PRESONUSStudio One Pro

ベーシックな能力が極めて高いDAWソフト
PRESONUS Studio One Pro オープン・プライス(市場予想価格/50,000円前後)PRESONUSといえば、コスト・パフォーマンスに優れたプリアンプやオーディオ・インターフェース、またDAWコントローラーのヒット製品Faderportなどのハードウェアで知られるメーカーです。そんなPRESONUSから全く新しいDAWソフトがリリースされると聞き、少々驚きました。まさしく群雄割拠という表現がふさわしい昨今のDAW業界。特にこの数年間はベテラン勢がバージョンアップ・レースで強力になり続け、なかなか新人がその中に分け入るのは難しく、あえてそこに挑むからには相当の能力と魅力を兼ね備えてるはず。では期待のニュー・フェースStudio One Proの実力を検証してみたいと思います。
64ビットOSに対応 そこはかとなく漂うドイツの香り
今回初めて触れるソフトなので、先入観を持たないために、なるべく事前に情報を入手せず、マニュアルも見ずにできる限り操作してみました。正直に言ってこれがバージョン1のソフトなのかと驚くほど感心してしまいました。考え方がすごくしっかりした無駄のない作りで、基本的な操作に関してはマニュアルをほとんど必要としないほど簡潔にまとめられています。しかもその中に作り手のやる気(創作意欲)を刺激してくれる操作感やデザイン・センスがあり、DAWのツボを見事に押さえているのです。これを作れるのはタダ者ではないと思い、あらためて調べてみて納得。このStudio One Proはウォルフガング・クンドルスとマティアス・ジュアンというSTEINBERGでCubaseの開発に携わっていた人たちが新たに独立して作り上げたものなのです。ちなみにPRESONUS自体はアメリカの企業ですが、ソフトの開発を行っているPRESONUS SOFTWAREはドイツのハンブルグにあります。そのためかStudio One Proも、どことなくDAWの本場であるドイツの香りがします。開発を始めた時点から、今日の64ビットOSへの移行など現在と次世代の環境を念頭に置 きながら、古いコードを改良するのではなく、今必要とされているソース・コードをおよそ2年の期間をかけて新たに書き上げたことは、このStudio One Proのとても大きなアドバンテージと言えます。特徴とも言える、粒子が細かくワイド・レンジな音質と機敏な操作性はそのことによる恩恵でしょう。ちなみにStudio Oneには、この64ビットOSやReWire、VST/Audio Units対応などの機能を省いたエントリー版=Studio One Artist(オープン・プライス/市場予想価格25,000円前後)もラインナップされています。スペックなどの詳細はWebサイトなどを見てもらうとして、ここではまずその概要とぜひ知ってもらいたいことを手短にまとめてみたいと思います。このStudio One Proのコンセプトはコンプリート・ソリューション。これはコンポーズ、レコーディング、ミックス・ダウン、マスタリングという音楽を作る一連の作業すべてを1つのツールでスムーズに連携させて賄ってしまうということです。補助的な機能としてのCDバーニング機能を持つDAWはあっても、1つのソフトで本格的なマスタリングにまで対応できるのはMAGIX Samplitudeシリーズぐらいなので、興味を引かれる人も多いと思います。また独自に開発された64ビット浮動小数点処理のオーディオ・エンジンはとても高性能で、32ビットOSが稼動しているマシンであっても、プラグインに応じて自動的に32/64ビットの切り替えを行うことも可能。CPUに無駄な負担をかけることなく、高品位な音質を提供できます。もちろん、そのエンジンに合わせるように開発されたPRESONUS独自のネイティブ・プラグインは、多くのものが64ビットに対応している上、Studio One Proに最適化されているので、音質が良いだけでなく動作も軽く遅延も少なめです。このように高性能のオーディオ・エンジンとそれに合わせてソース・コードから書かれたプログラムであることによる、高品位な音質と操作レスポンスがStudio One Proの最大の魅力ではないかと思います。
1画面ですべての作業を完結 扱いやすいインストゥルメント
前置きが長くなりましたが、具体的にチェックしていきましょう。Studio One Proは基本的に 最近のトレンドでもあるシングル・ウィンドウによる表示方式を採用しています。ウィンドウ右側上部にあるボタンによってStart Song Projectの3つのページを切り替えて使用します。Startはファイル形式やオーディオ・インターフェースなどの設定などを管理するページ。Songはその名の通り複数のオーディオやインストゥルメントのトラックから形成される一般的なDAW画面。そしてProjectがStudio One Proの特徴の1つであるマスタリング機能をつかさどるページになります。Songはマスタリング以外のすべての作業を行うので、実質上のメイン・ページと言えます。そのウィンドウの左側には各トラックの情報と選択されたものに関して詳細な情報を表示するインスペクター(画面1)。右側にはドラッグ&ドロップやダブル・クリックにより選択するためのエフェクターやインストゥルメント、またそれらのプリセットを表示するブラウザ(画面2)。そして下部にはミキサーやMIDIのピアノロール、オーディオ波形などのエディット画面が表示される、昨今スタンダードになりつつあるレイアウトです。




