ハムバッカー搭載ギターの甘く太い音色と奏法を再現するソフト音源

MUSIC LABReal LPC
複雑なMIDIプログラミングは不要で、さまざまな奏法や演奏時のノイズも再現。アンプ・シミュレーターとの組み合わせでリアルなひずみ系サウンドを獲得。

MUSIC LAB Real LPC オープン・プライス(市場予想価格/29,925円前後)キーボードやMIDIプログラミングで驚くほどリアルなアコースティック・ギター・サウンドを作り出すことができるMUSIC LAB Real Guitar 2Lは、サンプリング音源でギターを再現する決定版のソフトウェアと言える。鍵盤はギターの構造とは根本的に違うので普通に演奏しても決してギターらしい演奏ができないが、Real Guitar 2Lではギターの奏法、音が鳴る構造まで徹底的に追求した発音方法で、ギターと変わらないサウンドを再現した。その後、同エンジンでのエレキギター・バージョンReal Stratが、そして今回シリーズ第3弾としてGIBSON Les Paul Customのサウンドを再現したReal LPCが発売された。そのハムバッキング・ピックアップのサウンドはReal Stratのシングル・コイルとは違ったキャラクターだ。ここではそのサウンドとともに、Real Guitarシリーズ全体のギター表現、発音の方法の素晴らしさについても詳しく解説していこう。

複雑なMIDIプログラミングは不要 さまざまな奏法や演奏時のノイズも再現


ギターをMIDIプログラミングで再現するとき、たとえどんなに忠実に音をサンプリングしても、フレーズを演奏させるとどうしてもリアルな感じにならないという経験があるだろう。そもそも鍵盤楽器とは構造も奏法も違う。それを理解しないで鍵盤でフレーズを考えているとどうしてもこの壁を越えることができなかったはずだ。もちろん弦楽器の特徴を理解していれば、プログラミングでもリアルなギター・サウンドをある程度再現できるにはできるのだが、これはもうコツコツと地味な作業で、こだわりまくりの過酷なプログラミングになってしまう。そしてリアルタイムの演奏ともなれば至難の業。もっと簡単に、しかもギターの知識が最小限でもリアルなギターを再現できないだろうか?ということで考えられたのがこのReal Guitarシリーズであり、Real LPCなのである。基本的には多数のギターに関する奏法がサンプリングで収録されている。例えば通常のピッキ
ングによる奏法(フルレングス)、フレット・ハンド・ミュート(左手)、ブリッジ・ミュート(パーム・ミュート/右手)、ハーモニクス、ピッキング・ハーモニクス、スクレイブ(弦をこする奏法)、フレット・ノイズ、リリース・ノイズ、ピック・ノイズ......と書いただけでもかなりの豊富な内容だが、ただこれを不親切に配置されているだけでは結局細かいデータ作りが必要になるし、それに近い製品は今までにもあった。Real LPCではこれらをリアルタイムにキーボードで演奏できるほどシンプルにまとめあげていて、切り替えて、あるいは組み合わせて演奏することができるのだ。

