原音忠実かつ音楽的なバランス感のプロ用モニター・ヘッドフォン

SHURESRH840
モニターとしての判断ができつつ、音楽的なバランスも崩さない

SHURE SRH840 オープン・プライス(市場予想価格/20,000円前後)SM57/SM58などスタジオで定番中の定番マイクをはじめ、業務用音響機器分野で80年以上の実績を持つSHUREが、プロフェッショナル・モニター・ヘッドフォンの次世代スタンダードと銘打った3製品をリリースしてきた。DTMや携帯音楽プレーヤーに最適なエントリー・モデルのSRH240、全帯域で正確なモニタリングを目指すSRH440、原音のニュアンスを余すところなく再現するという最上位モデルのSRH840。今回はプロの現場に最適化されたSRH840をレビューしたいと思います。

適度な重量感としっかりした作り、明りょうさ&鮮明さが秀逸


まず仕様ですが、型式は密閉型。駆動はダイナミック方式で、ドライバーは最も磁束密度が高いとされているネオジム型が採用されており、口径は40mm、周波数特性は5Hz~25kHz、音圧感度が102dB、インピーダンスは44Ω。入力コネクターは3.5mmステレオ・ミニ・プラグ(金メッキ仕様)で、もちろん付属品としてステレオ・フォーン・アダプターも付いています。ケーブルは3m、片出しのカール・コードなのですが、1つユニークなのは、ケーブル自体が本体と脱着可能なこと。高い堅牢性を備えたロック式のBayonet Clipが採用され、本体のL側にあるコネクターへケーブルを差し込んで右に回すことでロックが掛かるようになっています。万が一ケーブルが断線しても交換が可能ということで、現場を意識して作られていることがうかがえます。重さは約318gと若干の重量感がありますが、作りがしっかりしているので、逆に安定感があるように思います。イアー・パッドを裏返すことにより、コンパクトに折り畳むことができ、付属の専用ケースもあるので持ち運びにも便利で、さらに予備のイアー・パッドが2つ標準で付いてきます。音質に関してはとにかくフラットな印象。リスニング用にありがちな"中域がヘコんでいてドンシャリで心地よく聴こえる"ようなチューニングはされていません。原音の忠実性に重きを置いている印象で、明りょうさ&鮮明さはかなり高く、ローエンドからハイエンドまでしっかりと聴き取れます。中域に音が集まっているソースだと多少うるささは感じますが、それは元のバランスをそのまま再生しているということ。しかも、中域に集まった要素がにじんでしまうことはなく、しっかりと把握できます。分離感もよく、各楽器の定位、ダイナミクスも非常に聴き取りやすい印象。音圧感に関しても、音源ソースが持っている音圧をそのまま再生しているようで、密閉型のヘッドフォンにありがちな、カツンカツンと鼓膜を直撃する痛さは感じられません。音がこもったりザラついたりすることはなく、分解能も全く問題が無いです。装着感は圧力が若干強いのですが、イアー・パッドが耳をすっぽり包み込むタイプで、クッションも厚いため、痛さを感じることはないでしょう。ヘッド・バンドの調整も可能なので安心して付けていられます。

NS-10M Studioユーザーは近いニュアンスでモニターできる


さらにスピーカーとの関係も含め、本機が現場でどう活用できるかを見ていきたいと思います。音の印象でまず思ったのが、とにかく"正確"であるということ。普段聴いているリファレンスCDを何枚かチェックしての感想ですが、普段自分がスピーカーを聴いてイメージしてきた印象とほとんど変わりませんでした。もちろん、自分がどんなモニター環境を基準に置いているかでそれは変わってきますが、筆者はYAMAHA NS-10M Studioを使用しており、スピーカーとヘッドフォンという違いはあれど、帯域感や音圧感など音のイメージは近いという感想を持ちました。また、現在スタジオでの稼働率が高いヘッドフォンはSONY MDR-CD900STと言えますが、これは音楽的なサウンドというよりも、音が若干硬く、ローエンドの伸びがない印象があります。実際の現場では、心地いいサウンドよりも、正確な音をとらえた方がいい場合が多く、逆にそれがスタンダードになっている理由の1つなのですが、SRH840は音が硬いわけでもなく、それでいて中域が痛い場合はちゃんと"痛く" 聴こえてくれます。しかも高域から低域までフラットに聴こえつつ、奥行きも感じられるので、非常にバランスよく原音を再生しているという印象でした。モニターとしての判断ができつつ、音楽的なバランスも崩さない本機。MDR-CD900STと同様現場向きなので、次世代スタンダードになりうる可能性は今後大いにあるのではないでしょうか。

▲同時にリリースされたバリエーション・モデル。左からSRH440(オープン・プライス/市場予想価格12,000円前後)、SRH240(同/市場予想価格7,000円前後)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年1月号より)
SHURE
SRH840
オープン・プライス (市場予想価格/20,000円前後)
▪形式/密閉ダイナミック型▪感度(1kHz)/102dB/mW▪周波数特性/5Hz~25kHz▪インピーダンス/44Ω▪重量/約318g