Pro ToolsシステムのオーディオI/Oにもなるギター・アンプ・ヘッド

DIGIDESIGNEleven Rack
真空管ギター・アンプ・シミュレーション・プラグインのDIGIDESIGN Elevenを核とした、スタンドアローン・エフェクト・プロセッサー兼オーディオI/Oとして使用可能なハードウェア

DIGIDESIGN Eleven Rack 132,300円そのサウンドのクオリティで、真空管ギター・アンプ・シミュレーション・プラグインとして高い評価を得ているDIGIDESIGN Elevenシリーズ。このElevenを核にし、スタンドアローン・エフェクト・プロセッサー兼オーディオI/Oとして使用可能なハードウェア、Eleven Rackが発売された。単なるハードウェアへの置き換えにとどまらず、さらに磨きがかかったシミュレート能力、同社のDAWソフトPro Toolsとの連携っぷりなど、充実した機能の数々をご紹介していこう。

真空管ギター・アンプを見事に再現 キャビに立てるマイクも多数モデリング


本機はPro Tools LE 8 Softwareが付属し、Pro Tools HD/LE/M-Powered 8 Softwareからのコントロールが可能なのだが(画面1)、まずは単体使用時を想定しながら概要を追っていく。

▲画面1 付属のPro Tools 8 Softwareにある
Eleven Rackのコントロール・ウィンドウ。エフェクトの接続順や、Eleven Rackの各種設定が行える。この画面ではSOLDANO系ハイゲイン・アンプを選択しているところ。Pro Tools HD/M-Powered SoftwareでもEleven Rackを接続することでこの画面が表示される


Eleven Rackの中にはプラグイン版と同様のアンプとキャビネットに加え、ボリューム・ペダル(最小値設定やカーブ特性の選択が可能)、そしてWAH(2種類)、DIST(3種類)、MOD(5種類)、DELAY(2種類)、REV(2種類)、FX1&FX2(モジュレーション5種類とコンプ、GraphicEQから選択)という、7系統が同時使用可能豊富なエフェクトがある。エフェクトはそのほとんどが"個性的であるが故に定番となっているビンテージもの"であり、ギタリスト心をくすぐるチョイスと言えよう。個人的にはペダル操作ができる"Vibe Phaser"( 画面2 /UNIVOX Uni-Vibeがモデル)、ヒス・ノイズのオン/オフやワウ・フラッターの加減までコントロールできる"EP Tape Echo"( 画面3 /MAESTRO Echoplex EP-3)に、Pro Tools上でのグラフィックを含めニンマリしてしまった。

▲画面2 Vibe Phaserは、フット・ペダルを接続してのコントロールにも対応。このほかワウやボリューム・ペダルなども外部ペダルで操作でき、動きをMIDIデータとして記録可能



▲画面3 EP Tape Echo。空間系ではほかにアナログ・ディレイやスプリング・リバーブに加え、DIGIDESIGNのTDMプラグイン、Reverb Oneのアルゴリズムを採用したデジタル・リバーブも用意


Eleven Rackでは、アンプ&キャビのセットと7系統のエフェクト、ボリューム・ペダル、さらにFX LOOP(本体へループ接続した外部エフェクター)を加えた10系統がカスケード接続されており、順番の入れ替えは自由自在。本機ではこれらの接続とパラメーター設定の一まとまりを"Rig"と呼び、保存/呼び出しが可能となっている。ギターをつなげ音を確認してみると、そのリアルなサウンドにビックリさせられる。FENDER、MARSHALL、MESA/BOOGIE、SOLDANOなど真空管ギター・アンプの特徴を見事にとらえ、それぞれのキャラクターが明確だ。特にクランチっぽい"軽くひずんだ音色"の表現力は素晴らしく、ピッキングのニュアンスがもたらす抑揚に追従してくれるので、弾いていて気持ちが良い。パワー・アンプのサグ、キャビネットの共振などの再
現にも注意を払ったという"緻密(ちみつ)さ"が十分サウンドに現れており、強くひずませたときにはスピーカー・ユニットが振動する感じまで伝わるようだ。キャビに立てられるマイクも多数そろっており、個人的によく使うSHURE SM57、AKG C414、ROYER R-121などのモデリングを試してみると、確かに聴きなじみのある音色、それぞれの特徴を確認できた。トータルな音色傾向としては、従来のギター・アンプ・シミュレーターにありがちだった過度な高域のギラつきや無駄にブーミーな部分が無く、ナチュラル。ギター特有の中域のクセっぽい部分に嫌みが無く、全体的にスムーズで抜け良くレスポンスが良い。いい意味で"DIGIDESIGNらしい"、まとまりのある上品な印象であった。