ギターのフィンガリングを自動再現 コードのポジションも指定可能


Real LPCにはSolo、Harmony、Chords、Bass&Chord、Bass&Pickという5つのパフォーマンス・モードが用意されている。まずSoloはリード・ギター=メロディ演奏用で、MIDIノート情報と同じように音が鳴る。その場合も同じ弦で使用する音は一つしか鳴らないように設定されている。また高い音から低い音に移動するフレーズを演奏するときに、単純に同じ弦で低い音に移動するのではなく、その近辺のフレットで別の弦を演奏した音になるようにフレット・オート・ポジションという機能を使用することもできる。同じ音でも細い弦の低いフレット・ポジションの音と、太い弦の高いフレット・ポジションでは随分と音が違うのだ。さらにベロシティの違いやサステイン・ペダル、ホイールやベンド、さらには後述するKeySwitchesで設定したノートを押すことで、ハーモニクスやミュート、スライドなどさまざまな奏法に切り替えることが可能となっている(画面1)。▲画面1 Soloモードでは、ベロシティやペダルでさまざまな奏法を切り替えることが可能。ここではベロシティ120以上がピンチ・ハーモニクス、50以下がブリッジ・ミュートになるように設定している。現在鳴っているノートE3(1弦開放)がベロシティ120以上のため、該当欄がハイライト表示されているのも見て取れるHarmonyは1ノートのMIDI情報だけで複数の音を出すモード。1オクターブ、2オクターブをはじめ、よく使用される完全5度の"5th up"、その5度の音をオクターブ下へ持ってきた"4th down"、さらにルート音の1オクターブ上の音を混ぜた"power chord"といった構成で鳴る設定ができる(画面2)。当然、それぞれの音の場所で、実際にギターで演奏する弦、フレットの位置の音が自動的に選択されるので、単純にサンプルをMIDIで鳴らすだけでは得られないリアルさがある。ここでもベロシティによる切り替えでスライド・アップ&ダウンを通常の音に挟み込むことできる。スライド幅(半音から3半音)やタイムも変えられるので、非常に効果的。octaveに設定してスライドを使えばウェス・モンゴメリー風サウンドも楽しめる。画面2 1ノート鳴らすだけで自動的に5度やオクターブの音を
加えるHarmonyモード。画面左のベロシティ・スイッチでスライド
奏法も可能 3つ目のモードはChordsで、6弦すべてを鳴らすギターのコード演奏をMIDIノートの組み合わせで鳴らしてくれる。ルート音だけならメジャー・コード(例えばドを押さえるとC)、ルート音と短3度の音を同時に演奏するとマイナー・コード(ドとミ♭でCm)、ルート音と完全4度と5度でsus4(ド+ファ+ソ=Csus4)、ルート音と増4度でdim(ド+ファ♯=Cdim)、ルート音と短7度で7th(ド+シ♭=C7)など合計26種類のコードを認識できる。さらにReal LPCの素晴らしいところはコードのフレット・ポジションを4段階で選べる点(画面3)。そしてピッキングしない弦を1弦側からでも6弦側からでも選ぶことができるので、ポジションとの組み合わせで、ハードな8ビートの低域の刻みから、16ビートでハイポジションのクリーンなカッティングまでカバーできてしまうのだ。▲画面3 Chordモードでは、4タイプのコード・ポジションを選択可能。同じGmaj7(MIDIノートはGとF♯)でも、ポジション指定で1〜3のようにローコードからハイコードまで自在に使い分けられるこれら3つのパフォーマンス・モードでは、6弦の開放E=E1(その下のDまで出す設定も可能)から1弦22フレット=D5の間の鍵盤がメイン・ゾーン、その上下の余った部分をリピート・ゾーンと言う。リピート・ゾーンでは白鍵がメイン・ゾーンの音をリトリガー(リピート)し、黒鍵はそのミュート・サウンドを出すようになっている。普通に演奏するとどうしても同じ鍵盤を離鍵してから打鍵するので音切れが生じてしまう。ところがギターは音が鳴った状態で再ピッキングすることが多く、音がつながる。これが鍵盤でリアルにギターのフレーズが出せない大きな原因でもある。それがReal LPCなら右手で音を指定して、左手でC1とD1の鍵盤を交互に演奏してやれば、滑らかな同一音、同一コードの演奏が可能になる。黒鍵でミュートを織り交ぜたギターらしいコード・ストロークを作り出すこともできるのだ。またSoloモードではさらにKey Switchesというウィンドウでさまざまな奏法を指定して、リピート・ゾーンでそれをスイッチングする機能が備わっている(画面4)。▲画面4 画面左にある"KS"ボタンを押すとKey Switchesウィンドウが立ち上がる。ここでリピート・キーに奏法の指定を割り当てることが可能これを使えば、ピッキングせずにレガート(スライド)で音を移動したり、ハーモニクス、ミュート、スライド・アップ/ダウンなどが高速で切り替えられるので、さらに多くの奏法がスタンバイできる。デモ映像をネットで見たのだが、とても鍵盤で演奏しているとは思えないギター的なフレーズの連続に驚かされた。さらに、MIDIチャンネル別にマルチティンバーで奏法やフレット・ノイズなどを鳴らす音が割り振られているので、DAWソフトを使って細かくプログラミングしたいユーザーにはMIDIトラックを分けて管理するのがよいかもしれない。加えて、バッキング用にはPattern Managerが用意されている(画面5)。さまざまなジャンルに対応したバッキング・パターンをプリセットしたもので、6本の弦をどう鳴らすかをシミュレートした図で表示され、ギターとして無理のない自然なフレーズであることが目でも耳でも確認できる。▲画面5 画面左の"PM"ボタンを押すとPatter Manager画面が登場。ジャンルや奏法、テンポごとにストロークやアルペジオ・パターンが用意されている。"Pat"ボタンをオンにして、鍵盤を押さえるとここで指定したパターンで演奏されるちなみに残り2つのパフォーマンス・モード、Bass & ChordとBass & Pickは、メイン・ゾーンとリピート・ゾーンでそれぞれベースとコードまたは上の4つの弦の音がスプリットされた形になっている。詳細は省くがこれらもギターらしい演奏を再現するのに実によく考えられた構造だ。 

