使いやすいサイド・チェインとアクセント機能を装備したノイズ・ゲート

KLARK TEKNIKDN530
全チャンネルにサイド・チェインを装備した4chのノイズ・ゲート

KLARK TEKNIK DN530 252,000円急速にデジタル・コンソールが導入されつつある昨今のPA界。周辺機器がどんどんデジタル卓に内蔵されていく中で、1974年に設立されたイギリスの老舗プロフェッショナル機材メーカー、KLARK TEKNIKから、ノイズ・ゲート専用機が投入された。4ch仕様とはいえ、20万円を越える高級機。伝統のコイル式EQで定評のある同社。この新しいダイナミクス系アウトボードはどのような仕上がりだろうか?

バンドパス・フィルターや検聴用バス装備のサイド・チェイン


KLARK TEKNIKといえばグラフィックEQのDN370やDN360で世界的に話題となった老舗で、世界で最初のデジタル・ディレイ/デジタル・リバーブは彼らの研究所に由来するものだとか。今回の新製品は、全チャンネルにサイド・チェインを装備した4chのノイズ・ゲートだ。グループ企業のコンソール・メーカー、MIDASの影響だろうか? KLARK TEKNIK従来の品の良さに加え、鮮やかさも加わったデザインに仕上がっている。ノブがどちらを向いているのかすぐに分かる作りがとても良い。液晶ディスプレイ上に表示されるソフトウェアとは違うのだ。そもそもノイズ・ゲートとは30年以上前、VALLEY PEOPLEが商品化したのが始まりで、その後はDRAWMERがDS201を発表し、急速に普及した。これに搭載されたフィルター付きサイド・チェインが、かぶり音の多いライブ現場でのゲート開閉を正確にしたと言えるだろう。その後、各社がこの部分に工夫を凝らすようになったのは言うまでもなく、ローパス・フィルターやハイパス・フィルターを独立して付けたもの、また周波数とQ幅を可変式にしたバンドパス・フィルターを装備したものなどがあるが、本機のサイド・チェインには周波数のみを可変式としたバンドパス・フィルターが装備されている。Q幅は固定でごく狭い設定となっており、設定可能な周波数は40Hz〜16kHz。シンプルでイージーな方式だが、これだけで実に的確にポイントを探すことができた。初心者は意外と手こずるこの部分、本機の形式が決定型なのではと思えたところだ。また、サイド・チェインにはフィルタリングのポイントを探すためにキー・リッスンやソロといったサイド・チェイン入力の検聴機能が設けられているのが一般的だが、その多くが検聴用の音声出力をメイン出力と切り替える方式であるため、ライブ本番中には使えない機能だった。しかし、本機にはSOLO BUS(XLR)という専用のバスと入出力が用意されている。この出力をコンソールの空きチャンネルに立ち上げておけば、ヘッドフォンを使用して本番中でも追い込みができるわけだ。しかも、本機を複数台で使用する場合には、各SOLO BUS入出力をデイジー・チェーン接続できるので、検聴用のチャンネルは1つで済むという優れものだ。余談だが、イギリス製品というと、どこか動作原理と数値を知っていないと扱いにくい操作性を持ったものが多い気がしていたのだが、本機はパネル表記やLED表示の感覚がつかみやすく、いわばとてもフレンドリー。例えばゲートの閉じ加減を設定するノブは、"RANGE"とだけ表記され、Aカーブのボリュームを使って減衰させているときのような感覚で扱えた。

積極的な音作りで活躍するアクセント機能


本機のゲート部には、前述のRANGEのほか、THRESHOLDやATTACK、RELEASE、HOLDといったパラメーターが並んでいるが、最大のウリだと思うのはゲートが開くタイミングで音にアクセントを付けられるACCENTノブだ。これはゲートが開いてから最長50msの間、原音よりも最大で12dBまで音を大きくできるというもの。使用方法としては、例えばゲートというよりはソフトなエキスパンダーくらいにリダクション量を設定し(およそ10dBくらい)、適時ACCENTノブを右に回すと、いとも簡単に、より元気なドラム・サウンドを作れてしまう。同様な機能を持つ製品は今まで存在したが、本機ではアクセントの付加量を連続可変ノブで調整でき、元のレベルに戻るまでの動作時間(最長50ms)は、ゲート回路のアタック値にシンクロするため、アコースティックな楽曲でのデリケートなタッチのサウンドにも自然に作用する。これは積極的に音作りに使用すべき機能だと思った。音質に関してだが、筆者は"ゲート機に音質評価は無い。なぜならば音が出ているときは入力された原音がそのまま出てくるのがゲート機の構造だから"と高をくくっていた。しかし、本機にアクセント機能があるということは、常にVCAを通った信号を聴いているはずであることに気が付いた。にもかかわらず、違和感やストレスはほとんど感じなかった。すなわち、音は筆者にとっては何ら問題なかったということだ。100〜240Vまで対応する電源部や3年間の保証が付けられた堅牢な造りなど、本機には純イギリス産の伝統とモダンが息づいている。シリーズ機である4chコンプレッサーのDN540も期待できそうだ。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年3月号より)
KLARK TEKNIK
DN530
252,000円
▪周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dBu)▪ダイナミック・レンジ/116dB(22Hz〜22kHz unweighted)▪全高調波歪率/0.05%未満▪外形寸法/483(W)×445(H)×305(D)mm▪重量/4.6kg