WAVESプラグインをYAMAHA製デジタル卓で使えるシステム

WAVESWSG-Y16 & SoundGrid Server
PA用デジタル・コンソールと連想させる画期的ネットワーク・システム

WAVES WSG-Y16 & SoundGrid Server WSG-Y16(写真上):84,000円 SoundGrid Server(写真下):183,750円DAWのプラグイン・メーカーとして数多くの製品を展開しているWAVESが、このたびPA用デジタル・コンソールと連動させる画期的なシステムを発表しました。これは、WAVESが提唱するSoundGridと呼ばれるネットワーク・プロセッシング・プラットフォームのことで、WAVESの豊富なプラグイン・エフェクトを低レイテンシーでデジタル・コンソールにもたらし、多チャンネルでの処理を実現するというもの。この技術を活用するには、エフェクト処理を行うサーバー(SoundGrid Server)とそこで展開させるエフェクトをコントロールするアプリケーション、そしてYAMAHA製コンソールに装着するI/Oカード(WSG-Y16)が必要です。今回はこれらを実際にライブ・ハウスで使用しながら、SoundGridの実力を探ってみたいと思います。

エフェクト処理を賄うサーバー低レイテンシーを実現


まずこの製品の特徴は、エフェクト処理を行うCPUサーバーを用意している点です。従来の製品はコンソールに直接インストール、もしくはスロット・カード(YAMAHAの場合)での使用でした。しかし、SoundGridはデジタル・コンソールや外部コンピューターに負荷をかけることなく、さらにはレイテンシーの発生を極力抑えるために、別途CPUを用意してきました。SoundGrid Serverそのものは、不要なものは一切ないシンプルな外観です。フロント・パネルには起動ボタンとリセット・ボタン、リア・パネルには主電源スイッチと各種コネクターがあるのみです。そして、このSoundGrid Serverをコントロールするために必要なものが、専用アプリケーションMultiRacks SoundGridを走らせるコンピューター環境です。Windows/Macどちらにも対応しています。ちなみに今回の使用環境は、APPLE Mac Book Pro 2.4GHz のMac OS X10.6.4、 RAMは2GBです。コンソールに装着するWSG-Y16は、YAMAHA製デジタル・コンソールを使用されたことのある人にはなじみ深いと思われるYAMAHA Mini-YGDAI仕様のものです。装着する際は向きに気をつけるだけで、設定などは特に必要ありません。ほかに必要なものはイーサーネットのハブ。SoundGridはイーサーネット・ベースのプロトコルですので、すべてのコンポーネントを接続するために、ギガビット・スイッチが必要になります。WAVESで動作確認済みのものとして、NETGEAR GS 608 v2、GS605 v2、GS 108 v3、JGS 516が挙げられます。

プラグインを操作するMultiRacks最大32ラックを構築できる


これらのセットアップ自体はとても簡単です。カードを装着したコンソール、サーバー、ホストコンピューターをハブにイーサーネット・ケーブルで接続するのみです。今回はプリインストールされたMacBookでしたので、MultiRacksのインストールに関しては割愛させていただきますが、WAVESのプラグインを使用したことがある人なら問題なく作業を進められると思います。WAVESはドングルとしてiLokを使用していますのでUSBポートにiLokを挿入して起動させます。そして早速、コントロール用アプリケーションMultiRacks SoundGridを起動してみます(画面①)。multitruck▲画面① MuitiRack SoundGrid。コンピューターからSoundGrid上のWAVESプラグインをコントロールするアプリケーション画面にはブランク・パネルを模したラックが表示され、このブランク・パネルをダブル・クリックするとプラグインの種類を選択できます。イン/アウトの構成をMono-Mono、Mono-Stereo、Stereo-Stereoから選択可能です。プラグイン・エフェクトの種類によってはMonoのみ、Stereoのみのものもありますので、若干の注意が必要です。ラックがマウントされたらプラグインの選択です。今回は約50種類のプラグインがバンドルされたパッケージ(SoundGrid Pro)ですので膨大なプラグインが選択できます(写真①)。ラックに表示された"+"をクリックすると選択できるプラグインがリスト表示されるので選択してマウントさせます。soundgrid▲写真① ライブ・パフォーマンスで即戦力となるWAVESのプラグイン・バンドル。右のパッケージは最上位クラスで50以上のプラグインを擁するSoundGrid Pro(1,617,000円)。このほか、28のプラグインを擁するSoundGrid Essentials(819,000円)、12のプラグインを擁するSoundGrid Prelude(312,900円)、がラインナップこのラックには最大8個のプラグインがマウントできます。これを一つのカードに対して最大16個まで(44.1kHz、48kHz使用時)ラックを組むことができます。ちなみにカードの同時使用は2枚までですので、最大で32ラック組むことができます。そして、それぞれのラックをスロットのどのチャンネルにインサートさせるか選択します。ラックの両端にイン/アウトの設定ができるボタンがあるのでプルダウンして確認していきます。同時にコンソール側も設定します。これでホスト・アプリケーションの設定作業は完了です。文章にするとややこしいですが、実際に触ってみると非常に簡単です。DAWを使用した経験があるなら説明書は不要でしょう。