ツボを押さえた操作感のMIDI/オーディオ・エディット
さて次は、MIDIやオーディオのレコーディングやエディットに関して。基本的なシーケンサーやレコーダーとしては、やはり開発に携わってきただけに、Cubaseの系統であることを強く感じさせる、DAWとしてはとてもシンプルでスタンダードとも言える作りです。また製品化するにあたり、分かりやすく使いやすいというのはかなり高いプライオリティだったようで、プラグインの操作からオーディオの編集まですべてにわたって考慮されています。1つの操作に多くのパラメーター が関与したり、メニューが深い階層構造にならない点など、さりげないところでも徹底しています。また、コマンドやメニュー、ボタンなどに対してかなり厳しい仕分け作業を行ったようで、MIDIデータの表示をピアノロールのみにしたことなども、直感的な操作性にウェイトを置くという点で正解だと思います。MIDI関係では複合コマンドは無く、人間らしい揺らぎを付加したり減らしたりするHumanize/Humanize Lessなどは、その度合いを設定する画面も出てくることなく実行されるという潔さです。また、さすがCubase直系だけのことはあり、ピアノロールにペンシル・ツールで書き込むテクノ定番の手法も、タイミングだけではなく音程のクオンタイズとも呼べ るVerticl Snapを使えば、指定したキーのスケールから外れずに書けるなど、とてもや使いやすいです(画面5)。



を選択可能。オリジナル・スキームの"Studio One"と"Studio One Alternate"のほか、"Cubase" "Logic""Pro Tools" の計5種類から選択可能だ
使いやすく効きのよいプラグイン・エフェクトが付属
ミックス・ダウン時のStudio One Proの最大の武器は、エフェクターです。独自フォーマットのプラグインは全部で26種類。褒め過ぎるのもナンですが、バンドルされているエフェクトのクオリティの高さは最高ランクだと思います。特にダイナミクス系とEQは素晴らしいです。Pro EQ(画面⑧)はスペクトラム表示がリアルタイムで可能なので、どの帯域にピークがあるか、ブースト/カットの結果などが一目瞭然(りょうぜん)です。またHigh qualityモードにするとオーバー・サンプリング処理するので、うまく倍音を持ち上げられる感じになり、"硬くならずに抜けが良い"EQ処理が簡単にできるのには、ちょっと感動しました。またシンプルな操作性にはトコトンこだわっているようで、Chanel Stripなどはコンプのツマミは1つなのですが、エキスパンダーとの兼ね合いで実質的なコントロールは幅広くできるなど、かなりユーザー・フレンドリーです。


Projectページで高品位なマスタリングまで実現!
マスタリング作業を行うProjectページで目を引くのは、画面中央のメーター群です(画面10)。



切れ味良い包丁で料理をしているような操作感
まだまだ紹介したいことはたくさんあるのですが、このようにStudio One Proはベーシックな能力が極めて高いソフトです。テクノやヒップホップはもちろん、ピアノやギターなどアコースティック楽器が主体のものや、ロック・バンドの一発録りでも高いポテンシャルを発揮できるでしょう。作曲/録音からマスタリングまで、制作の全工程をまかなえる数少ないDAWと言えます。しかし、先に述べましたが、Studio One Proの最大の魅力は"音質と操作性"。まるで切れ味よく、取り回しも優れた包丁を手に料理をしているような気分にさせてくれるのです。残念ながらPRESONUSのオーディオ・インターフェースを使ってのチェックではなかったので確認はできませんでしたが、FireStudioシリーズを使用すれば、ゼロ・レイテンシーのキュー・ミックスが可能であったり、ハードウェアのセットアップなども簡単になるなど、自社製品とのコンビネーションはかなり良さそうです。今後さらに親和性が増して、DSPを内蔵したオーディオ・インターフェースなどを開発してくれることを、個人的に期待しています。また今回はMac OS X 10.6で動くMacBook Pro(2.53GHz、4GB RAM)を中心に、Windo
ws XP搭載の自作機や、OS X 10.5環境のPower Mac G5(2GHz Dual)など複数の環境でチェックしましたが、新旧問わずどのような環境でも安定した動作が得られたことは特筆に値します。動作レスポンスがとても良いので古いマシンが少し若返ったように感じられ、あらためてプロフェッショナルの仕事であると思いました。また過去の資産や伝統を守りながらバージョン・アップを重ねなければならない老舗とは違い、最近の環境や状況にフィットした製品からスタートできるのは、ニュー・フェースの一番のメリットということもあらためて実感しました。Studio One Proの登場が、単にカタログ・スペック的に付加機能を競い合いがちな昨今の状況に、あらためて"優れた録音機材としてのあり方"を問うきっかけとなることを願います。Studio One Proのプログラマー=クンドルス氏は今年で50歳はとうに過ぎているはずですが、サイトレインという名義でバリバリのゴア・トランスをリリースしているアーティストでもあります。本ソフトに見られるエッジの効いた遊び心は、そんなところにも秘密があるのかもしれないと、妙に納得してしまいました(笑)。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年2月号より)
PRESONUS
Studio One Pro
オープン・プライス(市場予想価格/50,000円前後)
▪Windows/Windows XP/Vista(7にも対応予定)、INTEL Pentium 4 1.6GHzまたはAMD Athlon 64(Turion)以上のCPU(Pentium 4 2.8GHz EM64TまたはAthlon 64 3000+以上を推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)▪Mac/Mac OS X 10.4.11/10.5.2以上(OS
X 10.6にも対応予定)、PowerPC G4 1.25GHzまたはINTEL Core Solo 1.5GHz以上のCPU(PowerPC G5またはINTEL Core 3 Duo/Xeon以上を推奨)、 1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)