上位機種の性能を継承したライン入力専用ハイエンド・オーディオI/O

METRIC HALOLIO-8
アップグレードも考えられたFireWireオーディオ・インターフェース

METRIC HALO LIO-8 438,900円LIO-8は同社の最高機種ULN-8からマイクプリと"+DSPライセンス"という内蔵DSPの拡張エフェクトを省くことにより、ユーザーが購入しやすい価格に抑えたFireWireオーディオ・インターフェース。しかしながら、専用マイクプリや+DSPライセンスを追加購入することにより、後々ULN-8と同等の製品にアップグレードできるという優れものなのです。とはいえ、この価格はセミプロというよりはもはや業務用の価格帯。どれだけすごいのか?と思いつつ、今回は業界標準のあのインターフェースとガチ対決させてしまいました。。

ツヤのあるアナログ的な出音とクラシックにも合いそうな上品な録り音


LIO-8は24ビット/192kHz対応の高品位で低ノイズなAD&DAコンバーターを備えており、8chのアナログ・ライン入力、8chのアナログ・ライン出力、8ch分のAES/EBUデジタル入出力、ヘッドフォン出力も含めて合計16IN/18OUTという仕様。オーディオ・ドライバーはMacのCoreAudioのみ対応します。なお、バス電源には非対応なので、モバイルでの使用時は業務用のブロードキャスト・バッテリーを別途用意する必要があります。先述したようにLIO-8のアナログ入力はラインのみの対応ですが、後でマイクプリを追加購入でき、見方を変えれば既にお気に入りのマイクプリを所有している人にとってみれば無駄の無いシステムです。エフェクトも同様で、DSPチップは既に内蔵しており、DSPプラグインも録音上必須なものは標準搭載されているので、いきなり困ることはありません。+DSPライセンスはディストーションなどさらなるエフェクトの追加権です。もう居ても立ってもいられないので、細かい製品紹介は後回しにして、いきなり音質の評価をやってしまいました。比較はDIGIDESIGN 192I/OをCore Audioで使用。まずは出音の音質から。お気に入りのCDをDAWに取り込んで再生します。うーん、やっぱり値段と音質は比例するというか、どちらの製品も好みの差というぐらい互角に"良い音"です。強いて言えば192 I/Oはスタジオ機器らしい硬さが超低域と超高域にあり、LIO-8は逆にその部分が少しアナログ的に丸くなる印象。LIO-8の出音は色気があるというか、聴けば聴くほど恍惚感をもたらす音質で、"これでミックスしてみてえ〜"と声を上げたほどです。さらに192kHzの素材が手元に無かったので、96kHzで収録したピアノの音を再生してみたところ、192 I/Oはエアー感というかキラキラ感と音像の立体感が顕著になり、これはこれで良い音です。片やLIO-8は非常に上品。ハイサンプリングの良さは残しつつ、どこにも変な誇張が無く上品な印象に引っ張っていきます。ひょっとして、これはかなりクラシック録音に向くのではないかと思いました。マイクプリ搭載ではないため、ライン録音のチェックは手持ちのENSONIQ ASR-Xのドラム、NORD Nord Modular G2のシンセ・ベース、OVATIONのエレガット・ギターの3種で検証です(エレガットはフロントのHi-Z入力経由)。LIO-8の音は48kHz/96kHzどちらにおいてもアナログ的な質感があります。例えばエレガットのがちゃがちゃした弦の粒立ちをまとめてくれ、リズム・マシンの無機質な金属の音にも少し温かみを加えてくれる......そんな印象です。マイクプリではないので、SN比に関してはあまり検証できませんでしたが、音の抜け感は低価格帯のオーディオ・インターフェースとは比較にならないぐらい素晴らしいものでした。

充実したコントロール・ソフト群、質感を変えるCharacter機能も面白い象


音を聴いて気持ちが落ち着いたところで、あらためて製品を見てみます。本体はモバイルを考慮して、コンパクトな1Uサイズに機能を凝縮。フロント・パネルには8つの入力と1つの出力エンコーダー・ノブを備え、エンコーダーは回転によるパラメーター変更とプッシュ・スイッチも兼ねています。左側にあるControl Modeボタンとの併用で、後述する専用コントロール・ソフトのプリセット切り替えなども可能です。特筆すべきは高精細で16本もあるレベル・メーターでしょう。小さいながらも音量に対するセグメント数が多く、レベルを大変確認しやすいです。しかも入出力のエンコーダーを回すと、OUTPUT側のLEDセグメントがメーター表示から数値表示に切り替わるという便利さです。リア・パネルは主な端子がD-Subコネクターで用意されており、多チャンネルの入出力を実現。ただし、D-Subケーブルは別売となります。業務機ならではの外部クロック入出力、タイム・コードの入出力も備えていて、プロの仕事をこなす上で十分な配備でしょう。
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▲画面① 専用コントロール・ソフトのMobile I/O v5 Mixer。ご覧のように分かりやすいミキサー画面となっており、本機とDAWソフトの信号ルーティングの変更、入力音に対するレベルやパン、DSPプラグインのインサートなどが行え、録音時のモニター・ミックスを作るのにも最適。右上に立ち上がっているのは、標準装備のDSPエフェクトであるHalo Verb。シンプルなパラメーターのみのリバーブだが、必要にして十分な質感を持つ


