ALESISとの共同開発から生まれたボコーダー機能付き小型シンセ

AKAI PROFESSIONALMiniak
小型、超軽量、低価格でありながら3オクターブの標準鍵盤、ホイールを3つ搭載する多機能機

AKAI PROFESSIONAL Miniak オープン・プライス(市場予想価格/52,000円前後)AKAI PROFESSIONALから発売された小型シンセ、Miniak。小型、超軽量、低価格でありながら3オクターブの標準鍵盤を装備しており、ホイールを3つも搭載するなど、個性的な作りになっている。マイクも付属するのでボコーダーとしても使用可能。小ささゆえラップトップによるパフォーマンス時など、さまざまな用途がありそうだ。早速試用してみよう。

鍵盤をショートカット・キーとして使用 少ない操作子で快適にオペレート


本製品はALESISのシンセサイザー・チームと共同開発されたとのことで、ALESIS Micronに近い作りとなっている。実際に外観としては3オクターブの小型、3つのリアルタイム・コントロール用つまみなど共通点も多く、プリセット・サウンドも同じものが多く見受けられるが、構造やパラメーターの呼び名が変更されたり、プリセット音が新しくなったりしている。さらに操作子の工夫など、多くの改良点が見られる。まずは操作体系を見ていこう。一番左にはピッチ・ベンド、モジュレーション・ホイールが2個と、リアルタイムでのエディット用にアサイナブルなX/Y/Zの3つのつまみを配置(写真1)。

▲写真1 パネル左の操作子。左から、ピッチ・ベンド・ホイール、モジュレーション・ホイール1/2、X/Y/Zのアサイナブル・ノブ。その下にはプログラム・バンクを選択する際に用いる鍵盤のショートカット名が記されており、この表記に従って音色を呼び出すことが可能だ


中央部に目を移すと、テンポやアルペジオ・パターンを設定するパフォーマンス系のボタンと、4つのモード切り替えスイッチとを配している。パネル右上にはマスター・ボリュームつまみ、プリセットの選択などに使うDATAつまみ、セーブ時に使うSTOREボタン、環境設定時に使うCONFIGボタンを用意(写真2)。

▲写真2 こちらはパネル右部。使用中ディスプレイは美しいブルーに点灯する。その下はモード選択スイッチ。右上にはプッシュブルのDATAノブとCONFIGボタン、STOREボタン、そしてボリューム・ノブとなっている


本機の操作子はこれだけだ。本体の内部から光が出ており、これがホイールのすき間から漏れているのがカッコいい。特にライブでは目を引きそうなデザインだ。Miniakは大きく4つのモードから構成されている。まずサウンド構築の基本となる音色を選択して演奏する"PROGRAM"、アルペジオやシーケンサーでフレーズを作る"SEQUENCE"、複数のドラム系の音色を組み合わせてリズム・パターンを作る"RHYTHM"、そして複数のプログラムやリズム、シーケンスを組み合わせて多くのパートを演奏させる"MULTI"の4つだ。ではPROGRAMモードで、プリセットの音色やシンセサイザーとしてのスペックを見ていくことにしよう。同時発音数は8ボイスで、600以上のプリセットを持ち、最大1,000個のプログラムが保存可能となっている。音色の選択は、ディスプレイ下のPROGRAMボタンを押してからDATAつまみを回すことで行う。音色には番号は付けられておらず、"BASS" "PAD" "BRASS"といったカテゴリー別に分類されたものがABC順に並んでいる。頻繁に使用する音色はDATAつまみを押し込んで"FAVES"カテゴリーへ登録すれば、素早く呼び出すことが可能となる。しかしながら、1,000ものサウンドを1つのつまみを回して探し当てるのは大変だろう。そこで本機では、より便利な方法として鍵盤をショートカット・ボタンとして機能させることができるのだ。PROGRAMボタンを押しながら鍵盤の上に記載されているカテゴリーを選択すれば、そのカテゴリーに瞬時にジャンプができる。この鍵盤をショートカットとして用いる操作体系は本機の特徴と言えるだろう。またこのとき、"ALL"にジャンプすることで、すべてのカテゴリーの音色を
ABC順に並べ、その中から目的のサウンドを探すこともできる。サウンドの傾向としてはアナログ系が得意で、シンセ・ベース、リード、パッド、シンセ・ドラム音を多く収録しているが、ほかにもストリングス、ブラス、キーボード系、SE、そしてボコーダーが用意されている。印象としてはやはりALESISのシンセに近い印象。クールでハデな部分もあり適度に太く、きらびやかさもありクリアなサウンドだ。ボコーダーも使用してみたところ、さすがにボコーダー専用機の多機能さにはかなわないが、ライブで飛び道具的に使うのには面白そうだ。

