新ヘッドやマイキング再現機能も備えたアンプ・シミュレート・ソフト

NATIVE INSTRUMENTSGuitar Rig 4 Pro
録音可能なテープデッキを装備。ライブ用の画面表示も可能、最大8本のマイクをシミュレート可能な新機能Control Roomなど、充実した機能を搭載

NATIVE INSTRUMENTS Guitar Rig 4 Pro オープン・プライス(市場予想価格:49,800円前後 ※Rig Kontrol 3も付属したパッケージ価格)今やアンプ・シミュレーターも"DAW標準装備" な時代になり、シミュレーター自体、昔ほどの目新しさや感動を味わうことも少なくなっていた昨今、久々にギター魂に火をつけるモンスターがあられました! その名もNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rig 4 Pro。旧バージョンでも十分満足のいく完成度でしたが、今バージョンでは新たに搭載されたアンプやエフェクトなど、かなり充実したバージョン・アップを遂げております。そこで今回は、新機能を中心にしながらGuitar Rig 4 Pro全体もあらためてレビューしていきたいと思います。なお、Guitar Rig 4 Pro単体はNATIVE INSTRUMENTSのオンライン・ショップから購入可能ですが、店頭などではソフト音源なども含めたパッケージのKomplete 6、オーディオI/O兼コントローラーのRig Kontrol 3も付属したパッケージ、Guitar Rig Kontrolもリリースされています。今回は後者でレビューを行いました。必見です!

録音可能なテープデッキを装備 ライブ用の画面表示も可能


Guitar Rig 4 ProはWindows/Macの両プラットフォームで動作します。またスタンドアローンのほか、VST/RTAS/Audio Unitsのプラグインにも対応しています。今回はMacのスタンドアローンで試してみました。実は、インストールする際にシステム要件の確認を怠ってしまったため、Mac OS X 10.6にインストールしてしまいました(汗)。一応問題なく動作しましたが、現在、10.6は動作保証の対象外となっているのでインストールは自己責任でお願いします。ともあれ、無事にインストール/アクティベートが完了したので、ギターをRig Kontrolへ、Rig KontrolをUSBでパソコンへ接続し、Guitar Rig4 Proを起動してみましょう。ここで最初に目にするのが、メトロノームやチューナー、レコーディングができるテープデッキといったラック・ツール(画面1)。一見さりげないツールですが、これらが非常に便利なのであります。アイディアを思いついたら、すぐにGuitar Rig 4 Proを立ち上げて思いつくままにテープデッキへ録音、といったように作曲時のメモ代わりにも使えますし、あらかじめメトロノームに合わせて録音しておけば、気に入ったテイクを書き出して本チャン・テイクで使う、といった用途としても重宝しますね。さらに、このテープデッキはアンプ類の前にインサートするプリと、アンプ類の後にインサートするポストの2台が装備されており、プリでは素のギターを録音して、後でアンプやエフェクトをじっくり吟味したり、プリ/ポストの同期再生/録音も可能。ギタリストの視点からきちんと考えられていて、素晴らしいです。▲画面1 Guitar Rig 4 Proを起動すると上のラック・ツールが表示される。一番上がテープデッキでアンプ類の前段にインサートされる。次がメトロノーム、その次がボリュームで、一番下はアンプ類の後にインサートされるテープデッキ。素の音と加工後の音それぞれを同時に録音できる次に画面最上部のグローバルヘッダを見てみましょう(画面2)。▲画面2 画面上部へ常に表示されているグローバルヘッダ。インプット・ゲインやCPUメーターのほか、ノイズ・ゲートを実装しているのはうれしいところ ここは本ソフトを制御するための最重要部になり、左からインプット・ゲイン、ノイズ・ゲート、アウトプット・ボリューム、リミッターが装備されております。ノイズ・ゲートは演奏していない時に生じるヒス・ノイズを抑えるためのもので、任意にスレッショルドを調整できるほか、ノブをダブル・クリックするとラーン機能が有効になり、自動的に調整を行ってくれる優れものです。右脇にあるLIVEと書かれたボタンを押すと、インターフェース画面が切り替わり、拡大表示されたプリセット名やチューナー、メトロノーム、Rig Kontrolを模したフット・コントローラーなどが登場します(画面3)。これはその名の通りライブ仕様の画面で、薄暗いステージでの操作にも耐え得る視認性の良いインターフェースになっているわけですね。▲画面3 ライブ用の画面。左上にプリセットを選択するブラウザー、右にチューナーなどが表示でき、下部にはRig Kontrolのグラフィックが現れて、アサインした機能などが表示される

