自動フレーズ生成機能や高機能ボコーダーを備えた音楽制作ソフト

IMAGE-LINEFL Studio 9
開発のネットワークが軽く、ユーザーの声を取り入れることに定評があるユニークな音楽制作ソフト

IMAGE-LINE FL Studio 9 Signature Bundle:36,750円/Signature Bundleクロスグレード版:23,100円/Fruityloops + DD Club Edition:29,400円 ユニークな音楽制作ソフトとして、筆者周辺でもユーザーが増えつつあるのがFL Studioシリーズ。開発のフットワークが軽く、ユーザーの声をすぐに取り入れることでも定評があり、昨夏以来の新バージョン、FL Studio 9が早くも登場した。どのように進化しているのか、筆者も楽しみなところ、早速チェックしてみよう。

複グルーブ・マシンの集合体ユニークな構成


FL Studio 9はWindows用の統合型音楽制作ソフト。オーディオやMIDIを組み合わせてトラックを作成できる......というと、"ああ、いわゆるDAWソフトだな"と思われるかもしれない。確かに最終的にできることは同じなのだが、そのコンセプトは大きく異なる。FL Studioは、いわばグルーブ・マシンの集合体だ。トラック(FL Studioでは"チャンネル"と呼ぶ)にアサインされるのは、ドラムやベースなどの音源モジュール。各チャンネルにはステップ・シーケンサーが装備されていて、フレーズ・パターンを入力することができる。ドラム・パターンやアシッドなベースのリフなどは、マウスでクリックするだけで簡単に入力できてしまう。
FL_pic1

▲画面1 右側の画面がriff machine。ピアノロール上でフレーズを自動生成する新機能だ


もちろん、ステップ・シーケンサーではなく、一般的なピアノロールでの入力も行える。そのピアノロールでは、新たに"riff machine" 機能を装備した(画面1)。これは自動的にフレーズ・パターンを生成してくれたり、打ち込んだフレーズを元にアルペジオ・パターンにしてくれたり、ランダムに音をバラけさせてくれたりと、高機能なアルペジエイターのように使えるものだ。チャンネルではレコーディングすることも可能だ。MIDIの場合はMIDIレコーディングになるが、オーディオ・モジュールをアサインした場合には、一般的なオーディオ録音が行える。このオーディオ・モジュールは、基本的にはサンプラーなので、フィルターをかけたりスライスしたり、グラニュラー機能でストレッチしたりも思いのまま。触っていると、素材をどんどん加工したくなってしまう。この辺りが、FL Studio 9のだいご味なのだ。作成したパターンは、ソング("プレイリスト"と呼ぶ)に並べて1曲にする。オーディオはここに直接録音することも可能。いわゆる歌モノの場合、ボーカルはこちらに録音し、バック・トラックはサンプラーで加工しやすくしておく、なんて使い分けが自然に行える。

