USBオーディオI/O搭載でライブ録音にも使えるアナログ・ミキサー

MACKIE.Pro FX8
"本物の存在感があるサウンドを提供する"アナログ・ミキサー

KMACKIE. Pro FX8 39,900円PAや音楽制作がデジタル・ミキサーの波にのまれようとしている時代ですが、昔から変わらずアナログ・ミキサーやそのヘッド・アンプに定評があり、ミュージシャンやエンジニアから絶大な支持を受け続けるMACKIE.。そんな同社より今回、Pro FXシリーズがリリースされました。本シリーズには"デジタルな今だからこそさらにアナログを追求し、本物の存在感があるサウンドを提供する"、そんな言葉がぴったりです。

骨太な音質のマイク・プリアンプとかゆいところに手が届く3バンドEQ


本シリーズのラインナップは8ch入力のProFX8と12ch入力のPro FX12(52,500円)の2機種。さまざまな可能性を秘めた本シリーズですが、今回は8ch入力のPro FX8で、機能をチェックしていきます。手元に実機が届き、箱を開けたときの第一印象は"小さいっ!" でした。小型のアナログ・ミキサーがあればなあ......とボンヤリ思っていた矢先でしたので、"シンプル、最新、小型、MACKIE."これだけで十分、魅力的です。本機も他製品と同様、現場の人間から信頼されるよう、長年愛用しても壊れにくいタフな設計がなされています。まさに同社ロゴ通り"鋼鉄の男"ですね!さて、まずはトップ・パネルから見ていきましょう。入出力、マスター部、グラフィック・イコライザーなどが整然と配置された、無駄の無い美しいデザインとなっています。その上、本シリーズのために新たに開発された高品位な"RMFXエフェクト"が備わっているのはさすがです。パネル上部には入出力用の各端子が並んでいます。入力用にはマイク・イン(XLR)、ライン・イン(TRSフォーン)、インサート(TRSフォーン)、テープ・イン(RCAピン)が備えられており、さらにch3/4、ch5/6のライン・インにはハイブリッド・インという機能も装備されています。これは、マイク・イン使用時だとモノ・インプット、ライン・イン使用時だとモノまたはステレオ・インプットのいずれかで利用できるという、1つのチャンネルでモノ/ステレオ・インプットを選択して使うことができるものです。出力用にはAUX出力のMONセンド(TRSフォーン)、外部エフェクター用のFXセンド(TRSフォーン)、 テープ・アウト(RCAピン)、ヘッドフォン端子、メイン・アウト(TRSフォーン) があります。リア・パネルについては、メイン・アウト(XLR)とUSB端子×1のみというシンプルな作り。"シンプル・イズ・ベスト!" が今も昔も良い機材を物語るのです。
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▲写真① ch1のMICイン端子の真下にはHi-Zスイッチが備えられている。ライン・イン/Hi-Z端子、インサート端子を経て、ゲイン・コントロール、ローカット・ボタン(100Hz以下を−18dB)、3バンド・チャンネルEQ(HIシェルビング/固定12kHzで±15dB、MIDピーキング/固定2.5kHzで±15dB、LOWシェルビング/固定80Hzで±15dB)と続く。さらに、プリフェーダーのAUX MONセンド、ポストフェーダーのAUX FXセンドが配置されている


さて、少し細かく説明していきましょう。冒頭で触れた通り、本機にも各チャンネルに骨太かつリアルな音質を持つ、ハイヘッド・ルーム/ローノイズのマイク・プリアンプを搭載。さらに、"音楽的"との定評がある3バンド・チャンネルEQに加え、マイク・インを備えたチャンネル(写真①)にはローカット・スイッチを搭載しています。音楽のミックスをするときの"この帯域とこの帯域の間を切りたいんだよなぁ" "ローカット、これだとあんまり意味ないんだよな"なんて悩みを減らしてくれるのも、このEQが"音楽的"と形容されるゆえんかもしれません。チャンネルEQの下部には2系統のAUXツマミが用意されています。1つはモニターなどに使用するプリフェーダーのMONセンドで、もう1つは内蔵エフェクトのかかり具合を調整できるポストフェーダーのFXセンドです。ちなみにこれらのツマミは、トップ・パネルに配置された出力端子(MON SEND/FX SEND)を使用することで、エフェクターなど外部のアウトボードに接続することも可能となります。次に、フロント・パネル右側のマスター部を見ていきましょう。上からマスターまたはAUX(MONセンド)にインサートできる7バンド・グラフィックEQ、12セグメントのLEDメーター、今回トピックとなる内蔵エフェクター部とUSBコントロール部、そしてヘッドフォンなどのボリューム・ツマミ群が並びます。いろいろあるように聞こえますが、要はツマミ×5、スイッチ×6、グラフィックEQ用のスライダー×7、たったこれだけなので分かりやすいことこの上無しです!USBコントロール部があることからも分かるように、本機には2イン/2アウト、16ビット/48kHz対応のオーディオ・インターフェース機能が搭載されています。しかも、専用の音楽制作/オーディオ編集ソフトのTracktion 3が同梱されており、USBケーブルまで付属することから、ただ本機を購入するだけでコンピューターさえあればすぐに録音を始められます! さらに本機はMac/Windowsいずれもサポートしていますので著者含め、現場に多いMacユーザーにはうれしい限りです。ちなみに、Tracktion 3で作成したオーディオ・ファイルは当然、APPLE iTunesやほかのDAWソフトでも読み込めます。さまざまな角度から信頼できるPro FX8ですから、音を聴かなくても大丈夫!......ってそれでは製品レビューの意味が無くなるので、次は現場での使用感をチェックしましょう。

