作りの良さとサウンド・メイクの幅広さが魅力の小型アナログ・シンセ

KORGMonotron
名機と同じフィルター回路を持った画期的シンセサイザー

KORG Monotron 6,300円21世紀になってもうすぐ10年、ソフトウェア音源の時代になってもKORGのアナログ系シンセサイザー製品は元気がいい。MSシリーズに投下された技術を2000年によみがえらせたというアナログ・モデリングのシンセサイザーMS2000、同技術を用い小型化させたMicroKorgは空前の大ヒット製品となった。 これで一段落かと思えば、KORG自らがMS-20、Polysixをソフトウェア化したKORG Legacy Collection、そしてアナログ音源ではないがこれも1980年代の名機だったM1やWavestationのソフトウェア版KORG Legacy Collection Digital Edition、さらにAQインタラクティブから発売されたDS-10はMS-10をNINTENDO DSでよみがえらせて大ヒット。過去の製品を現在にも生かしているのは、同社の自信の表れではないだろうか。同社の企画、開発スタッフには敬意を表したい。 シンセサイザー業界のこのような低価格かつアナログ再評価の流れにさらに拍車をかけた製品が、学研の『別冊大人の科学マガジン』の付録として発売されたSX-150だった。雑誌にアナログ・シンセが付いて3,360円という画期的な安さ。低価格といっても“シンセらしい”サウンドを作るには十分なパラメーターだった。そして今回、KORGからも低価格のアナログ・シンセが発売された。それがMonotronである。SX-150ほどではないが抑えられた価格、SX-150よりも小型なボディ。ちょうどAPPLE iPhoneくらいの大きさを考えてもらうとよいだろう。

小型軽量ながらしっかりとした作りフィルターはかの名機と同じ回路


このMonotron、小型軽量ながらかなりしっかりとした作りになっている。つまみ類は小さいが壊れてしまいそうなものではなく、間隔も十分空いているのでしっかり1つずつ操作することができる。このサイズなので残念ながら鍵盤は付いておらず、リボン・コントローラーに描かれた鍵盤の絵を目安に指やペンの先などで押さえて音を鳴らす仕組みだ。電源は単4電池×2本のみ。ACアダプターなどの電源供給には対応しない。アナログ・シンセとしての構造を見てみると実にシンプルだ。ノコギリ波の1オシレーター、フィルターはローパス・フィルター。これにノコギリ波のLFOだけで構成されている。エンベロープ・ジェネレーターは無い。つまみ類やスイッチ類は実に最低限のもので、重要かつ多くのサウンド・バリエーションが作れるよう考えられている。 電源オンのスイッチがLFOをかける先の選択スイッチにもなっている。つまりオシレーターのピッチにかけるか、フィルターのカットオフ・フリケンシーにかけるかの切り替えをここで行う。つまみ類は合計5つある。左側から、まずはオシレーターの音程を変えるpitch。オシレーターはノコギリ波のみなので、VCO関連のつまみはピッチの変更機能だけとなっている。オクターブ切り替えではなく連続可変のものなので音程を正しく決めるのは少し大変だが、飛び道具的なサウンドとして使用する場合は逆にピッチ・ベンドのレバーのようにも利用できるし、かなりの幅で周波数が変化する。確認してみたところ、つまみのフル回転で約6オクターブ半くらいは変化した。鍵盤代わりのリボン・コントローラーを使えば約8オクターブくらいカバーすることになる。次のつまみはLFOのrateで、速度を変化させることができる。これも実際にチェックしてみたところ、最も遅くすると約0.09Hz(約11秒間で1サイクル)、速くすると周波数としての確認はとれないが、LFOが音程を認識できるほどの速さになり、FM変調のようなサウンドに加工できるというかなり素晴らしいものだ。また、このつまみは透明で、中に赤いLEDライトが埋め込まれており、つまみ自体が周期に合わせて発光するので、LFOの動きを視覚的にも確認できる。次のつまみはLFOの深さを調整するint.。前述の通りLFOをオシレーターのピッチにかけるか、フィルターのカットオフ・フリケンシーにかけるかは電源スイッチの切り替えで指定するのだが、その深さを決めるのがこのつまみだ。 右側の2つのつまみはフィルターのカットオフ・フリケンシー(cutoff)とレゾナンス(peak)となっている。peakはしっかり発振するもので、うまく使えばオシレーターと合わせて2つの音が鳴っているように聴かせることも可能だ。また、このフィルターには往年の名機MS-10、MS-20と同じ回路が採用されている。私事だが、筆者は古くからMS-20をメインのシンセとして使用してきた。MOOGの方が良いときも、ARPの方が良いときもあえてMS-20を使用し、MS-20だけを使った曲を書いたりもした。さらに、一生使えるように予備を含め5台所有している大のMS-20マニアだ。その私が思うに、このフィルターはMS-20そのものの印象だ。レゾナンスの絡み具合も、つまみとフィルターのカーブの感じもMS-20とほとんど差を感じないもので、スムーズで大胆、かつ心地よい。VCAは前述の通りエンベロープ・ジェネレーターが無いのでボリュームだけになるが、これは本体の背面にボリュームつまみとして用意されている。出力は内蔵スピーカーから鳴らすことができるのだが、このスピーカーがチープながらなかなかいい音を出してくれる。ステレオ・ミニのヘッドフォン端子もあるので、外部機器につないで録音したりアンプで鳴らしたりすることも可能だ。

