2機種のPULTEC EQのモデリングとプリアンプを統合したプラグイン

NOMAD FACTORYPulse-Tec EQS
PULTEC EQの2つのEQを1つのプラグインに統合。生楽器ではアコースティック感が増し、トータルEQでは自在な音作りが可能。

NOMAD FACTORY Pulse-Tec EQS 12,390円今回レビューするPulse-Tec EQSは、1960〜70年代の機材を意識して真空管回路のモデリングをしたプラグインを数多く作っているNOMAD FACTORYからのリリースで、PULTECのEQP-1AとMEQ-5という2種のEQを1つのプラグインとして使用できるもの。現在PULTEC EQをモデリングしたプラグインは各社からかなりの種類が出ていて、本製品は後発。果たしてそれらのプラグインとの違い、そして実機との音の違いはいかに? 今回はその辺りのポイントを中心にチェックしてみたいと思います。

PULTEC EQの2つのEQを1つのプラグインに統合


まずは若干の説明をしておくと、実機のPULTEC EQは真空管EQ。周波数帯違いで幾つかの機種があり、それらはPULTEC EQと総称され、本プラグインでモデリングされている2機種が有名です。特にEQP-1Aは同じ周波数を同時にブースト/カットするユニークな機能(レゾナンス・ローシェルフ・ブースト)を持ち、その組み合わせで独特な効果を生み出せます。現在のコンソール・メーカーでも、そのようなPULTEC EQの考え方を取り入れたコンソールやアウトボードの回路をデザインした機種があることからも、名機の一つであることは間違いないでしょう。そして今回試したPulse-Tec EQSは、RTAS/VST/Audio Unitsに対応のプラグインで、Windows/Mac両対応(iLokキーが必要)。ステレオ/モノどちらのソースでも使用できます。その構成を見ると、上段部にMEQ-5、中段部にEQP-1A、下段部にプリアンプPre-2Sという3つのアウトボードを1つにしたデザイン。実機はシルバーと薄いブルーのものを見かけることが多いですが、本プラグインのカラーは後者で、しかも使用感タップリな風合い。遊び心のある凝ったデザインとなっています。仕様として、MEQ-5は低域のブーストは0〜10dBで5つの周波数帯域(200Hz〜1kHz)から選択、中域のカットは0〜−8dBで11の周波数帯域(200Hz〜7kHz)から選択、高域のブーストは0〜10dBで5つの周波数帯域(1.5〜5kHz)から選択。中域のコントロールができるシンプルなEQです。続くEQP-1Aは、4段階のシェルビング・ブースト(0〜13.5dB)、4段階のシェルビング・アッテネーション(0〜−17.5dB)、7段階のピーキング・ブースト(Qカーブ間変で0〜18dB)、3段階のシェルビング・アッテネーション(0〜−16dB)、そしてBANDWIDTHツマミでピーク・ブースト幅を調整可能とワイド・レンジなEQ。そして最下部のプリアンプ部は、システム全体の入出力をそれぞれ−18dB〜+18dBコントロールすることができ、VUメーターも搭載。音量の上下を調節したり、不必要なひずみを回避するためのオリジナル・デザインです。そして各段にあるON/OFFスイッチでバイパスも可能。またオリジナル機能としては、実機の特性を再現するために両EQ部に設けられたVintageスイッチと、Pre-2Sに設けられたソフト・ニー・リミッターを有効にするClipperスイッチがあります。

生楽器ではアコースティック感が増し、トータルEQでは自在な音作りが可能


では音を聴いてみましょう。DIGIDESIGN Pro Toolsで、実際に録音したピアノ、アコギ、ウッド・ベース、バイオリンなど幾つかの楽器でチェックしてみたところ、いずれの楽器にも言える共通点として、それぞれのアコースティック感が増す印象です。特に中低域のブーストは、音の重心がより低くどっしりとしたサウンドになり、また中域のブースト/カットによって、かなり自在に音作りが可能だと思いました。続いて、ストリングスやドラムなど複数の生楽器をまとめたトラックで試しました。高域の倍音をコントロールすることでワイド・レンジなサウンドにもなるし、高域をシェルビングでカットすることで古めかしいサウンドを作ることもでき、楽曲や演奏に合わせた積極的な音作りが可能となります。またマスター・トラックへのトータルEQとしても、予想通り自在な音作りができました。どちらか1台では複雑な音作りには向きませんが、MEQ-5とEQP-1Aを合わせた本プラグインは、想像以上にストレス無い音作りを実現させています。続いて、私が実機を使うときに多用するエレキベースやシンセの低域をブーストするときのセッティングもチェック。通常、低域をブーストすると途端に音量が上がるのでブースト前に少し入力レベルを抑えます。だからプラグインEQインサート時には前段でコントロールする必要があるのですが、ここでPre-2Sが大活躍。システム内の音量をコントロールできるので、いきなりピーク・メーターに赤が付く事態が避けられます。またギリギリの音量時にはClipperスイッチも有効です。最後に私が所有している実機と比較したところ、EQの効き具合はかなり本物と近い感じを受けました。さらにVintageスイッチを入れればより風合いが近づきます。ただしゲイン・ノブの位置は若干ずれるような印象。とは言えそもそもdB表記をしていないので、この辺りは個体差や経年変化も含めると大体で良いのかもしれません。そして一番の実機との違いとして、数十分〜数時間に及ぶ真空管のウォーム・アップが必要無いことと、必要に応じて何基でも使えるというプラグイン特有の魅力をあらためて感じました。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年4月号より)
NOMAD FACTORY
Pulse-Tec EQS
12,390円
▪Windows/Windows XP(32ビット)、Vista(32ビット)▪Mac/Mac OS X 10.4/10.5/10.6(Power PC、INTEL)※Windows/Mac共にiLokキーが必要