入力インピーダンスを自動調整 多彩な出力端子でライブにも対応


端子類をじっくり見ていこう。フロント・パネル左下にあるGUITAR INPUTには、True-Zというインピーダンス自動マッチング・システムが使われている。これは、実際のギター、アンプ、エフェクトの接続状態の違いにおける入力インピーダンスの変化を再現したものであり、Rig内でアンプ、各エフェクトの接続順およびそれらのオン/オフ
を変えると、それ相応の入力インピーダンスに変わる。試しにドライに設定したDELAYとフラットに設定したGraphic EQをつなげ、順番を入れ替えてみたところ、入力インピーダンスの違いのみにおける音色の違いを確認できた。また入力インピーダンスを任意の設定に固定することも可能(画面4)。この機能がよりリアルなギター・サウンド作りに貢献していることは間違いなさそうだ。

▲画面4 Guitar InのTrue-Zは、Rig上の一番手前にある機器に合わ
せて入力インピーダンスを自動調整する機能。この画面のようにマニュアルでの設定も可能だ


また本機ではラインでのMAIN OUTPUT(XLR)のほかに"OUTPUT to AMP"というアウトが2系統用意されている。そのうち1つはフロント側に配置されているが、ギター・アンプの多くがフロント側に入力端子を備えていることを前提にした、接続をしやすくするための工夫らしい。そしてこの出力端子のありがたいことはもう一つ。ここ
から出力する信号を、Eleven Rack内の5つのポイントから選択可能なのである。例えば、MAIN OUTPUTからはEleven Rackで作り込んだRigの出力をライン・レベルでPAへ送るとともに、OUTPUT to AMP1からはモデリング・アンプ直前の信号を抜き、エフェクトだけかけた音を出して実際のギター・アンプに入力。さらにOUTPUT to AMP2からはキャビネット・モデリングだけを省いた信号を別のパワー・アンプ&キャビにつなぐ......などという複雑なことも容易にできる。実際のギター・アンプを使うライブやレコーディングでも大いに役立つであろう。

Pro Tools内で簡単にリアンプ 設定もオーディオ・リージョンが記憶


さて、サンレコ的にはここからが本題。Pro Toolsとの関係について紹介していく。本機はPro Tools LE Software対応の24ビット/96kHz
オーディオI/O(USB 2.0接続)として機能する。入力はアナログが先程のGUITAR INPUTのほかにファンタム電源&PADを持つMIC INPUT、そしてステレオのLINE INPUTで4系統。デジタルがAES/EBUもしくはS/PDIF、そして2系統のRig In(内部バス:Rigへの入力)があり、計8系統を備える。一方出力はアナログがステレオのMAIN OUTPUT、デジタルとしてAES/EBUもしくはS/P DIF、そしてRig Out(内部バス:Rigからの出力)の6系統となる。Rig Inは文字通りRigに送る信号で、そのソースは先程のアナログ&デジタル入力のすべてに加え、Pro Toolsのトラックも選択できる。例えば本機にギター、ボーカル・マイク、リズム・マシンを接続し、同時に録音する......という一般的な使い方も当然可能だ。しかし、本機独特の使い方は、例えば次のようなルーティングになる。まずPro Tools上のモノトラックにGUITAR INPUT、ステレオ・トラックにRig Outをアサインして録音する。これで接続したギターのドライ音と、Eleven Rackによって作り込まれたウェット音が別々に録音できることになる(画面5)。