スピード感のある音が好印象ライブ向けの高品位エフェクトも魅力


今回はライブ・ハウスで行われるアコースティック・ライブの本番で実際に使ってみました。まず、会場に常設されている大型アナログ・ミキサーに本機を乗せ、入出力を差し替えました。設定は3分間くらいで終了。次に、マイクは歌にSHURE SM58、アコースティック・ギターやラインものにはRADIAL J48MKIIを使用。これでミキサー以外はいつもと同じ状態になりました。まず、本機の設定をフラットにし、トークバック(SM58S)でしゃべってみると、中域から高域にかけてのスピード感の良さに驚きます。まるで、スピーカーの方向から音全体をそのまま引き出すような速さです。素直な感じと言いますか、特に今回のようなアコースティックなステージでは楽器や声自体の音がとても大切ですので、ミキサーによる味付けが無いことが、逆に好印象です。次に7バンド・グラフィックEQでメイン・スピーカーのチューニングをしてみると、このクラスのミキサーに搭載されたものとしては非常に効きが良く、DJのようにエフェクト的な使い方も可能です。実際に1kHzだけを残してほかの帯域を切ってみると、あっという間にラジオ・ボイスができました! ちなみに、LEDメーターは発光性に優れ、なおかつ正確なので細かいレベル取りが要求される作業にも問題はないでしょう。前述の通り、とても素直な音が印象的で、ゲイン・コントロールを上下するだけで意図する方向に持っていけるのが素晴らしいですね。ゲイン・コントロールを上げ過ぎても"痛い"サウンドになることはなく、そのまま大きくなる感じです。また、クラッシュ・シンバルをコンデンサー・マイクで収音したときは、EQが大活躍しました。ローカットをオンにし、チャンネルEQのLOWを上下すると、ズシッとした重い音色から、高域のサステインが伸びた音色まで幅広く作ることができました。まさに本物の音を知っているからこそなせる技/サウンドです! 音作りとバランス取りが済み、次はサウンドにつやを与えるためにエフェクトをかけてみました。このRMFXという32ビットのエフェクト・プロセッサー(写真②)は、同社がうたう"ライブで使える"エフェクトのみを装備。リバーブやディレイを中心に、ライブでの使用頻度が高いエフェクト16種類に絞られています。はて、どれほどのものかと6番の"CONCERT HALL"をボーカルにかけてみると、何とも優しく、奥行きと立体感のあるリバーブが付きました。多くの場合、リハーサルの短い時間では細かい設定ができないので、プリセット設定の質は重要です。mackie_pic2new▲写真② 32ビットのRMFXエフェクト・プロセッサーは、リバーブやディレイなど、空間系を中心とした"ライブにおいて実用的"なエフェクトに絞ったセレクトだ

USB I/O機能とTracktion 3でライブ録音までカバー


リハーサル終了後、出演者からライブのインターネット配信を打診されましたので、本機のUSBオーディオ・インターフェース機能を利用し、筆者のMacで演奏を取り込むことにしました。設定手順は、Tracktion 3をコンピューターにインストールし、USBケーブルでPro FX8とコンピューターをつなげてTracktion 3内のRecボタンを押すだけです。これだけで本機のメイン・バス+テープ・インのサウンドをそのまま録音することができます。また、AUXのMONフェーダー上部にあるスイッチ"USB THRU"を押すと、USBインプット経由のコンピューターからのステレオ音声(DAWソフトによるバック・トラックなど)を本機から出力しながら、その音声と各チャンネルからの歌や楽器演奏をミックスしたものをUSBアウトプット経由で同じコンピューターに戻し、Tracktion 3などのDAWソフトなどで録音することができます。この独自機能を使用すれば、DAWソフトと楽器演奏によるライブをしながら、そのパフォーマンス全体を録音することが可能になります。本機能のおかげで必要最低限の機材量でライブ会場などの現場を回すことができると言えるでしょう。過去、何度かMACKIE.のミキサーをレビューしましたが、共通して思うのは"イージー・オペレーション"をベースにしつつ、"あの機能も付けちゃおう!"というサービス精神と遊び心を持っているということ、そして、誰でも超簡単な操作でマシンをさまざまな現場に合わせることができるということです。Pro FX8の直感的かつシンプルな操作には、ライブ・ハウスからカフェ、バー、ロケ、会議など"音を出す環境"において、もし音響担当者が不在であっても、簡単に作業を進められるという可能性を見出せるのではないでしょうか。しかも機能的にも文句無し、お財布にも優しいときたら著者の心も揺らぎます。mackie_rear

▲リア・パネル。左側から電源スイッチ、メイン・アウトR/L(XLR)、USB端子。その他の端子はトップ・パネルに集約


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年8月号より)
MACKIE.
Pro FX8
39,900円
▪周波数特性(MICイン→出力)/@20kHz〜30kHz(+0dB/−1dB) ▪入力インピーダンス/MIC:3kΩ(XLR)、Hi-Z:1MΩ(フォーン)、INSERT:10kΩ(フォーン)、その他:20kΩ ▪サンプリング・レート(USB接続時)/44.1kHz/48kHz ▪量子化ビット(USB接続時)/16ビット ▪外形寸法/290mm(W)×357mm(H)×91mm(D) ▪重量/3.2kg