PCMシリーズの技術を用いた待望のLEXICONリバーブ・プラグイン

LEXICON PROPCM Native Reverb Bundle
デジタル・リバーブの代名詞的存在が放つプラグイン・リバーブ

LEXICON PRO  PCM Native Reverb Bundle  207,900円


"LEXICON(レキシコン)"......その名を知らない人は居ないだろう。プロにとっては日々の仕事の道具として、また入門者にとってはあこがれのブランドとして。同社は、デジタル・リバーブの代名詞ともなっている名機を世に送り出してきた。スタジオのスタンダードとなった480Lや960Lをはじめ、PCM60/70/80/
90。私のKim Studioでもそれらは愛用され続け、今も私のミックスでは、使用されない楽曲を探す方が難しい程だ。そのLEXICONが、満を持してプラグインのリバーブを発表したのだから、興味がわかないはずがない。それどころか胸が高鳴ってしまう(笑)。実はLEXICONがDAWに対応したのは初めてのことではない。MacがNuBusスロットを採用していたころはNuverbというNuBusボードがあり、Mac OS 9対応のLexiVerbというTDMプラグインも存在した。私はそれらを使い続けたいが故に、Mac OS 9システムを残していた。バージョン・アップすればコスト的にははるかに有利なことを知りながらも、その魅力のために、Mac OS X用のDIGIDESIGN Pro Toolsをもうワンセット別に導入したわけだ。そんな読者もいらっしゃるに違いない。そうした方々にとってはもちろんだし、高価なハードの購入をためらっていた方にも、待ちに待ったプラグインのリリースと言えるだろう。


 

7種類のアルゴリズムを用意リバーブ効果がディスプレイで確認できる


 

本パッケージは、異なったアルゴリズムを持つ7種類のリバーブ・プラグインで構成される。Vintage Plate、Plate、Hall、Random Hall、Concert Hall、Chamberがそれだ。そして合計950を超える充実したプリセットが即戦力として備わり、プリセットごとに3〜8のカテゴリーで分類され、目的のサウンドに簡単にたどり着ける。クラシックからポップ・ミュージックまで、またホールや部屋のシミュレーションから個別の楽器にふさわしいエフェクト、そしてノンリニアと死角が無い。対応するプラグイン・フォーマットはRTAS、Audio Units、VST。MacでもWindowsでも使うことができ、認証はiLokキーで行うことになる。


では、パネルを見ながら簡単に説明していくことにしよう。画面上のCATEGORYとPRESETのプルダウン・メニューでは、先述したプリセットをカテゴリー別に簡単に呼び出せるようになっている。その下は、リバーブ処理後のサウンドをリアルタイムで表示するグラフィック・ウィンドウで、3種類の表示モードが用意されている。本ページ上にある画面は"マルチバンド・ディスプレイ"時。リバーブ後のサウンドを5つの周波数帯域に分け、それぞれの信号レベルをエンベロープ表示してくれる。サウンド・イメージを把握しやすいディスプレイだ。画面①は、36の帯域でスペクトラム・アナライザー的に表す"周波数ディスプレイ時"。ちなみに、この2種類は音域を色彩で表現しており、光の波長と同じで周波数の低い音が暖色系、高い音が寒色系となっている。さらに画面②は残響感を時間軸で波形表示する"インパルス・ディスプレイ"だ。この3つの表示がワンクリックで切り替わるので、視覚的にとらえやすく、目的のサウンドを作り出すのを助けてくれる。グラフィック的にも美しくて見ていても楽しい。


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▲画面① 36の帯域でスペクトラム・アナライザー的にリバーブ処理後のサウンドを表す"周波数ディスプレイ"。音域を色彩で表現しており、周波数の低い音が暖色系、高い音が寒色系となっている


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▲画面② 残響感を時間軸で波形表示する"インパルス・ディスプレイ"時。単一インパルスの応答レベルを表す。波形表示によって時間的なダイナミクスの変化が分かりやすい


その下には9つのスライダーが用意されており、プリディレイやリバーブ・タイム、ディフュージョンといった9種類のパラメーターを瞬時に変更していくことができる。しかも、その9種類よりもさらに深い階層が用意されており、パラメーターが最も多いVocal Plateで72種類、最小のRoomでも44種類と、非常に細かいエディットが可能。これらもプリセット同様、適切に分類されているので、探す時間も掛からず、また、細かな設定を生かしつつグローバルに変更できる階層構造になっている。分類は、例えば"Input&Mix""Reverb""Reflection""Echoes"などの階層があり、その中の1つである"Reverb"の"RT HiCut"ではハイカットの減衰カーブを"Light Dumping""Normal Dumping""Heavy Dumping"の3種類から選べたり、逆に"BassRT"では低域を膨らませるように設定も可能。この辺りはLEXICONが従来のハードで培った技術で、現場でも非常に重宝する。