絶妙なクランチ具合も再現する秀逸なプリセット群


さて、次は本レビューの本題でもある、アンプ・シミュレーターやエフェクトを実際に使っていきましょう。アンプやエフェクターの選択には画面左側部のブラウザーを使います(画面4)。ここで"Browser"タブをクリックするとアンプやキャビネット、エフェクトなどがあらかじめセットされた280以上のプリセットが並んでいます。このうち250種類以上が今回新たに用意されたものだそうです。またブラウザー上段には"GR4 MIX""Guitar Amps" "Bass Amps" "Styles" "Songs" "Effects"といったカテゴリーが設けられており、ここで選択したカテゴリー内のプリセットが下段に表示されるという仕組みです。各カテゴリー横にはサブカテゴリーも用意され、ここから望みのプリセットを絞ることも可能。例えば"Guitar Amps"であれば、サブカテゴリーには"AC Box" "Lead 800" "Jazz Amp"などのアンプ・モデル名が並んでいますし、"Styles"であれば"Classic Rock" "Alternative" "Metal"といったジャンルごとにカテゴライズされるので、非常に分かりやすく使い勝手が良いです。ブラウザー中段ではテキスト検索も行えます。▲画面4 ブラウザー画面。アンプのタイプやジャンルなどでプリセットを検索できるさて、では実際に各プリセットのサウンドを鳴らしてみます。まず音を鳴らした最初の印象は、レイテンシーがほとんど気にならないということ。実機アンプと比べても遜色ないほど自然でした。さらに特筆したいのが、著名バンドやギタリストの音を模したプリセットの完成度の高さ! よくありがちな"何々っぽいね~"とかいったレベルではく、かなり本物に近い状態のプリセットに仕上がっているのです。これには驚きました。例えば、泥くささとエア感が抜群に良い"Black Stripe Army"や、懐かしのギター・ヒーローのサウンドがよみがえる"Crazy Randy"、独特のテンポ・ディレイが印象的な"Edged without you"、ぜひフロント・ピックアップでメロウに鳴らしたい"Little Jimis Wing"などなど、どれもクスっと笑ってしまうネーミング・センスですが、ところがどっこいサウンドの方は本当によく作られてます。特に"Black Stripe Army"の絶妙なひずみ感や空気感、そして音の立ち位置なんかは笑ってしまうぐらい本家に酷似しており、この世にギター・サウンドの著作権があったら恐らく引っかかるであろう勢いです。この手のクランチ・サウンドをアンプ・シミュレーターで作るのは意外に難しく、一歩間違えると単にショボいだけのサウンドになりがちなので、ここまで手軽に本物感のある音を鳴らせるのは非常に助かります。"Crazy Randy"や"Little Jimis Wing"は、後述する本バージョンで新たに搭載されたアンプ・モデルが使用されており、このプリセットの音を聴くだけでもGuitar Rigが常に進化していることがうかがえます。個人的にはアンプ・シミュレーターでここまでリッチに鳴らせるものかと度肝を抜かされた"Little Jimis Wing"が非常に気に入りました。このほかにも実践向きのセッティングからマニアックなものまで豊富にそろっており、もちろんオリジナルのセットも作成/保存可能です。各プリセット内の構成を研究し、どのようなプリアンプとキャビの組み合わせで、どんなエフェクトが使われているのか参考にすれば、プリセット作りにも役立つのではないでしょうか。

