「NEUMANN TLM102」製品レビュー:小型ボディで伝統の音色を継承した単一指向性コンデンサー・マイク

 今回レビューするのはNEUMANNのTLMシリーズの最新プロダクト、単一指向性コンデンサー・マイクTLM102です。なんと言っても驚きなのは69,800円というプライス。この価格帯での同社製品はこれまで無かっただけに、NEUMANNの戦略的意味合いを感じさせるモデルです。とはいえエントリー・モデル的なプライス・レンジでありながらTLMシリーズにラインナップされているということからは、決してアマチュア向けにコスト・ダウンしただけの製品ではないという同社の姿勢が感じられます。現在この価格帯のコンデンサー・マイクの購入を考えている方にとっては最有力候補となっているであろうTLM102が"使える一本" なのか、しっかりレビューしてみたいと思います。

小さいボディでもしっかりした作り
吹かれや振動を防止する内部構造

 TLM"は"Tranceformerless Microphone"の略です。トランスレスのマイクロフォンは一般的に過渡特性が良いと言われていて、その立ち上がりの良さが大きなキャラクターの一つとなっています。TLMシリーズはNEUMANNの歴史の中では比較的新しいラインですが、現在では多くのラインナップがあり、TLM102はその末っ子的な位置付けになるわけです。

 私が初めてNEUMANN TLMシリーズの音を聴いたのは、TLM50というマイクのサウンドでした。TLM50は球形の特殊なカプセルを使用した無指向性マイクロフォンですが、その時に聴いた距離感やエア感も十分に感じさせながら、トランジェントをクリアにとらえるサウンドは衝撃でした。それからというもの、オフマイクが有効なソースの録音には必ずと言ってよいほどTLM50を使ってきました。

 手元に届いたTLM102の実機は驚くほどにコンパクトでした。ラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイクでは一、二を争う小ささでしょう。手のひらにすっぽり収まってしまうくらい。おかしな表現ですがとてもかわいいです。細部の作り込みはさすがNEUMANN。例のひし形のエンブレムもしっかり入っています。そしてさりげなく刻まれているのがMade In Germanyの文字。クオリティには妥協しない姿勢を感じます。そのせいかとても頑丈そうなボディでケーシングも分厚く、余分な共振も少なそうです。この辺りは音色にも関係してくるところですが、例えば二回り大きなボディで同じ比率の厚みのケースにすると、とても重たく、使いづらいマイクになってしまうでしょう。ボディを小さめに設計することで高い剛性を確保する設計なのかもしれません。

 また、カプセルを覆うグリル部分は二重メッシュ構造になっており、内側には吹かれ防止のスポンジが仕込まれています。外部のウインド・スクリーンが無くても使用できそうです。付属品はマイク・ホルダーのみで、ショック・マウントは付属しませんが、本機はカプセル部分が本体や基板と構造的にアイソレートされています。つまり振動の影響を受けにくい設計になっているわけです。この辺りが簡単に使い始めることができるようにというエントリー・ユーザーへの気遣いでしょうか。もちろん別売りのショック・マウントも用意されており、ほかのTLMシリーズやM149などと共通のEA1(31,500円)というモデルが使えます。本機の指向性は単一指向性のみ(図1)。

図1 TLM102の指向性グラフ

 カプセルは新規開発されたもののようです。しっかり伝統の1インチ・ダイアフラムですが、見たところシングル・ダイアフラムで、ダイアフラムの固定はリングによる固定ではなく接着のみになっているようです。工業技術の進歩によるものでしょうか。この辺りは大きく音色に影響しそうです。周波数特性は下は50Hz、上は16kHzくらいからなだらかにロール・オフしていますが、本機の特徴は6kHzからのシェルビング・カーブ的に盛り上がっているピークだと思います(図2)。また電源は48Vのファンタム電源を使用します。

図2 TLM102の周波数特性グラフ。6kHz以上の高域が持ち上がっているのが分かる

ひずみにくく輪郭のしっかりした出音
タイトでパンチの効いたキャラクター

 さてお待たせしました。いよいよ実際にさまざなソースでその実力をチェックしてみましょう。まずは男性ボーカルで試してみました。比較対象はNEUMANN U87AIと、同じトランスレスということでAKG C414B TLIIも立ててみました(写真1)。

写真1 テスト時のセッティング。一番上がTLM102で、その下が同じくNEUMANNのU87AI、左がAKG C414B TLII。レビュー中では言及していないが、右はC414B TLIIとの比較用に立てたAKG C414EB

 マイクプリはAMEK System 9098 EQです。ひとまずコンプレッサー無しで聴いてみると、結構びっくりしました。とても抜けが良く粒立ちの良いサウンド。U87AIと比較すると若干音像は小さめですが、前面に出てくる押し出しの強さがあり、ボトムもだぶつかずしっかりタイトに迫ってきます。オン気味に歌ってもらったときも低域が過剰になることはありません。ちなみにウインド・スクリーン無しでも吹かれはほとんど気になりませんでした。キャラクターとして際立っているのはやはり高域の特性で、非常に抜けが良いです。オケの中で埋もれてしまうことは無いでしょう。