パラメーター・エディットは、480LのコントローラーLARCに慣れたエンジニアなら違和感が無いだろうし、その適切さと分かりやすさから初心者も簡単に扱えるだろう。私は幾つかのリバーブでプリセット作りのお手伝いもしてきたので、リバーブをかなり深いレベルでコントロールする知識と経験があると思うが、その観点から見ても非常に良くできている。無論、すべてのパラメーターはストアとオートメーションが可能だ。


さらにパネル右にはビジュアルEQセクションも備えている。リバーブとアーリー・リフレクションのそれぞれに対して用意されたEQカーブが、前者は赤、後者は青のラインでビジュアル表示される。両者に対してフィルターの種類(ローパス/ハイパス/バンドパス/ノッチ)を選んだり、3〜4個のノブによって、シンプルかつ大胆に目的とするEQ設定が行える。リバーブとアーリー・リフレクションにEQが個別設定できる点は秀逸で、外部EQを組み合わせることではなし得ない、自然な効果や特殊な効果も可能となる。


LEXICONの伝統を継承したサウンドRandom Hallアルゴリズムが秀逸

さて、肝心の使用感だが、さすがに35年以上の歴史を誇るLEXICONだけに"使える!"の一言。逆に、ジャンルや楽器によって適切なでなければ、いくらリアルなリバーブでも使えない。同じストリングスでも、クラシックとポップスでは、求めるサウンドが大きく異なる。前者はリアルさを求め、後者はボーカルを邪魔しない広がり感だ。ゴージャスでありながらも、和音を濁さず、シャープなリズムをもたつかせないというのは、サンプリングや机上の理論では作り出せない経験が必要となる。鳴り物入りで登場したサンプリング・リバーブでは、インパルス応答においては非常にリアルながら、意外にも音楽には不向きで、物足りなかったとういのが私の実感だ。


その点をLEXICONはしっかりと理解している。ボーカルのバックに配置されたストリングスは、"Wide Hall"をかけることでセンターにいる主役を包み込んでくれる。一方ボーカルには、ツヤとピッチの安定感を与える"Vocal Plate"が用意され、パーカションには欠かせない"Slap Chamber"、MAには必須な"Live Room"などのプリセットを用意。さらに残響の規則性を排したRandom Hallアルゴリズムは、私のお気に入りだ。アルゴリズムとプリセットの充実は、長い歴史と多くのプロ・ユーザーを持つ同社だからこそなせる業なのだろう。


480Lと比べてもパラメーターは充実していると思うし、LexiVerbよりもはるかに進化している。サウンド・コントロールも目的の音に実にスムーズにたどり着けるだろう。その最大の理由は豊富なプリセットだが、そのモディファイも適切なパラメーター設定によって、極めて簡単だ。EQにしても、カーブを見ながら変更できるので、従来のように耳だけに頼ったコントロールに比べると分かりやすく、操作性は良い。


なお、今回はPro Tools│HDのRTASプラグインとしてチェックしたが、センド&リターンで使う際に、レイテンシーに悩まされたことも報告しておこう(コンピューターは一世代前のMac Proを使用)。それ故、生録り時にセンド&リターンでかけるのは厳しいかもしれないという感想を持った。ただし、オーディオ・トラックにインサートする形ならレイテンシーは全く問題無い。マシン・パワーが許される範囲で複数のトラックへインサートすれば、ミックスで使うこともできる。換言すれば、このバンドルを入手すれば、何台もの"LEXICONリバーブ"を手に入れることになると考えると、高根の花だったハードウェアと比較してもコスト・パフォーマンスは非常に高い。


昨今のプラグインの価格からすると、決してリーズナブルとは言えない本製品だが、名機480Lや960Lに近いサウンドが手に入るなら、またセッションとともにストアとオートメーションができる使い勝手の良さを考慮したなら、充実の内容だろう。ちなみに、かのLexiVerbがTDM版だったので、個人的にTDM版リリースの可能性も高いに違いないと大きな期待をしている。同社のHP(www.lexiconpro.com)ではデモ版として、7日間無償でフルスペックの本製品をダウンロードすることが許されている。ぜひ一度、そのサウンドと使い勝手を試してみることをお勧めしたい。


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年6月号より)


  
LEXICON PRO
PCM Native Reverb Bundle
207,900円
▪Mac/PowerPC G5 1.8GHzもしくはIntel Mac、Mac OS X 10.4.10以降、1GB以上のRAM、500MB以上のハード・ディスク空き容量、1,280×800以上のディスプレイ解像度、コンボもしくはスーパー・ドライブ、Audio Units/VST2.4以降/DI GIDESIGN Pro Tools 7.3以降 ▪Windows/1.6GHz以上のINTELもしくはAMDプロセッサー、Windows XP/Vista/7、1GB以上のRAM、100MB以上のハード・ディスク空き容量、1,280×800以上のディスプレイ解像度、VST2.4以降/Pro Tools 7.3以降