新搭載のアンプ・ヘッドはいずれも最高の出来栄え


では、次にブラウザーの"Components"タブをクリックして、アンプ/キャビネット、エフェクトの各モデルを見ていきましょう。これらのモデルは画像も表示されるので見た目にも分かりやすいです(画面5)。その画像自体も前バージョンから若干変更されております。▲画面5 "Components"タブでは、アンプやエフェクトなどを個別に選択できる それでは、まずアンプ・ヘッドですが、新バージョンから新たに2つのモデルが加わり、ベース・アンプも含めて合計14種類になりました。ざっと紹介すると、クランチ~ディストーションまで柔軟性に富んだ定番系の"LEAD 800"、ビンテージ感がたまらない"PLEX"、モダンなHR/HM系で使える"ULTARASONIC"、強烈なディストーションが魅力の"GRATIFIER"、ツィードと言えばコレ"TWEED DELIGHT"、ぜひベース・アンプとしても使ってみたい"TWEEDMAN"、クラシックなクランチ・サウンドが素晴らしい"TWANG REVERB"、もはや必要不可欠の"AC BOX"、恐らくデヴィッド・ギルモアも真っ青なブリリアント・サウンドが心地よい"HIGH WHITE"、1970年代の香りがプンプンする"CITRUS"、クリーン・トーンの代名詞的な"JAZZ AMP"、オール・ジャンルで使えるベース・アンプ"BASS PRO"、そして本バージョンからは"LEAD 800"をさらにファットで上品なサウンドにカスタマイズした"JUMP"と、"PLEX"のハイゲイン・バリエーション"HOT PLEX"が加わりました。こうやって一気に書き出してみると本当にすさまじい量ですね。これらをすべてハードで買った
ら間違いなく破産します。シミュレートされた実機名をあえて伏せて書きましたが、どのモデルもかなり忠実に再現されているので、実機を触ったことある方なら簡単にセッティングできるでしょう。また実機を知らない方でも"Lead"や"Crunchy"といった分かりやすい名称のプリセットが用意されているので問題ないと思います。また、種類は選べないもののベース・アンプまで搭載されている点もうれしい限りで、ベース・キャビネットが豊富にそろっている後述の"CABINETS & MICS"を使えばギターに負けないぐらい本格的な音作りも可能でしょう。さて、今回から搭載された前述の2種類のアンプ・ヘッドですが、これが最高な出来栄えになっております! はっきり言ってこれらを使うためだけでもGuitar Rig 4 Proを買う、もしくはバージョン・アップする価値大ありの代物。まず"JUMP"はネーミングからしてすぐに連想できますが、古き良き1970年代後期以降のハードロック系ディストーション/オーバードライブ・サウンドをいとも簡単に再現できます(画面6)。サウンドの特徴としては、音に立体感がありひずませても非常にリッチで粒立ちが良いで印象です。目を閉じて聴いたら、これがシミュレーターということを忘れるぐらいです。本当にいい時代ですねぇ。▲画面6 新アンプ"JUMP"。立体感のあるディストーション・サウンドが特徴だ そして、もう一つの"HOT PLEX"も負けず劣らず秀逸です(画面7)。"プレキシサウンド"という言葉もあるくらい独特な音を放つこのモデルですが、単に"PLEX"のハイゲイン・バージョンというだけではなく、音のつぶれ方まで絶妙な案配なのであります! ツマミを全開のフルテンにして爆音でかき鳴らしてるだけで、気持ち良すぎて昇天です。個人的に、これはアンプ直で途中にエフェクトを介さずに使いたいモデルですね。これらはどちらも全く新しいアンプ・モデルというわけではありませんが、それぞれに個性や特徴があるので全体的にしっかりすみ分けができているな、という印象でした。ちなみに前述のプリセット"Crazy Randy"は"JUMP"
が、"Little Jimis Wing"では"HOT PLEX"が使用されております。▲画面7 "HOT PLEX"も新アンプ。以前から搭載されていた"PLEX"のハイゲイン版といった趣。今後のバージョン・アップで"COOL PLEX"が加わることもアナウンスされている

最大8本のマイクをシミュレート可能な新機能Control Room


次は、こちらもGuitar Rig 4 Proの売りであるキャビネットを見ていきましょう。キャビネットはそれらに対するマイクのシミュレートも組み込まれたコンポーネントとなっており、大きく分けて3種類に分類されております。まずはアンプ・ヘッドを選択すると適合するキャビネットが自動的にセットされ、2本のマイクのブレンド具合やエア感をスライダーで調整可能な"MATCHED CABINET"。次に、箱の大きさも変更可能な25種類のギター&ベース・キャビネットに加えてDIやロータリー・スピーカーも選択でき、それらに対するマイクやマイク位置も最大5種類の中から選べる"CABINETS & MICS"。そして今バージョンより搭載された全く新しいコンポーネントの"Control Room"となっております。各コンポーネントはそれぞれに特徴を持っており、組み合わせ次第で多彩な用途が考えられますが、特筆すべきは何と言っても"Control Room"でしょう(画面8)。ドイツのエンジニアであるピーター・ワイヘ氏の協力を得て開発されたというこのコンポーネントでは、キャビネットを6種類から選択することができ、各キャビネットに対して、位相をそろえたマイクを何と同時に最大8本まで組み合わせて使用することができるという、とんでもなく便利なキャビネット&マイキング・シミュレーターなのです! ほかのコンポーネントと同様に、エア感を操作するAIRツマミや、各マイクのレベル/パンはもちろん、ミュート/ソロ・スイッチまであり、いわゆるエンジニア視点からギター・サウンド・メイキングができます。感覚としてはEQ&ステレオ・イメージャーといった操作感です。マイクを使ったレコーディングになじみのない方はどんなマイクを選んだらよいか迷ってしまいそうですが、"Control Room"ではキャビネットごとに適したマイクを自動的に配置してくれるので問題ないですし、何より最大8本のマイクを位相を気にせず好きなように調整できるのはうれしい限りです。▲画面8 新キャビネット&マイク・シミュレーターの"Control Room"。キャビネットは6種類から選択でき、各キャビネットによって最大8本までのマイクをブレンドして音作りできる。マイク位置は変えられないが、個別にパンニングも可能なので、幅広い音場作りが行える また、"Control Room" 自体もほかのコンポーネントと同じくCPUパワーが許す限り好きなだけ追加できるので、かなり複雑なセッティングが期待できます。実際に操作してみると分かりますが、ちょっとマイクのフェーダーを動かしただけでサウンドが激変するので、かなりオリジナリティにあふれた音場を作れるでしょう。夢が広がりますね!

