イギリス老舗メーカーの4ch仕様のPA用コンプレッサー/リミッター

KLARK TEKNIKDN540
ブリティッシュ・スピリットが息づく機能、音質ともに素晴らしいの一言

KLARK TEKNIK DN540 252,000円先月号で取り上げたのは同社のノイズ・ゲート専用機DN530だったが、今回はそのコンプ版だ。ステレオ・リンクも可能な4ch仕様のコンプレッサー/リミッター、DN540をレポートしていこう。

ブリティッシュ・スピリットが息づく機能、音質ともに素晴らしいの一言


前回のDN530と同様に、4ch仕様で、価格も同じ、パネル上のつまみのレイアウトも、ゲートとコンプの違いはあれ、同じところに同じような役割を受け持つノブが配置されている。両機とも、実際に操作していく順番にノブが並んでいて、とても操作しやすい。基本的な操作子は、いわゆる通常のコンプレッサー/リミッターと変わらない。操作部はコンプレッサー・セクションとスイッチ・セクションに分かれている。コンプレッサー・セクションには−50dBから+25dBのTHRESHOLD、1:1から∞:1までのRATIO、0.1msから20msに対応したATTACK、50msから2sに対応したRELEASE、そして後述するPRESENCE、GAINの6つのコントロール・ノブと、BYPASS、そしてソフトニーとハードニーを切り替えるHARDの2つのボタンから形成されている。スイッチ・セクションは、アタックとリリースの設定を自動的に行ってくれるAUTO、モニター用レベル・メーターの入出力を切り替えるMTR I/P、サイドチェーン用のEXT、隣接する右のチャンネルにリンク可能なLINKの4つからなっている。リア・パネルに関しては筐体がDN530と同じものが流用されているらしく、SOLO BUS部は使用されておらず、サイドチェーン用の入力(TRSフォーン)と入出力(XLR)が4つ並んでいる。使われているパーツ類も一級品で固められているようで、事実、使ってみた感想は機能、音質ともに素晴らしいの一言。多くの音響技術、ミキシング・テクニックを発明/完成させてきた、ブリティッシュ・ロック・スピリットが息づくというか、稜線のハッキリしたイギリス英語を再生するように開発されたというか......あくまでも音作りの道具としての評価である。

5kHz付近を増強するプレゼンス・コントロールを搭載


さて本機はクリエイティブ・クアッド・コンプと命名されている。どのようなところをメーカー自ら"クリエイティブ"と名付けたのだろう?まず、コンプレッサーとしての基本的機能、性能は申し分ない。良いパーツを正しく用いた機器は本機のみならず、経験上このような感触を持つ。あえて評価するならば、ツマミの回転角とパラメーターの変化具合が、聴感とうまくシンクしていて、音のポイントをつかみやすいことが挙げられるだろう。例えばRATIOノブの1:1〜2:1(低レシオ)、2:1〜5:1(中レシオ)、5:1〜∞:1(高レシオ)が、それぞれ同じ回転角で変化する。ほかのパラメーター・ノブも同様で、回した感じと聴いた(効いた)感じがシンクロするのが、とても良い。初心者にも扱いやすいと思うが、どんな設定でも使えそうな音に聴こえてくるので、何を、どんなポイントを選ぶかが重要になりそうだ。そして本機の"クリエイティブ"な特徴である、PRESENCEコントロール。これは5kHzを中心とした帯域を付加する機能だ。特にハードなコンプレッションを施した場合に失われがちな帯域を、最大20dBほど補充することが可能になる。従来この効果を得るためには、サイドチェーンに逆補正カーブのEQを挿入して、簡易マルチバンド・コンプのような動作をさせて作っていたのだが、本機の場合、原音信号からプレゼンス域を取り出し、コンプされた音にミックスするという方法を採用している。回路内での信号遅延が起きないアナログ機ならではの芸当ではないだろうか? なぜそうできるかは誌面の都合上省略するが、ハウリングを起こすリスクが増えたりしないし、コンプが効けば効くほど、本回路の効きも増えてきて、きわめて都合がよいのだ。ああ〜、アナログ卓でミックスするとき、24チャンネルを使って行ってきたマル秘テクニックを、ツマミ1つで実現できるようになってしまった。同様の機能を持つほかの機器も見受けられるが、DN540のそれは別格だった。優等生で、一芸にも秀でているにくいヤツなのである。本機のレポート中、人気のウィスパー・ボーカル・バンドの現場に出くわした。この日はボーカルの位置とドラムが近く、ボーカル・マイクへのシンバルのかぶりが大きく難儀した。こんなとき本機が使えれば、ボーカル・マイクへのPRESENCE域はあらかじめ押さえておいて、シンバルのかぶりを減らし、歌い始めてコンプが効き、PRESENCEが効いてメデタシメデタシにしたかった......のだが、デジタル卓はインサートが苦手で断念。デジタル卓でインサート・ポイントを作るのは、コスト的にも技術的にも大変なのは分かるのだが......。今後もう少しデジタル卓とアナログ卓は歩み寄るべきでは。KLARK TEKNIKと同グループのMIDASさん、よろしくお願いします!

▲リア・パネル。左から電源部(100〜240Vに対応)、そして4つの外部サイド・チェイン用入力(TRSフォーン)と出力/入力(XLR)が並ぶ。SOLO BUSはDN530と筐体が同じため閉じられているのが分かる


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年4月号より)
KLARK TEKNIK
DN540
252,000円
▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪ダイナミック・レンジ/116dB(22Hz〜22kHz unweighted)▪全高調波歪率/0.05%未満▪外形寸法/483(W)×445(H)×305(D)mm▪重量/4.6kg