WAVESプラグインの忠実な再現性、ライブ環境で使用できるメリット


では、実際に使用していきたいと思います。今回はホームのライブ・ハウス"柏PALOOZA"のYAMAHA M7CL-48(Ver.3.0.4)に対して使用してみました。事前にそれぞれのチャンネルに対してあらかじめエフェクトをプリマウントさせて臨みました。レコーディングでもこのプラグインをかけないことはないというぐらい使用頻度の高いRenaissance CompressorやRenaissanceEqualizerを軸に、空間系のラックにはRenaissance Reverbを使用しました。プラグイン画面はDAWのプラグイン画面と全く同じなので、使用に際して戸惑うことはないでしょう。惜しいのは、複数のプラグイン・ウィンドウを開けないこと。一つに対してしか開けないので、ライブの限られた時間内で多くのプラグインを使うには注意が必要かもしれません。それにしてもライブでこのようなエフェクト群が使用できるなんて素晴らしいです。プラグインはどのパッケージを購入するかで内容が変わってきますが、最上位のパッケージ(SoundGridPro)にはSSLのチャンネル・ストリップもあります。ライブ・コンソールにSSL。想像するだけでワクワクします(笑)。ちなみに、WAVESのTDMプラグインを既に持っている場合はSoundGridEnabler(9,450円)というソフトを購入することで、TDMプラグインを使用することも可能です。使ってみた感想は、思った通りかつ狙い通りの音が出ます。使用頻度の高いRenaissanceシリーズならではの音です。空間系もM7CLの内蔵エフェクトだけでは決して出せない最上級の質感です。そのほかのAPIシリーズやSSLシリーズも、"あー、こんな感じこんな感じ"と納得させられる完成度の高さです。ちなみにノイズもそのまま再現されています(笑)。現場で使用してみた感想をまとめておきたいと思います。まず、コンピューター上のホスト・アプリケーションということで、それぞれのラック構成はファイル保存が可能ですので、いつでも再現できます。さらにSNAPSHOT機能を使えば、エフェクト・パラメーターを1,000個保存することも可能。リアルタイム操作が必要なライブ環境には便利ですね。SNAPSHOTにはラック構成などは保存できませんが、それぞれ、プラグインのオン/オフやパラメーターが保存できるので、バンドごとに保存してワンクリックで呼び出すということも容易です。パラメーターの調整はホスト・アプリケーション上から設定できますが、MIDIを設定すれば、コンソールやほかのMIDIインターフェースからもコントロール可能です。ただ、M7CLなどのライブ用コンソールの場合、オールインワンの使用を前提としており、余計な(単独でMIDIコントロール可能な)ノブやスイッチは付いていないため、いずれかのチャンネルをアプリケーション・コントロール用に割り当てる必要が出てきそうです。メカニカル・インターフェースで使用したい場合はサードパーティ製のMIDIコントローラーを使用した方が簡単&確実だと思います。SoundGrid Serverに関してですが、14個のラックにRenaissance CompressorとRenaissance Equalizer、2個のラックにRenaissanceReverbを入れて使用しましたが、CPUの負荷は20%ほどでした。試しに処理の重いRenaissance Reverbを56個マウントしてみましたが、それでも負荷は55%前後。複数台使用可能なこのサーバーですが、高負荷のために追加するということは現時点ではなさそうです。複数台入れるメリットとしては、リダンダント・モードというものがあります。これはいわゆるミラーリングというやつで、アプリケーション上では一つのサーバーを使用しているのと変わらないのですが、サーバー側は常にミラーリングしており、万が一、1台がクラッシュなどで使用不能となった場合でも処理を継続できるものです。以上、駆け足で見てきましたが、今回のWAVES SoundGridは、YAMAHA製デジタル・コンソールのオーナーにとってはとても魅力的な製品だと思います。特にDAWでのレコーディングも行っている筆者のようなPAエンジニアには素直に"欲しい"と思わせる機材です。ライブでのミキシングに幅が出ること間違いなしです。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)
WAVES
WSG-Y16 & SoundGrid Server
WSG-Y16:84,000円 SoundGrid Server:183,750円
WSG-Y16 ▪サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96kHz ▪チャンネル数/16ch(44.1/48kHz動作時)、8ch(88.2/96kHz動作時) ▪対応製品/YAMAHA PM5D/M7CL/LS9-16/DM2000/DM1000/02R96/01V96/DME64N/DME24N/TX6N/TX5N/TX4NSoundGrid Server▪RAM/4GB ▪マザー・ボード/INTEL DP55WB Media SeriesLGA1156 ▪LANカード/INTEL PT Server PRO