使い道を広げる外部入力用AUX端子も搭載


外部入力用のAUX端子も用意されており、MP3プレーヤーや他のシンセなどの音源を入力させると、本機のLFOとレゾナンス付きのフィルターで加工することもできる。このとき、外部入力は常にフィルターを通して出力されることになる。また、外部入力を使っている場合もリボン・コントローラーでオシレーターの音を演奏することができるので、合奏したものをフィルターにかけて一体化させたサウンドを簡単に作ることができた。内蔵スピーカーから出るローファイ感がかなり楽しかった。LFOを使用したい場合は、電源スイッチをcutoffの方にセットしておく必要がある。ここで1つだけ注意しておくことがある。リボン・コントローラーは昔、ピッチ・ベンドの代わりとしてYAMAHA CS-80などに採用されていたこともあり、タッチしながら左右に動かすことでピッチをダウン/アップさせる効果は確かに素晴らしい。ただ、アナログ回路を使って音程を演奏するとなると不安定さの要因となることがある。そこで、本機はリボンの幅で正確な音程が演奏できるように、リボンの絵柄の1オクターブと実際の音の1オクターブが合うように調整することができる。これは細いドライバーを使って背面にあるレンジ半固定ノブを回すことで調整可能だ。飛び道具的に使う場合はこの調整も不要だが、リボン・コントローラーへのタッチでしっかりと正しい音程を演奏したい場合はVCOのpitchを調整する前にオクターブの幅の調整を行ってほしい。そうしないと、せっかく音程を合わせてもリボン・コントローラーの別の場所では正しい音階にならないからだ。

幅広いサウンド作りが可能筆者お勧めセッティングを披露


実際にいろいろと遊んでみたが、フィルターがしっかりかかること、LFOのレートにかなり幅があること、ピッチにもカットオフにもLFOをかけられることなどから、ちょっと触っただけでも、かなり幅広く面白いサウンドを作ることができた。ここでちょっとお勧めのセッティングを紹介しておこう。
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▲図① ミサイルやジェット機が飛ぶような音を作るためのセッティング。音を出しながら、pitch、rateを同時にいろいろ動かしてみよう


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▲図② 8〜16分音符のシーケンス・フレーズを作るためのセッティング。リボン・コントローラーのいろいろな場所をリズムに合わせて4分音符や8分音符の長さで演奏しよう


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▲図③ 4つ打ちのキックを作るためのセッティング。int.、cutoff、peakを微調整することで、キックの音色を変化させることができる


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▲図④ 何かの測定装置、あるいは鈴虫の鳴き声のようなサウンドを作るためのセッティング。pitchで速度を、cutoffで音色を変化させることができる


図① ミサイルやジェット機が飛ぶような音を作る。mod=pitch、pitch=3~5時、rate=3~5時、int.=5時、cutoff=3時、peak=9時。リボン・コントローラーで音を出しながらpitch、rateを同時にいろいろ動かしてみよう。図② 8〜16分音符のシーケンス・フレーズを作る。mod=cutoff、全つまみ=12時。LFOのrateがちょうど16分音符になるよう調整し、リボン・コントローラーのさまざまな場所をリズムに合わせて8分音符や4分音符の長さで演奏する。図③ 4つ打ちのキックを作る。mod=cutoff、pitch=7時、rate=10~11時(4分音符に)、int.=5時、cutoff=10時(微調整)、peak=5時。int.、cutoff、peakを微調整することで、キックの音色を変化させることができる。図④ 何かの測定装置、あるいは鈴虫の鳴き声のようなサウンドを作る。mod=cutoff、pitch=3~5時、rate=1時、int.=5時、cutoff=8~11時、peak=11時。このセッティングでpitchとcutoffをゆっくり操作する。最後に、とにかく安いので、おもちゃ感覚で深く考えずに買っても後悔することはないだろうし、既にインターネット上ではこのリボン・コントローラーを使ってしっかりと演奏しているユーザーの動画も公開されているところを見ると、使い込んで本機のプロフェッショナルになることもできる奥の深い製品だと言える。飛び道具として使用する場合はKaoss Pad Mini-KPなどでディレイをかけると、かなりスペイシーなサウンドを作ることができるのでお勧めだ。また、内蔵スピーカー付きで電池で動くことから、いつでもどこでも使うことができるので、カバンの中に常に入れておくと話のネタとしてもかなり楽しそうだ。早速今夜、行きつけの飲み屋に持っていってみようと思う。monotron_rear▲リア・パネル。中央の2つの端子はヘッドフォンとAUX、さらに右にvolコントロールとレンジ半固定ノブを配置する『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年7月号より)
KORG
Monotron
6,300円
▪シンセ構成/1OSC、1VCF、1LFO▪スイッチ/standby/pitch/cutoff切り替え ▪つまみ/VCO pitch、LFO rate、LFO int.、VCFcutoff、VCF peak ▪入力端子/AUXインプット(ステレオ・ミニ)▪出力端子/ヘッドフォン(ステレオ・ミニ) ▪スピーカー/最大出力0.2W▪電源/アルカリ単4電池×2本(最大8時間) ▪外形寸法/120(W)×72(D)×28(H)mm(ツマミの高さ含む) ▪重量/95g