アンプ・シミュレーターとの組み合わせでリアルなひずみ系サウンドを獲得


サウンド面では、"Strat"の続編としてLes Paulが発売されたということからも明らかなように、ハムバッキング・ピックアップの腰のあるサウンドが特徴。シングル・コイルに比べ、丸いトーンもカバーできるし、リフが立ちやすい感じがする。またディストーションやアンプのひずみも乗りやすく、より太くてパワフルになるのも特徴なので、ぜひアンプ・シミュレーターとペアで使用してみてほしい。過去のサンプリング音源では、ディストーションなどのひずみをかけた音をサンプリングしており、それだと複数の音が鳴ったとき、あるいは速いパッセージでお互いの音が無関係で干渉し合わないので全くリアルではない。あくまでもクリーンな音で演奏され、その音に対してひずみを加えないと、本来のギターとギター・アンプのひずみ、フレーズの音のつながり感を得ることはできない。それがReal LPCとアンプ・シミュレーターの組み合わせでばっちり再現できるのだ。また画面右にあるピックアップ周辺にピックの絵があり、これを移動することでピッキング位置
を変えて音を変化できる。ピック・ノイズ、フレット・ノイズ、リリース・ノイズなどが自然に入ったり、それらの音のレベルを調整ができるミキサー、そしてワウも用意されている。このReal LPC、ギターが弾けない個人音楽制作者にとっては素晴らしい相棒になるだろう。しかも黒のLes Paul Customを持って、いつでもパソコン上へ手伝いに来てくれるのだ。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年4月号より)
MUSIC LAB
Real LPC
オープン・プライス (市場予想価格/29,925円前後)
▪Windows/Windows XP/Vista/7、Pentium 4/2GHz以上のCPU(Core 2 Duo以上を推奨)、1GB以上のRAM空き容量(2GB以上を推奨)、2GB以上のハード・ディスク空き領域、CD-ROMドライブ、インターネット接続環境、DXi2/VST2.4対応のホスト・アプリケーション(プラグインでの使用時)▪Mac/Mac OS X 10.4以降(10.5対応)、PowerPC G4またはG5/2GHz以上のCPU( Core 2 Duo以上を推奨)、1GB以上のRAM空き容量(2GB以上を推奨)、2GB以上のハード・ディスク空き領域、CD-ROMドライブ、インターネット接続環境、VST2.4/Audio Units対応のホスト・アプリケーション(プラグインでの使用時)