素晴らしいアナログ・シミュレートを実現した真空管アンプ・プラグイン

WAVE ARTSTube Saturator
昨今のプラグインは実に進化しています......というよりはタイムスリップして、どんどん昔のサウンドに戻っている?と言った方が、僕の本心かもしれません。ビンテージ機器のEQやコンプ、それらのプラグインでのシミュレーションの進化に目を離せないのが現状です。これまでのプラグインは、どちらかというと新しくDAWが生みだした、ハードウェアの音とは違うけど、がんばってアナログに似させているエフェクターという見解だったのですが、このところ、かなりアナログのディテールに忠実になってきているのです。今回はそんな1台、WAVE ARTSの真空管アンプ・プラグイン、TubeSaturatorをチェックしていきます。

WAVE ARTS Tube Saturator 20,790円信号そのものをシミュレートした独自のサーキットを採用。ジリジリしたひずみと原音のボケかたの調和が良い。

信号そのものをシミュレートした独自のサーキットを採用


今回もその目が離せないプラグインの1つになってしまいそうなのです。今までのほとんどのプラグインはハードウェアの入力、出力の音源をサンプリングし、それらがどう変化するのかをシミュレートし、それらを参照にしてサウンドを成形しているそうなのですが、このTube Saturatorはサーキット・シミュレーションという、もともと1970年に開発された技術をさらに独自に進化させ採用している点にあるそうです。大ざっぱに説明すると、音そのもののシミュレーションだけではなく、信号そのものをシミュレーションするのだそうです。<p.通常、信号(音声)は導線により、トランス、抵抗、ダイオード、コンデンサー、真空管、コイルなどの部品を通って電圧、電流、抵抗値、波形などに変化させ、音を成形するわけです。それらの設計がいわば、回路(サーキット)なのです。そしてその信号がそれらの部品を通過するごとに、どう変化するかをサンプリングして膨大なサンプルとシミュレートを組み合わせてサウンドを作るという技術なのです。しかし正確にこんなことをすると、とんでもなくコンピューターの処理能力が必要とされるので、このTube Saturatorはその技術を、Baxandallタイプの3バンドEQの部分と三極管真空管"12AX7" を2段で使用したプリアンプの部分に絞っているそうです。話が複雑になりましたが、概要的には非常にシンプルで、3バンドのEQとそのON/OFFスイッチ、DRIVEの10段階のノブ、FATモードのON/OFFスイッチ、そしてアウトプットのゲイン・ボリュームだけです。ちなみにBaxandallタイプのEQとは1952年にP.J.Baxandall氏により学術発表されたEQの回路で、とてもポピュラーな回路です。なじみのあるところではFENDERアンプのトーン・コントロールなどがあります。

ジリジリしたひずみと原音のボケかたの調和が良い


さて、実際の第一印象ですが、まずEQが非常に素晴らしく、特に低域の重量感が魅力的でした。BASSとTREBLEがシェルビングで、それぞれ、100Hzと1kHzです。MIDが800Hzになっています。ゲインはすべて±12dBです。数値を見ても分かる通り、間違いなくギター・アンプ並の下世話な(?)トーン・コントロールなのです。感覚的にはBASSは80Hz辺りからの印象で、TREBLE、MIDはまさに1kHzと800Hzという感じでした。要するに、ハイファイ・オーディオではなくギター・アンプなのです! まあ、自分はだから、お気に入りなのですが......。ベースやギターはもちろん、ボーカルや、鍵盤楽器、ドラムなど、なんでもOKな感じでした。ただひずむというよりは、エネルギー感を増幅させると言った方が当たっているような気がします。単にひずませるのではなく、上と下の倍音を増幅させ、ジリジリしたひずみと原音のボケかたの調和が素晴らしく、ドライブの加減やFATスイッチが非常に有効で、オケ中での存在の調整が非常に簡単で、楽しく、アグレッシブに使えます。また、ひずませなくてもEQだけでも非常に魅力的なので、特にギターやベースにはかなり、武器になると思います。まだまだ進化するプラグイン勢ですが......進化し続けるまで、財布にお金があるかな......とおもいきや、このWAVE ARTS Tube Saturatorは、なぜこんなに安いんでしょうかね? すごいの一言です!(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年3月号より)
WAVE ARTS
Tube Saturator
20,790円
▪Windows/Windows 2000/XP/Vista 32ビット(64ビットへは現在ベータ版として対応)、VST2.4/RTAS(DISIDESIGN Pro Tools 7/8)/DirectX対応、インターネット接続環境(オーサライズ時のみ)▪Mac/Mac OS X 10.4/10.5/10.6(PowerPC、INTEL)、Audio Units/VST/RTAS(DISIDESIGN Pro Tools 7/8)/MAS対応、インターネット接続環境(オーサライズ時のみ)