 UREI 1176で3〜5dBほどコンプレッションすると、よりクリスピーでパワフルな印象。アタック感がとても心地よく、EQやコンプなどの後処理もやりやすいでしょう。ロックやポップスにとても向いていると思います。試しに強烈にハード・コンプしてみましたが、音やせする感じはあまりありません。この感じはTLMシリーズに共通して感じられるキャラクターです。SN比も良好で、U87AIほど出力は高くありませんがなかなかのハイゲインです。ちなみに本機は144dBという高SPLを誇ります。なかなかひずみません。この辺りは初心者にも扱いやすいポイントだと思います。

 C414B TLⅡとの比較でもなかなか健闘しています。中高域から高域にかけての伸びが良く、NEUMANNらしい中域〜中低域のハリもしっかりと出ています。今回のボーカリストにはC414B TLIIよりハマっていました。中低域から低域に関してはU87AIほどファットではありませんが、よりタイトでパンチの効いている印象です。

 ここでふと思いたちマイクプリをSystem 9098 EQからNEVE 1073に換えてみました。すると重心が下がって低域の存在感が増し、倍音が強調されたことでさらに輪郭がはっきりしてきました。こちらの方がマッチングが良さそうです。TLM 102は比較的クリアでタイトなキャラクターなので、色付けが欲しい場合、マイクプリにキャラクターがはっきりしたものを使うことでサウンド・メイクがやりやすくなるでしょう。こうした違いがはっきり出るのもマイクからの情報量が十分であるからだと思います。NEVEを通して確信しましたが、本機は安価ながらもれっきとしたNEUMANNのマイクロフォンです。そのサウンド・キャラクターはしっかりと息づいています。

明るくスムーズなトーンで楽器のオンマイクでも好印象

 続いてスティール弦のアコースティック・ギターで試してみました。ストロークでのプレイですが、高域は明るくスムーズで低域ももたつかずスピード感が感じられます。低域もタイトながら前面に出てくれるので存在感も十分。渋く枯れた音色には向いていないかもしれませんが、エッジがありながらスムーズなトーンという感じです。NEUMANNの中では比較的珍しいキャラだと思います。

 一方、オフマイクでのセッティングではU87AIと比較するとやや弱い印象です。距離感は表現しますが比較的フォーカスがにじんだ印象。弱音楽器へのオフマイクですから感度の違いがでてしまったのかもしれません。まあ4倍以上の価格差ですから無理も無いでしょう。

 さまざまなマイキングを試していて気がついたのですが、このコンパクトさはセッティングにおいて大きなアドバンテージとなりそうです。アコギやボーカルでも、大きいマイクだとプレイヤーが威圧感を感じる場合もあるようですし、物理的にドラムのマルチマイク集音時にはとても助かるでしょう。スネアやタムへのオンマイクも楽勝ですね。今回残念ながらドラムは試せませんでしたが、スネアの上下にTLM102をマイキングして試してみたいと思いました。太くて抜けの良いスネアが録れそうです。オーバー・ヘッドにも最適でしょう。この価格なので奮発してステレオペアで購入するのもアリですよね。ぐっと使用範囲が広がると思います。

 今回はさらにコンガなど皮もののパーカッションで試してみました。これは結構バッチリはまっていましたね。結構深めにコンプレッションしてもべったりしてしまうことはありませんでした。本機にはローカットやPADスイッチはありませんが、PADが必要になるシチュエーションはあまり無いでしょう。もちろんローカットはしたくなる場合は多いと思いますが、そこはEQや出音で調整すればいいという割り切り方によって、思いきってコスト・ダウンを図ったのでしょう。

 ここ数年、このプライス・レンジは非常に充実していると思います。最もユーザー層が厚いレンジだけに、各メーカーも気合いを入れて製品開発しているのがよく分かります。コンデンサー・マイクのコスト・ダウンが進み、高級ダイナミック・マイクとの価格差はもはやありません。新興メーカーはもとより、NEUMANNやAKGのような老舗ですら企業努力を進めています。そしてそこには妥協は感じられません。その意味で本当に良い時代だと思います。読者の皆さんはショップに出かけて先入観無しで片っ端から試聴してみることをお薦めします。その中で本当に自分の音楽に合うマイクを見つけてください。もちろん今回テストしたTLM102は、その中でも間違いの無い選択であることは保証できる、素晴らしいコスト・パフォーマンスを誇る製品であると思います。

撮影/川村容一(メイン写真)

NEUMANN
TLM102
69,800円
▪指向性/単一指向▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪感度(1kHz/1Ω)/11mV/Pa▪インピーダンス/50Ω▪ロード・インピーダンス/1kΩ▪等価ノイズ/21dB(CCIR)、12dB(A-Weighted)▪SN比/73dB(CCIR)、82dB(A-weighted)▪最大入力音圧レベル/144dB(THD=0.5%)▪最大出力/13dBu▪動作電圧/48V(±4V)▪消費電流/3.5mA▪外形寸法/52(φ)×116(H)mm▪重量/260g▪付属品/SG2(専用マイク・ホルダー)▪オプション/EA1(専用ショック・マウント:31,500円)