フィルターやエフェクトも強力 1台で楽曲制作にまで対応


音色のエディットでも、鍵盤を使ったショートカットが有効だ。右半分の鍵盤上に赤い文字でVOICE EDITの各パラメーターが記されている。PROGRAMボタンを押しながらこれらの鍵盤を押すことで各パラメーターのページに瞬時に移動ができる。オシレーターやフィルターなど大まかなパラメーターの位置に移動し、DATAつまみを回すことで目的のパラメーターを選ぶことになる。ここでDATAつまみを押しこむことで、液晶画面上でカーソルがパラメーターからバリュー(値)の方に移動するので、設定を行う。多くの機種ではページ・ボタンでページをめくり、矢印ボタンでカーソルを移動させ、ノブやスライダーで値を調整するようになっているが、1つのつまみと鍵盤を"押す""回す"だけでパラメータの選択と値の入力ができ、瞬時にページの行き来までできてしまうのだ。一回の操作で考えればわずかな違いでも、大量の微調整を必要とするシンセの音作りにおいては、右手を全く移動させずに細かい作業ができるのは素晴らしい。ではボイスの仕様を細かく見ていこう。オシレーターは3つ。波形はサイン波、三角/ノコギリ波、パルスといった基本波形を用意。これらはすべてウェーブ・シェイプの値を-100~100%で設定できる。どのように波の形が変化するかは選択した波形によって異なる。サイン波の場合は高次倍音が変化し、パルス波ではパルス幅が変化する。三角/ノコギリ波の場合は、±100%のとき波の頂点が両端に寄ってノコギリ波に、0%で中央に来て三角波になる。三角波とノコギリ波を、傾斜が違う同種の波形ととらえているわけだ。3つのオシレーター以外にも、オシレーター後のミックス部分で、リング・モジュレーターやノイズ、外部入力もミックスできるようになっている。フィルターは2つが並行に配置され、各オシレーターからどちらのフィルターにどれだけの割合で音を流すかなど、細かく設定が可能。フィルタータイプは2/3/4/8ポールのローパス、2/6/8ポールのバンドパス、2/4ポールのハイパスに加え、ボーカル・フォルマントやコム、フェイズ・ワープと豊富なタイプがそろっている。フェイズ・ワープは、フィルターを直列に連ねることでフェイザー効果を得るものだ。エフェクトはコンプレッサー、リミッター、ディストーション、チューブ・アンプなどといったドライブ系のインサート・タイプのものに加え、マスター・エフェクトとしてコーラス/フランジャー/フェイザー/ボコーダーのFX1、ディレイ/リバーブのFX2がセンド・リターンで使用できる。Miniakには"RHYTHM"というモードが存在する。これは、プログラムの音源を複数使用してリズム・マシンのようにパターンをプログラミングすることができるモードだ。これ以外にも、アルペジエイターやリアルタイムに演奏したものをループさせるフレーズ・レコーダーも搭載されており、これらは"SEQUENCE"モードで細かく設定ができるようになっている。最後の"MULTI"モードは、8パートのマルチティンバー演奏が可能。リズムを割り当てたり、シーケンス・パターンを割り当てたり、キー・スプリットを組んだりと、鍵盤上に好みのサウンド設定が可能だ。最後にリアルタイムでの操作について。X/Y/Z3つのつまみは音色ごとに自由に希望するパラメーターにアサイン可能になっている。またホイールもピッチ・ベンドとモジュレーション合わせて3つ用意されている珍しい形だが、例えばモジュレーション・ホイールの1つはビブラートに、1つはフィルターにアサインし、状況によって使い分けることが可能。表現の幅が広がるだろう。Miniakのスペックを大まかに見てきたが、小さなボディながら多機能なことが分かっていただけたと思う。何よりこの小ささで標準鍵盤を使用している点はかなりポイントが高い。欲を言えば、USB端子を付けてオーディオ・インターフェース機能を搭載し、さらにDAWへMIDI入力ができたら良かったなと思った。

▲リア・パネル。左から、電源スイッチ、電源ジャック、AUDIO OUTPUT R/L(TRSフォーン)、ヘッドフォン端子、EXTERNAL INPUT R/L(TRSフォーン)、エクスプレッション・ペダル(フォーン)、サスティン・ペダル(フォーン)、MIDI THRU/OUT/IN


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年1月号より)撮影/川村容一
AKAI PROFESSIONAL
Miniak
オープン・プライス (市場予想価格/52,000円前後)
■ 最大同時発音数/8■ パート数/8パート■ オシレーター/各ボイス3基(サイン波/三角&ノコギリ波/パルス)■フィルター/各ボイス2基■ LFO/各ボイス2基■ドライブ・エフェクト/6タイプ■ マスター・エフェクト/FX1とFX2合わせて12タ イプ■ 最大プログラム数/1,000■ 鍵盤数/37■ 外形寸法/580(W)×82(H)×276(D)mm■重量/5.4kg