いで設けられたドライブ・バス・セクション。これも本機の売りのひとつだろう。リア・パネルには+4dBイン/アウト(XLR)×1と−10dBアウト(TRSフォーン)×1を装備。フロント・パネル上のスイッチでチューブまたはソリッド・ステートを出力に選択。"Drive Amount"ノブを回しドライブ感を高め、最後に"Master Output Level"ノブを使い、適切なレベルで出力することができる。アナログ的なひずみを作り出せる上に、出力レベルを別途設定することができて非常に便利だった。
これら4セクションの組み合わせや接続順を、フロント・パネル右側に配置された10個のスイッチで瞬時に切り替えることができる特徴的な機能"Touch Patch"にも注目してほしい。切り替え時のノイズは極めて少なく、好印象だった。
本機の英文資料内に"The Art Channel Strip"という言葉がある。コンプやEQが音の表情を豊かにするという本機の特質を、まさに言い当てた表現だ。この音と性能ならプロも十分満足できるだろうし、価格的に宅録用の機材としても十分視野に入るだろう。マイクプリとしてはもちろん、楽器用プリアンプとしてもお薦めしたい逸品だ。
(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)