シンセやボコーダーなど即戦力の音源とエフェクトが付属


FL-pic2

▲画面2 モジュールを組み合わせてオリジナル・シンセを作れるSynthMaker


FL_pic3

▲画面3 プリセット・タイプの新たなシンセサイザー、Autogun。音色はIMAGELINEOgunで作成されている


FL_pic4

▲画面4 Vocodex。最大100バンドでキメ細かいボコーダー・サウンドを楽しめる


FL_pic5

▲画面5 新搭載のエフェクト、Fruity Stereo Shaper。簡単にモノラル音源をステレオに広げることができる


FL Studioでの音楽制作の中心となる音源だが、ドラム系はもちろん、アナログ・シミュレートからFM、さらにはグラニュラー系などのシンセ、それにサンプラーなど盛り沢山の内容。モジュールを組み合わせてシンセサイザー自体を作成するSynthMaker(画面2)も付属する。もちろんサード・パーティのVSTやDXiといったプラグイン音源を追加することもできるし、外部MIDI音源を使うことも可能だ。この場合でも、FL Studioのステップ入力やピアノロールを使ってフレーズの作成が行える。さらに、新音源のAutogun(画面3)が強力だ。プリセットのみのプレイバック音源だが、1980年代のデジタル・シンセ的なザックリとした音色が多数収録されていて、ほかの内蔵音源といい感じで補完しあえる。これらの音色を作成するために用いられたIMAGE-LINEのソフト・シンセ、Ogunのデモ版も付属しているので、気に入ったらOgunを購入するのもいいだろう。また、ミキサーにも多数のプラグインが付属する。目玉は新搭載のボコーダー、Vocodex(画面4)だろう。ボコーダー自体はこれまでも付属していたのだが、今回のものは別次元。最大100バンドで抜群に効きがいい。ピッチ補正的に言葉のはっきり分かる音色から、つぶしたロボ声まで自由に作れる。最近何かと話題のボーカル加工だが、これを使ったサウンドもキャッチーだ。新搭載のエフェクトでは、Fruity Stereo Shaper(画面5)も面白い。一種のフェイズ・シフター/ディレイなのだが、モノラル音源を簡単にステレオ化できるのがいいところ。バッキングのコードをいい感じで拡散させたり、片チャンネルのみのフレーズ・サンプルを広げたりと、いろいろな用途に使えそうだ。これらに限らずFL Studioの音源やエフェクトは目的が見えやすく、パラメーターがはっきりと効くものが多い。従来から搭載されていたイコライザーでも、グラフィカルにドラッグで操作できるはもちろんだが、バックの地の部分に現在のオーディオ・トラックの状態がソノグラフのように表示されるので、どこをどのようにイコライジングしているかをひと目で把握できて、とても分かりやすい。

VSTプラグインとしても動作、ほかのDAWとの併用でも威力を発揮


FL Studioは、それ自体がVSTプラグインとしても動作する。つまり、ほかのDAWにプラグインして、FL Studioの使いやすいステップ・シーケンサーで打ち込んだり、エッジの効いた音色を利用できるわけだ。気になるCPU負荷だが、FLStudio自体が軽いので十分実用になるし、使わないプラグインを省略する新機能、Smart disableも有効だ。しかも太っ腹なことに、ほかのDAWからのクロスグレード・サービスがあるのだが、それを利用した場合でも、元のDAWのライセンスを保持していて良いとのこと。これまでのDAWはそのまま使いながら、格安でFL Studioを追加できるのだ(対象DAWなどの詳細は本ページ下にあるフックアップのWebサイトを参照してほしい)。ここまで見てきたように、FL Studioのグルーブ・マシン的な小回りの良さは、巨大化した現在のDAWではなかなか味わいにくい部分でもある。これを機会に、愛用のDAWにFL Studioをプラグインしてみてはいかがだろうか。もちろん、従来からのFL Studioユーザーにもバージョン・アップ版が用意されている(こちらもフックアップのWebサイトを参照)。これも格安なので先のボコーダーだけでも十分に価値があると言ってもいいほどだが、ミキサー・トラック数が99に増加したり、ミキサー・チャンネルでサイド・チェインが可能になったりと、おいしい機能強化も図られている。そして、これからパソコンを使った音楽制作を始めようとしている人にもお薦めだ。動作が軽く、パソコンに要求するスペックも低いので、とりあえず今使っているマシンにインストールして使ってみることができる。オーディオ・ドライバーのASIO4Allが付属しているので、どんなオーディオ・インターフェースでも使うことができる。操作面でも、とてもとっつきやすく、グルーブ・マシン感覚で適当に触っているだけでトラックができていく。筆者周辺でも、音楽の専門家だけでなく、VJやWebデザイナーなどの人気も高い。あらゆるユーザーが自分にあった使い方を見つけることができ、音楽を作る楽しさが味わえる、そんなソフトだ。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年6月号より)
IMAGE-LINE
FL Studio 9
Signature Bundle:36,750円/Signature Bundleクロスグレード版:23,100円/Fruityloops + DD Club Edition:29,400円
▪Windows/Windows XP/Vista/7(32ビット/64ビット)、2GHz以上のCPU(デュアルコアCPUを推奨)、512MB以上のメモリー(1GB以上を推奨)、1GB以上のハード・ディスク空き容量(3GB以上を推奨)、ASIO対応オーディオ・インターフェース、XGA以上のディスプレイ(SXGA以上を推奨)、CD-ROMドライブ