個性的なディレイも加わった膨大なエフェクト群


次は、50種以上にも及ぶエフェクト群を見て
いきましょう。まず、ひずみ系はブースターからディストーションまで個性的なエフェクトが11種、モジュレーション系ではスタンダードなものから"HARMONIC SYNTHSIZER" "RING MODULATOR"といった変わりダネまで搭載。ほかにも"LOOP MACHINE"といったツール系、それに"ENVELOPE" "ANALOG SEQUENCER"といったモディファイア系まで網羅しております。さらに、本バージョンから空間系に"GRAIN DELAY" "TWIN DELAY" "ICEVERB" "OCTAVERB"の4種類が追加され、かなり充実したラインナップになりました(画面9、10、11、12)。これら新エフェクトの中でも印象的だったのは、"ICEVERB"
の透明感ある不思議な響き方や、もはやギター系エフェクトの範囲を越えた斬新さが魅力な"GRAIN DELAY"ですね。特に後者は、ディレイ音のピッチを変えたりモジュレーションをかけたり、リバース/フリーズさせたりと、とにかく変態系ギタリストにはもってこいのエフェクトです。分かりやすく言うとレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドがよくライブの最後に音の洪水的なループを作って帰っていきますが、その感じにすぐなります......。▲画面9 "GRAIN DELAY"は、いわゆるグラニュラー系のディレイ・エフェクト。ギター音が細かく切り刻まれるようなユニークな効果を得ることができる▲画面10 "TWIN DELAY"は2基のディレイが並列に配されたステレオ・ディレイ。クロス・フィードバックやステレオ感の調節も可能だ▲画面11 ホール系リバーブ"ICEVERB"。フィルターを装備しており、独特のレゾナンスを伴った残響音を得ることができる▲画面12 8種類の初期反射を備えたリバーブ"OCTAVERB"。フラッター・エコーのシミュレート・プリセットなども装備しているトータル的に、汎用性に富んだものから飛び道具までハイクオリティなエフェクトがそろっているので、ぜひDAWのプラグイン・エフェクトとしても活用していきたいところです。それにしてもこのエフェクト数には恐れ入ります。最後になりますが、USBオーディオI/O兼フット・コントローラーのRig Kontrol 3(写真1)にも軽く触れておきます。本体には8個のフット・スイッチと1つのペダルが装備されており、各スイッチ/ペダルへのアサインは、Guitar Rig 4 Proのフット・コントローラー画面からドラッグ&ドロップで簡単に行えます。Guitar Rig 4 Pro内のデバイスであれば、アンプのツマミだろうが、エフェクトのON/OFFだろうが、ほとんどの機能をアサインできてしまうのがうれしい! また、2イン/2アウトのオーディオI/O、そしてMIDIインターフェースとしても活用できるので、これからDAWシステムを構築しようと考えている方にもお薦めです。▲写真1 Rig Kontrol 3はGuitar Rig 4 Proに適した2イン/2アウトのUSB
オーディオI/O&コントローラー。フット・タイプでペダルのほかに8個のスイッチを備えている。制作のほか、ライブなどでも活躍してくれる1台だ。本機のみの単体発売も行われている(オープン・プライス/市場予想価格33,800円前後)いかがでしたでしょうか? これでも駆け足でレビューしてきましたが、Guitar Rig 4 Proのてんこ盛り感はお分かりいただけたでしょうか。もともと、Guitar Rigシリーズはプロ・ミュージシャンにも愛用者が多いことは有名ですが、今回試用してみて、筆者が今まで試してきたアンプ・シミュレーター製品の中でもやはりずぬけている感がありました。そして驚がくなのがこの価格......あり得ないです。とにかくアンプ・シミュレーター選びで悩んでいる方は最初にGuitar Rig 4 Proを試してみるべきでしょう。きっと世界が変わりますよ!(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年3月号より)撮影/川村容一(Rig Kontrol 3)
NATIVE INSTRUMENTS
Guitar Rig 4 Pro
オープン・プライス(市場予想価格:49,800円前後 ※Rig Kontrol 3も付属したパッケージ価格)
▪Windows/Windows XP(SP2、32ビット)/Vista(32ビット/64ビット)、INTEL Pentium/AMD Athlon XP 1.4GHz、メモリー1GB▪Mac/Mac OS X 10.5、INTEL Core Duo 1.66GHz、メモリー1GB