使いやすさとナチュラルな出音で多様な楽器に使えるリボン・マイク

ALPHA-MODERM77DX
ピアノ収録はバランス良し高出力で存在感のあるサウンド

ALPHA-MODE RM77DX オープン・プライス(市場予想価格/49,800円前後)RM77DX、かなり思い切ったネーミングだ。いやが応でもリボン・マイクの王者RCA 77DXをほうふつさせる製品。このRMシリーズ、現在までRM-1~3、ステレオ・タイプのRM6、そして真空管を使用のTRM-10などを発表しており、より低価格で気軽に使えるリボン・マイクとして知られている。ジーンズ1本690円、牛丼1杯280円のデフレのご時世にこの価格はぐっと引かれるものがある。今回はこういった経緯も視野に入れ、本機を機に初めてリボン・マイクを意識する方も多いと思われるので"リボン・マイクとは?"という点から本機を紹介していけたらと思う。

スイッチの類は一切無し シンプルで武骨なデザイン


まずはリボン・マイクの特徴から説明したい。歴史は1920年代から始まり、その中でも、先述のRCA 77DXはまさにマイクのパイオニアとも言えるものだ。レコーディング・スタジオの中でもある程度の歴史のあるところが多く所有している。構造上、強力なマグネットを必要とするため、外観はどうしてもある程度の大きさや重量を要する。そのほかの特徴としては、基本的に双指向性(RCA 77DXは機械的に指向性を6段階に切り替えられる)でゲインが低く、取り扱いがとても難しい。その上、非常に音圧や吹かれに敏感でデリケートなため、使い方に気を付ければならない。しかしながら、これらのデメリットを十分カバーするほどの魅力的な音質がリボン・マイクでしか出せないのである。音質的には非常に素直な感じだ。いわゆるヌケのいい音ではないが、雰囲気を重視したサウンドを得るのはいともたやすく、私はリボン・マイクを主にピアノやストリングスの録音で使用することが多い。中域を中心にしたナローなサウンドが"どの楽器も同じニュアンスでダンゴになってしまってしまう"といった状況を解決してくれるのがリボン・マイクの特徴なのだ。では、それらを踏まえて本機に触れていくことにしよう。まず外観だが、一言で言うと無骨。正直デザインがどうこうという感じではない。なんとなくSONYのリボン・マイク、C-38に似ていなくもない。指向性切り替えスイッチやPAD、フィルターといったのスイッチ類は一切付いていない。ファンタム電源は絶対にかけないでほしい。取り扱いについては以上だ。重さに関しては想像していたより軽く、さらにマイクの角度もホルダーに対し90度ほど角度が付けられるので、さまざまな楽器の収音の際に対処しやすいだろう。また本体よりケーブルが3m直出しで付いているので、状況にもよるが、そのままマイクプリに接続できそうだ。そのほかリボン・マイクの基本である縦置き保管のできるケースや、それとは別にキャリング・ケースも付属している。

ピアノ収録はバランス良し 高出力で存在感のあるサウンド


早速音質を見ていこう。今回はボーカルとピアノ、そしてパーカッションを録音し、RCA 77DXと比較してみた。ちなみにマイクプリはどちらもNEVE 1073を使用している。まずはボーカル。音を聴いたときに、"おぉ太い!"というのが第一印象だ。高域のやわらかな感じはRCA 77DXにそっくり。中域の芯や時代を感じさせるキャラクターはRCA 77DXに軍配は上がるが、さらりとしたナチュラル感は悪くない。しかし距離によって太さが結構変わってしまうので、録音時には足下に目印のテープを張るかイスに座るなどして、なるべく動かず歌ってもらうようなちょっとした工夫が必要かもしれない。大体15cmほどの距離でのセッティングが太さもあり安定した音を録れるポイントだと思う。あまりリバーブっぽくしたくないバラードなどを録音する際にも、十分"持つ"感じがした。次に試したのがピアノ。今回は通常より少し近め、ハンマーから30cmほどの位置にセッティングしたが、これが大正解! むしろRCA 77DXよりバランスよく拾ってくれている感じだ。それにRCA 77DXだとクオリティに個体差があり、ステレオで使用する場合2本の特性が合っているものがなかなか無いのだが、本機は容易にステレオ・ペアで使っていけそうだ。最後にパーカッション。今回はコンガを録音してみたが、これもハマった。20cmほどの近めの位置にセッティングして、マイクプリで音量をグイっと上げてみたが、その音はかなり迫力があり、かつ力強いプレイが伝わってくる。情熱的でいわゆる重ねものとしてのコンガより、メインでリズムを引っ張っていく存在になり得る。正直ここまでは期待はしていなかったのだが、特にピアノとコンガのサウンドには驚かされた。一方で、本機は、音源までの距離のセッティングがシビアな印象。どうやら固定された楽器の方が向いているように感じた。またこのマイクは、ほかのリボン・マイクに比べ耐音圧に優れているため、ギター・アンプやドラムにも結構近づけて使えそうだ。この価格なので、今までリボン・マイクを立てることを避けていた音源にでも積極的に使っていける点も大きなメリットだといえるだろう。出力もダイナミック・マイクほどあるので、それほどマイクプリでゲインを稼ぐ必要もなく、非常に使いやすい。とは言え、ゲインに余裕を持つ本格的なマイクプリの方が小音量の楽器でも対応できるので、本機の実力を十二分以上に発揮してくれるということも付け加えておきたい。本機はリボン・マイクの入り口として、また気兼ねなくさまざまな音源にリボン・マイクを使いたいという方にぜひ試してもらい、深みのある音を味わってほしい。何より"手に取ってみよう"と思わせるこのような製品が、すべてのきっかけになるのだから。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年3月号より)撮影/川村容一
ALPHA-MODE
RM77DX
オープン・プライス (市場予想価格/49,800円前後)
▪周波数特性/30Hz〜18kHz▪指向性/双指向性▪感度/−55dB▪出力インピーダンス/200Ω▪SN比/70dB以上▪付属品/専用ハード・ケース▪外形寸法/37(φ)mm×185(H)mm▪重量/1.23kg