▲画面5 アンプ&エフェクトを経由した音(上)とドライのギター(下)を同時かつ簡単に録音できるのが特徴。ドライの音をEleven Rackで"リアンプ"するのも簡単だ


そして録音後、先程録音したドライのギター・トラックをRigInに入力すると、これをあらためてEleven RackのRigでアンプ&エフェクト処理できるのだ。最初の録音時とは違ったセッティングでギターを鳴らす......いわゆる"リアンプ" がいとも簡単に実現する。さらにこれだけではとどままらず、Rig Outを録音したリージョンではそのRigセッティングを記録しておくことができるのだ!(画面6)。

▲画面6 画面5上のように、右上に"E"アイコンがあるリージョンを右クリックするとこのメニューが登場。最下段の"ギター リグ設定をロード"で録音時のEleven Rack設定が瞬時に呼び出せる


Eleven
Rackはプラグインではないので、各トラックごとのデータを管理するのにこの機能は大変ありがたい。その昔、さまざまなレコーディング・データのリコール作業に少ない知恵を振り絞り、惜しみない労力を注いでその再現性を何とか確保して来た身としては天国のような機能である。そして多くのPro Tools LE(を含むCPUベースのDAWソフト)ユーザーが抱えてきたレイテンシー問題も、専用DSPをデュアルで搭載している本機であれば見事に解決。低レイテンシー・モニタリング・モードにすれば、Rig内で作り込んだ音色のままリアルタイムでストレス無く演奏し、録音することができる。実はこれが一番需要が高い機能なのかもしれない。ちなみに、Pro Tools HD/LE/M-Powered
Softwareが立ち上がってさえいれば、セッション・ファイルを開かなくともEleven Rackのコントロール・ウィンドウにアクセスできる。各種設定をより視覚的にエディットできるのも親切だ。本体上の操作では触れるノブを間違えたりすることもあるので(ノブの動きに若干"遊び"があったことも付記しておく)、環境が許せばコンピューターとの接続をお勧めする。そして、いざセッションを立ち上げると、編集ウィンドウの上部にギター・パネルが表示されるなど、細部にわたるまで自社製品同士の連携は抜かりない。自宅でじっくりギターの音を作り演奏&録音し、それをレコーディング現場に持っていき音色と演奏をアジャスト。ライブでもそのセットがそのまま使える......という環境がEleven Rackによって実現する。使い方次第で更なる可能性を秘めているのは言うまでもないであろう。

▲リア・パネル。左からFX LOOP SEND L/R(上段/TRSフォーン)とRETURN(下段/TRSフォーン)で、RETURNレベルはラック/ペダルの切り替えが可能だ。続いてMAIN OUTPUT L/R(XLR)とその中央にグラウンド・リフト・スイッチ。その下がLINE INPUT L/R(TRSフォーン)とインプット・レベル切り替えスイッチ。右上にOUTPUT TO AMP 2(フォーン)と、その下にMIDI IN、OUT/THRU。右隣はペダル/フットスイッチ入力(TRSフォーン)で、AES/EBU入出力、S/P DIFコアキ
シャル入出力、USB端子が続く


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年1月号より)
DIGIDESIGN
Eleven Rack
132,300円
▪外形寸法/483(W)×89(H)×279(D)mm▪重量/5.5kg

▪Windows/Windows XP Home/Professional(SP3/32ビット)またはVista(SP2/32ビット)、1GB以上のRAM、USB 2.0ポート、DVDドライブ▪Mac/Mac OS X 10.5.5、PowerPC G5 またはINTELプロセッサー、1GB以上のRAM、USB2.0ポート、DVDドライブ