人間の感性と"同じレベル"で録音できるハンディなDSDレコーダー

KORGMR-2
ハンディ・レコーダーでありながらDSD録音に対応した画期的製品

KORG MR-2 75,600円KORG MR-2は2006年に同社が発売したMR-1の後継モデル。最大の特徴は、ハンディ・レコーダーでありながら、DSD録音が可能であること。この価格でクオリティの高い製品を送りだしたことは、ビッグ・ニュースと言える。

角度調整が可能なコンデンサー・マイクを内蔵


早速箱から取り出してみたが、初めて手にとったときからぴったり手になじむデザイン。サイド・パネルにはラバー製のくぼみがあり確実なボタン操作が可能など、操作性も細部まで見直されている(写真①②)。フロント・パネルのプレイ/ポーズ/1曲送り/1曲戻しの操作には、携帯電話のような丸形十字キーを採用。128×128ドットのバック・ライト付き液晶画面で暗い場所での操作も安心だ。korg_mr2_L▲写真① サイド・パネル(左)。左より誤操作防止ホールド・スイッチ、入力レベル・ボタン×2、ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)、LINE IN端子(ステレオ・ミニ)、外部マイク入力端子(ステレオ・ミニ)korg_mr2_R▲写真② サイド・パネル(右)、左よりマイクの向きを8段階で変えられるダイアル、カード・スロット、USB端子(miniB)、電源ボタン、ボリューム・ボタン 本体上部には正面、上面、裏面へと30度単位で8段階、210度回転する高性能ステレオ・エレクトレット・コンデンサー・マイクを内蔵。MR-1のマイクは接続式だったので、内蔵されたのはうれしい。また、MR-1では内蔵ハード・ディスクにオーディオ・データを記録していたのに対し、MR-2はSD/SDHCカードに記録する。メカニカルなドライブ・ノイズが排除されているのだ。ほかにも、DSDの音質を損なわぬよう高性能に設計されたアナログ・リミッター/ローカット・フィルター/ベースEQを搭載。マイクの感度、入力レベルとこれらの設定を組み合わせた録音用のプリセットも40種類用意されており、クラシック・ホール、ライブ・ハウス、アコースティック・ギター/ピアノなどの楽器録音用からフィールド・レコーディング、会話に適したもの、さらにオンマイク/オフマイクなどシチュエーションに応じて簡単にセットアップできる。ユーザー設定も10種メモリー可能だ。また、435Hz〜445Hzの範囲で1Hz単位のキャリブレーションが可能な高性能クロマチック・チューナーを内蔵しているのも、アイディアを思い付いたら即レコーディングしたいミュージシャンにはうれしい仕様。USB 2.0端子(miniB)を装備しているので、録音したデータはコンピューターに高速転送でき、MR-2をUSBカード・リーダーとして使用することもできる。電源は、単三ニッケル水素充電電池(1,900mAh)2本で連続4時間の録音/再生が可能。さらにUSBバス・パワーにも対応している。

AudioGate 2.0が付属DSDの空気感をCDに封入可能


ここで、本機の特徴的な録音フォーマットであるDSDについてあらためて述べておこう。DSDはDirect Stream Digitalの略で、SACDの録音/再生フォーマット。MR-2で設定可能なサンプリング周波数はCDの64倍の解像度となる2.8224MHz。これを1ビット・データのまま記録し、再生時もアナログ・ローパス・フィルターを通すだけというシンプルな構造のため、原音に近いサウンドが得られる。本機ではDSDのファイル形式を、SACD用のDSDIFF、SONY Vaioなどで使用するDSF、1ビット・オーディオ・コンソーシアムが策定したWSDの3種類から選択可能だ。MRシリーズにバンドルされてきたファイル・フォーマット変換ソフトAudioGate 2.0も、もちろん付属。DSDや24ビット/192kHzのPCMなど高解像度のマスター・ファイルを16ビット/44.1kHzのCDフォーマットや配信用のMP3に変換したり、逆にPCMからDSDファイルを生成するアップ・コンバートも可能だ。Ver. 2.0よりDSDディスクの作成にも対応したほか、ソングの分割/結合/フェード処理/音量調整/LRバランス調整/ノーマライズ/マーカー管理などの編集をDSDを含めたすべての音声ファイル・フォーマット上で行うことができる。 またAudioGateは一般的なTPDFディザに加え、人間の聴感特性にマッチしたKORG独自開発の優れたディザ・アルコリズム"KORG Aqua"を搭載している。これは16ビットのオーディオCDを焼く際、DSDで作成した高音質マスターの空気感を逃さず封じ込めることができる高性能なものだ。こんなところにも電子楽器メーカーのKORGが長年培ってきた、高音質と処理スピードを両立させるノウハウが、随所に生かされていると感じる。