コンピューターとの接続はFireWire 400ケーブル1本で、付属のDVDからMobile I/Ov5 Mixer、MIO Console、Monitor Controlという3つの専用コントロール・ソフトをインストールして使います。いずれもLIO-8とDAWの音の流れの中間に配備されるソフトで、ダイレクト・モニタリングや多彩な機能を実現してくれます。LIO-8は高音質なだけでなく、これらのソフトもだいご味と言えるのです。 まずMobile I/O v5 Mixerでは入出力信号のルーティング、バスの作成、DSPエフェクトのインサートなどが行えます。非常に自由度の高い設計で、ミキサーをフルカスタマイズでき、ミックス時のサミング用として、ライブのCUEミキサーとして、あるいは現場の突然の仕様変更にも即座に対応します。反面、自由度が高過ぎて最初はどう使えばいいのか困ることもあるでしょう。そのために数多くのプリセットも用意されていますのでご心配無く。ということで、ここではプリセットの"LIO-8 Tracking Cue Mix + reverb" を開いてみます(画面①)。ゼロ・レイテンシー/ダイレクト・モニタリングで本体のヘッドフォンで聴きながら録音する基本セットです。Mobile I/O v5 Mixerの画面はチャンネル・ストリップが並ぶシンプルなデザインで、インサート・セクションの下には単独送りのCUEと内蔵リバーブのHalo VerbがアサインされたAUXが用意され、すぐ作業が始められそう。インプット・フェーダーの"Analog8"以降の"Digital〜"はAES/EBUのデジタル入力用になっていますが、必要無いならば削除してもいいし、DAWの出力用にしてもいい。ここではDAW1-2のステレオだけモニターする設定になっていますが、DAWとは18本バスが作れるので、単独返しで細かいバランスを作ることも可能です。
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▲画面② Mobile I/O v5Mixerには上記リストのような"質感" を加えるプリセットが用意されている。しかも各入出力チャンネルごとに異なるプリセットをかけられる


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▲画面③ MIO Stripはコンプやエキスパンダー、EQを備えたチャンネル・ストリップ


特筆すべきはゲイン・トリムの下に"Character"というセレクト欄があり、これがすごい。簡単に言うとビンテージ・アナログ回路のモデリング・エフェクトが入っていて、Tube、Transformer、American、Britishといった質感のプリセットが多数選べます(画面②)。真空管の柔らかい倍音変化など、EQやコンプではなかなか近づけない根本的な音質を作ってくれるわけです。インサート・セクションではお待ちかねのDSPエフェクトが使えます。主なもので言うと、MIOStripと先ほど触れたHalo Verbが標準装備されています。MIO Stripはコンプ/リミッター、ゲート/エキスパンダー、6バンドのパラメトリックEQが入っているチャンネル・ストリップで、大変良くできたエフェクトです(画面③)。HaloVerbは簡易的なリバーブですが、十分な質感で、これで通常のモニタリングは何も不足ありません。ちなみにこれらの高品位エフェクトはかけ録りももちろんできます。次のMIO Consoleは、基本的に入出力デバイスの設定に使います。何とDAW無しでもMobile I/O v5 Mixerへの入力を録音できてしまう簡易マルチレコーダー機能も付いています。フィールド・レコーディングなどでDAWをわざわざ立ち上げなくてもいいのは便利ですね。3つ目のMonitor Controlは主にマルチチャンネルのモニター調整ツール。LIO-8は7.1chまでのマルチチャンネル・オーディオをサポートしており、すべてのアナログ・アウトを同時に上げ下げする場合などに必要不可欠な機能です。さらに入力ソース切り替えなどカスタマイズも自由なので、CDやDAWなどを切り替えて自宅環境を便利にする使い方もアリでしょう。
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▲画面④ Audio Units/VST/RTAS対応のプラグインであるMIO Console Connectは、LIO-8の設定をホストとなるDAWのソング・ファイルとともにセーブするためのツール。これで設定のリコールが簡単に行える


最後にAudio Units/VST/RTASのMIO Console Connectというプラグインも紹介しておきます(画面④)。これはオーディオ加工のためのプラグインではなく、DAWで使用した際にLIO-8側のすべての設定をホストのDAWとともにセーブするためのもの。それだけ?とお思いでしょうが、意外に重宝します。APPLE Logic Pro 9で試したところ、曲ごとにMobile I/O v5 Mixerのモニター・バランスやDSPエフェクトの違いなどをすべて再現してくれる優れものでした。§ プロが使う本物の音と機能......この製品には確実にそれがあると思います。細かい機能が組まれているにもかかわらず、ビギナーへの配慮も忘れていないところがさらに良い。この高音質と機動力は、自宅録音やライブで"最高"を目指す人には文句無く一番の製品。私も欲しくてたまらないです。LIO-8_rear

▲リア・パネル。ライン入力1〜8(D-Sub)、センド1〜8(D-Sub)、ライン/モニター・アウト1/2(フォーン)および1〜8(D-Sub)、AES/EBU入出力1〜8(D-Sub)、ワード・クロック入出力(BNC)、MIDI IN/OUT、SMPTE入出力、FireWire 400×2


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年7月号より)
METRIC HALO
LIO-8
438,900円
▪ADコンバーター周波数特性/2.9Hz〜21kHz(44.1kHz@+0/-1dB)、2.9Hz〜64.7kHz(192kHz@+0/-1dB) ▪ゲイン・レンジ/-22dB〜31.5dB ▪入力インピーダンス/10kΩ ▪ダイナミック・レンジ/118dB(-60dB、A-weighted, typ) ▪外形寸法/432(W)×330(D)×44(H)mm ▪重量/約2.6kg

▪Mac/PowerPC(Mac OS X 10.4〜10.5)またはIntel Mac(Mac OS X 10.4.8〜10.6)、128MB以上のRAM、FireWire 400ポート、Core Audio対応アプリケーション、1,024×768以上のディスプレイ解像度