KORGMicroStation

大胆にシェイプアップした小型ワークステーション・シンセ
KORG MicroStation 73,500円KaossPadやKaossilator、そしてMicroKorgやMicroSampler、最近では手のひらサイズのシンセサイザーMonotronなど小型なものが人気の高いKORGの製品だが、今度はワークステーション・タイプのシンセサイザーが小型になって登場した。その名もMicroStation。思えば小型化の時代でもワークステーション・タイプのシンセサイザーだけは、キーボード・プレイヤーがしっかりと使えるようにそれなりに大型のものが多かった。小型化の一方で"高級感" "安定感"という点では、大型もまたその価値があったわけだが、こういったシンセサイザーを背負って電車で運搬するには、とてつもない体力を使うし、部屋でも大きな場所をとるが、このタイプのシンセは操作性が重要なので、やみくもに小型化するのも問題である。同社のワークステーション・タイプのシンセサイザー、M50はかなり小型軽量になって持ち運びに苦労しないものになったが、大胆な決断でさらなるシェイプアップを行ったのがこのMicroStationだ。
61鍵ながらも軽量で通常と変わらない使い勝手
たとえどれだけ電気回路の小型化に成功しても、ワークステーション・タイプのシンセサイザーを小型化できない大きな理由は"鍵盤"という"大きさの決まったモノ"に重点が置かれていたことがある。両手で演奏しようと思うと最低でも4オクターブ、できれば5オクターブは欲しいところ。実際同社に限らず、多くのワークステーション・タイプのシンセサイザーの鍵盤は61鍵以上になっている。MicroStationはその鍵盤をなんと"ミニ鍵盤"にしてしまったのだ。これはかなり大きな決断だったのではないかと思われるが、同じくミニ鍵盤のMicroKorgが大ヒットしているし、最初は戸惑うが慣れてしまうと、ある程度の演奏には問題なく使用できる。この製品の最大の特徴なので少し検証しておくため、標準鍵盤で5オクターブの製品を幾つか測ってみた。鍵盤だけのサイズで横が83cm、奥行きが14cm程度あったが、MicroStationは約72cm(本体横幅は78cm弱)、長さが8cmだった。つまみやボタンの操作を多く必要とするために、操作パネル面にもそれなりのスペースが必要になるので、この奥行きが重要である。MicroStationは鍵盤とパネルを合わせた奥行きが21cm。これなら細型のMIDI入力鍵盤と同じサイズではないか? つまり机の上にディスプレイとコンピューターのキーボードを一緒に設置しても余裕の奥行きということになる。重さも2.6kgというから、ノート・パソコンの標準的なもの(たとえばAPPLE MacBook Pro)と同程度である。実際、軽々と片手で持ち運びできる。心配した鍵盤のタッチだが、演奏してみたところ、ミニ鍵盤とは思えない気持ちのよい感じで、ベロシティもしっかり反応してくれ、通常の鍵盤とほとんど変わらな感触に驚いた。ちょっとサイズを意識する程度で、違和感なく演奏できるようになるだろう。これほどの小型化に成功しているが、もちろんワークステーション・タイプなので、これ一台で音楽制作ができるシステムになっている。その中核になるのがマルチティンバーで使用できる音源と、それを使って音楽を組み立てるシーケンサーになるのだが、まずはMicroStationの音源部分を見ていくことにしよう。
かなり練られたものが用意された音色のデモ演奏機能
M3やM50に搭載された音源システム、EDSを継承したEDS-i音源というものを搭載しており、49MB(16ビット・リニア換算時)の豊富なPCMサウンドを搭載している。音色数は512プログラム(480プリロード)、384コンビネーション(256プリロード)になっている。"何種類収録!"という数値はスペック的に重要に思われがちだが、512音色というのは現在ではそれほど多いものではない。しかし、今までのPCM音源のデータや知識の蓄積のおかげだろうか、"使えない音色"が皆無なのである。1,000以上もプリセットがあるけど使える音色は少なかった時代と比べると、はるかに充実した内容になっている感じがする。500以上もあれば十分といったところだ(写真①)。


付属ソフトウェアによる細かな音作りも可能
ワークステーションにおける音楽制作の核になるシーケンサーは、16トラック、最大128ソングに210,000ノートをレコーディングすることができる高性能なもの。一般的なシーケンサーの機能を網羅しているが、ボタンが少なくディスプレイも小さいので、各種設定やエディットはページをめくる階層構造になってしまうのはしょうがない部分だが、うまくページ分けされているのでシーケンサーについて理解すればそれほど苦労はなさそうだ。面白い機能として、グリッド・シーケンス機能というのがあり、パネル右側の音色選択に使う16個のファンクション・ボタンとLEDを使ってドラムのパターンなどを打ち込むというもの。GRID SEQのボタンを押すことで、すぐにこのモードでパターンを制作することができた。これだけの制約の中でよくここまでやってくれたという印象だ。ほかにも曲制作のスタート時にあらかじめ楽器群の設定が読み込めるように、テンプレート・ソングという機能で登録をしたり読み込むことができたり、数々の工夫が見られる。本格的に打ち込みをしなくてもシーケンスのモードにすればすぐに演奏の録音ができるので、メモ代わりに利用すれば、作曲に極めて便利なツールになるだろう。ソング・データや、音色プログラム、コンビネーションなどは、SD/SDHCカードで保存、読み込むことができる(写真③)。



▲リア・パネル。左からDAMPER/PEDAL SW端子、MIDI OUT/IN、SD/SDHCカード・スロット、USB端子、アウトプット(TRSフォーン)、POWERスイッチ、ACアダプター端子
(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年8月号より)撮影/川村容一
KORG
MicroStation
73,500円
▪鍵盤部/61鍵ナチュラル・タッチ・ミニ鍵盤(ベロシティ対応、アフタータッチ非対応)▪最大同時発音数/120ボイス(120オシレーター)シングル・モード時、60ボイス(120オシレーター)ダブル・モード時▪PCMメモリー/49MB(16ビット・リニアPCM換算時)、360マルチサンプル、484ドラム・サンプル(ステレオ24個含む)▪オシレーター/OSC1(シングル)、OSC2(ダブル)、1オシレーターにつき4段階ベロシティ・スイッチ(クロスフェード/レイヤー機能付き)▪外形寸法/778(W)×82(H)×210(D)mm▪重量/2.6kg