マイク・セッティングの幅は広くナチュラルな音質


それでは、実際に録音してみよう。操作は実にシンプルで、十字キーで録音フォーマットを選択したらRECスイッチを押して録音待機状態に。ヘッドフォンで音を聴きながらインプット・レベルの調整、"REC SETTING"ではマイク感度、ローカット、リミッター、ベースEQを調整できる。また、三脚に固定した状態でマイクを回転させ角度調整ができるなど、セッティングが細かく調整できるところがとてもいい(写真③)。korg_mr2_Stand▲写真③ 本体の底面と裏面にはカメラの三脚などが使える1/4インチのねじ穴を装備今回はWSDと24ビット/192kHzのWAVでアコースティック・ギターの弾き語りをレコーディングしてみた。どちらも空気感のあるナチュラルなサウンドを得ることができたが、奥行きと広がりは、DSDの方が若干優れているように感じた。いずれにしても、これほどの高音質が、ハンディ・レコーダーで、しかも内蔵マイクで実現したという事実は、"録音"という概念が、ついに人間の感性と"同じレベル"に達したことを意味するのではないだろうか。次に音に温かみを出すために、ベースEQを+2dBに設定し、リミッターはSoftを選択してギターのピークを抑えてみた。このリミッターはSoftもHardもソフト・リミッターのように自然にかかるため、楽器の質感、演奏のニュアンスを損なわずにレベルを抑えることができた。 次に、アコースティック・ギター録音用のプリセット"AGtr"を使ってみたが、これもとても自然な音で録音できた。レコーディングに慣れていなくとも、プリセットを基にマイク感度やレベルを調整することで、良い音質で録音できるだろう。ただし、設置場所やマイクの角度決めによってプロとの差は出るかもしれない。録音中の画面表示もピークLED、レベル・メーター、ピーク・ホールドのdB表示があるので、レベル管理は万全。また、フォーマット、カードの残り時間、録音設定などを随時チェックできるのがうれしい。

安定した動作でノイズもなく振動対策を施したボディが高音質を生む


こDSDは演奏の空気感/リアリティがそのまま録音できる。サウンドは柔らかいのに立ち上がりが速く、つやがある。また低域は透明感があり、高域はEQしなくても十分に抜けてくる。 アナログ・レコーダーやPCMフォーマットで録音されたサウンドには何かしらの変化が加わるので、そのキャラクターを(もちろん良い方向に)生かすよう録音方法を工夫する必要がある。それに対しDSDレコーディングは、録音後のニュアンスの変化が極めて少ない。つまりアーティストの繊細な演奏を"聴こえたままのサウンド"で録れるのだ。自分好みのサウンドにしたければ、後から調整すればよい。サイデラ・マスタリングでは、現在ほとんどのマスタリングがDSDで行なわれている。レコーディングももちろんDSDで、MR-2000Sをはじめ、MR-1000、MR-1と臨機応変。マスター音源がCDやDATでしか残っていない場合も、(企業秘密だが)最初にデータをAudioGateで5.6MHzのDSDにアップ・コンバートしてからアナログ領域でEQ/コンプレッサーで処理することで、音源の空気感/ニュアンスを最大限に引き出すことが可能になる。DAWでのミックスでは最終的にデータをバウンスすることで音色が若干変化することはよく知られている。そこで、マスターの2ミックスを外部のDSDレコーダーで録音すれば、モニター・アウトのサウンドをほとんどそのまま録音することができる。もちろんADの前にアナログEQやコンプレッサーを通したり、アナログ・レコーダーを通して、そのアウトを録音することも可能だ。レコーディング・スタジオとマスタリング・スタジオではアナログ・レコーダーの個体が違うので、これまではレコーディング・スタジオと厳密に全く同じサウンドをマスタリング・スタジオで再現することはできなかった。それも、レコーディング・スタジオにMRシリーズを持ち込んでアナログ・レコーダーのアウトを録音し、マスタリングの場で再生すれば、いとも簡単に実現する。これはすごいことだ。僕はKORGのMRシリーズをほぼ毎日使っているが、どの個体でもデータ・エラーやノイズが発生したことが一度もない。安心して録音できることはプロにとって必須とも言える条件である。オーディオ的にも、細部にまでこだわり抜かれた設計が施されている。MRシリーズのクリアで奥行きのあるサウンドは、美しく頑丈なボディが大きく影響している。オーディオ機材はパーツの振動を抑えることで透明感と密度の高いサウンドを再生することが可能だが、この価格で振動対策をやってのけたKORGは本当にすごい。MR-2は、MR-1、MR-1000、MR-2000SなどMRシリーズのノウハウがすべて生かされた完成度の高いモデルだ。この機会に、1人でも多くの方にDSDの音の世界を体験してもらいたい。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年6月号より)
KORG
MR-2
75,600円
▪トラック数/2トラック▪録音フォーマット/MP2(48kHz@128/192/256/320kbps)、MP3(44.1kHz@128/192/256/320kbps)、WAV(44.1kHz@16/24ビット、48kHz@16/24ビット、88.2kHz@24ビット、96kHz@24ビット、176.4kHz@24ビット、192kHz@24ビット)、DSDIFF/DSF/WSD(すべて2.8MHz@1ビット) ▪録音時間/16時間@16ビット/44.1KHz(4GBのメモリー・カード使用時)、最長連続録音5時間59分59秒999▪使用可能カード/512MB〜32GBのSDカードおよびSDHCカード ▪周波数特性/10Hz〜20kHz±1.5dB(@44.1/48kHz)、10Hz〜100kHz(@1ビット) ▪SN比/90dB(標準)@IHF-A ▪全高調波歪率/<0.018% ▪外形寸法/60(W)×28(H)×133(D)mm(突起物含む )▪重量/135g(メモリー・カード、電池含まず)