豊富な入出力と機能を備え独特のクリアな音質がさえるマイクプリ

FOCUSRITEISA One Digital
機能が豊富でさまざまな使い方が可能なマイクプリ

FOCUSRITE ISA One Digital オープン・プライス(市場予想価格/85,000円前後) 高音質で録音されたサウンドはいかようにも加工しやすく、音作りの幅を広げてくれます。今回は、録音の鍵を握る数あるマイクプリの中からFOCUSRITE ISA One Digitalをご紹介します。

DIイン+アンプ・アウトでダイレクト音とマイクからの音を確保


本機は同社のマイクプリISA Oneにデジタル出力が標準装備された製品です。プリアンプ回路には同社ISA 110と同じLUNDAHL L1538トランスを採用。名機ISA 110の質はどこまで再現されているのでしょうか。箱から本機を取り出すと、同社製品特有の“FOCUSRITEブルー”が現れ、見た目はまず合格! これ、意外と大事です。入力端子にはマイク・イン(XLR)×1、ライン・イン(XLR/TRSフォーン)×1、ギターなどに適したハイインピーダンスのDIイン(フォーン)×1を装備。さらに、外部機器接続用のCUEミックス・イン(L/R:TRSフォーン)×1やEXTイン(TRSフォーン)×1も備えており、演奏中にミキサーやDAWからの音もモニターできます。マイクプリ部はゲイン、ローカット、位相反転など基本機能を押さえつつ、4段階のインピーダンス切り替えが特徴的。各モードのインピーダンスはLOW:600Ω、ISA 110と同じ設定の“ISA 110”が1.4kΩ、MID:2.4kΩ、HIGH:6.8kΩとなり、さまざまなキャラクターの音を演出してくれます。DI機能はマイクプリ部から独立させて使うことができ、メイン・アウトとは別にDIアウト(XLR)を装備。さらに、アンプ出力用としてアンプ・アウト(フォーン)を備えているところもニクイ。例えば、エレキギターをDIインに接続し、アンプ・アウトからつないだギター・アンプで鳴らした音を本機でマイク録りすると、ダイレクト音とアンプからの音の両方を同時に確保できます。これは非常に便利!アンプ・アウトからチューナーにつなぐという使い道もあります。これは大変面白い設計ですね。ヘッドフォン・アウトは自分の弾く音をレイテンシーの無い状態で確認したいときに便利です。そして、特筆すべきは内蔵のADコンバーターです。AES/EBU、S/P DIF、ADATなど、さまざまなフォーマットに対応したデジタル出力を持ち、インサート端子を利用することでアナログ・コンプなどの外部機器を通った信号をデジタル変換することも可能です。ちなみに、音量計にはピーク・メーター以外にVUメーターを装備。録音レベルの監視は全く問題無いでしょう。

“FOCUSRITEの音”を継承、DI機能はギターの中域に張りを出す


さて肝心の音質ですが、価格差から見て酷とは思いつつ上位機種ISA 110と比較してみました。中低域のふくよかさと高域の伸びは若干劣りますが、音の質感やキャラクターを見事に継承。“結構使えるぞ”と思いながら、普段、他社製マイクプリを使って録音しているボーカルで試すと相性の良さもあってか好結果が得られ、そのまま採用しました。同様にレコーディングでほかのボーカル3名にも使ってみたところ、筆者以外の人の意見もあり、すべて採用されることに! 本機の基本性能の高さを実感しました。音質は中域~中高域に若干の癖があるもののクリアで、いわゆる“FOCUSRITEの音”は十分に出ていました。次に、コンガの録音でテスト。SHURE SM57を使い、ややパチパチした音で録りたかったので、インピーダンスをより高い設定に変えました。すると、高域に対する感度が上がり、抜け方も面白いサウンドに。通常EQやマイクの種類で音作りする部分を、インピーダンス切り替えで簡単にクリアできるのは非常に便利です。最後にエレキギターをDIインに接続/演奏してみましたが、中域の張り具合が特に好印象。このDIインもインピーダンス変更ができるので、楽器を直接接続するときとエフェクターなどを介すときとで、柔軟な設定変更が可能です。コスト・パフォーマンスが高い本機、機能が豊富なため創意工夫次第でさまざまな使い方が可能です。音はFOCUSRITEらしい上質なものとなっています。ワンランク上のマイクプリをお探しの方は視野に入れてみてはいかがでしょうか。isa_rear

▲リア・パネル。上部/下部で、デジタル系/アナログ系に分かれている。デジタル系は左側からシングル/ダブル・ワイアー切り替えスイッチ、AES/EBU/S/P DIFアウト(D-Sub9ピン/ブレーク・アウト・ケーブルを接続)、AES/EBU/S/P DIF切り替えスイッチ、S/P DIF/ADATアウト(オプティカル)、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)。アナログ系は左からCUEミックス・イン(R/L:TRSフォーン)、DIアウト(XLR)、メイン・アウト(XLR)、EXTイン(TRSフォーン)、インサート(Return/Send:TRSフォーン)、ライン・イン(TRSフォーン、XLR)、マイク・イン(XLR)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)
FOCUSRITE
ISA One Digital
オープン・プライス(市場予想価格/85,000円前後)
●マイク入力部 ▪ゲイン/0〜60dB(10dBステップ)、+20dB可変 ▪入力インピーダンス/LOW:600Ω、ISA 110:1.4kΩ、MID:2.4kΩ、HIGH:6.8kΩ ●ライン入力部▪ゲイン/−20〜+10dB(10dBステップ)、+20dB可変 ▪入力インピーダンス/10kΩ(10Hz〜200kHz) ●インストゥルメント入力部▪ゲイン/10dB〜40dB連続可変▪入力インピーダンス/LOW:300kΩ以上、HIGH:1MΩ以上 ●デジタル・ボード▪出力フォーマット/AES/EBU(5V/110Ω)、ADAT(S/MUX対応)、S/P DIF(コアキシャル/オプティカル) ▪A/D/最大24ビット、192kHz ▪周波数特性/20Hz〜20kHz ±0.3B(50〜16kHz ±0.1dB)、176.4kHz & 192kHz:16Hz〜55kHz ±0.5dB ▪外形寸法/220(W)×104(H)×290(D)mm ▪重量/3.9kg