リアルな立体音場をステレオ再生環境で生み出すWindows用ソフト

ARNIS SOUND TECHNOLOGIESSoundLocus
8trのオーディオを三次元空間(前後/左右/上下)の任意の位置に音像を定位させたり、移動させることができるソフト

ARNIS SOUND TECHNOLOGIES SoundLocus 65,000円"ステレオ再生で3D音響を!"というと、まずはバイノーラル録音ができるダミー・ヘッド・マイクを思い起こされる方が多いでしょう(使用されたアルバムはたくさんありますが、筆者はルー・リード『警鐘』を一押ししておきます)。あと、懐かしいところで"ホロフォニック録音"でしょうか。原理は今もって謎ですが、サイキックTVやピンク・フロイド、そしてマイケル・ジャクソンのアルバムで使用されて大きな話題になりました。ROLANDのRSSシステムも有名で、筆者も何度かスタジオで使ったことがあります。魅力的なツールであることは確かなのですが、ちょっと個人では手が出せない代物でした(ホロフォニック録音の使用料は途方もない金額だったようです......)。そこから21世紀を迎えて今回のSound Locusが登場したのですが、その実力はいかがでしょうか。早速チェックしたいと思います。

3D定位のオートメーションが可能 ゲーム用コントローラーでの操作も実現


SoundLocusは8tr(モノラル、ステレオ問わず)の波形編集/ミックスが行えるWindows対
応ソフトです。8trというと"いまどきなんて低スペックな!?"という意見が出ると思いますが、SoundLocusはその8trのオーディオを三次元空間(前後/左右/上下)の任意の位置に音像を定位させたり、移動させたりできるのです! 画面上にダミー・ヘッドが現れてマウスで音像を動かすことができます。音像を3Dで動かすことができるのはモノラル・トラックのみ。そのほか7.1chまでのサラウンド(各チャンネルはモノラル・ファイル)をステレオ・ファイルにダウン・ミックスするモードも備えています。マウスでグリグリ動かしてみたのですが、これがなかなか! まずマウスの左ボタンを押してドラッグすると、X軸(左右)、Y軸(前後)方向に音源を移動させることができます。Z軸(上下)方向に音源を移動したいときはマウスの左ボタンと右ボタンを同時に押してドラッグします。その軌跡をオートメーション情報として記録することができ、トラックの下に表示させての編集も可能です。また、その軌跡をダミー・ヘッドの周りに3Dで表示、編集することも可能となっています。これは視認性が高くてすごく分かりやすいです!また、今回チェックできなかったのですが、SONY Playstation 2のコントローラーをマウスの代わりに使用することができるのも大きなポイント(PS2 to USB GAMEPAD CONVERTERを使用)。同様の操作はDirect Input対応USBゲーム・コントローラーや3Dマウスでも可能だそうです。また、NINTENDO WiiリモコンにもBluetooth接続で対応予定とのことでした。マウスだと、X軸&Y軸の移動とZ軸の移動を同時に行うことができなかったので、機能をフルに使うにはこうしたコントローラーを使うのがベターでしょう。説明書を見ると、3D空間での定位だけではなくSoundLocusの操作の大部分をコントローラーにアサインできるようです。

定位の動きに加えドップラー効果も再現 ReWire対応でDAWソフトとも連携


SoundLocusでの3D効果は、スピーカーで聴くよりもヘッドフォンで聴く方がやはりよく分かります。個人的な意見としては、上下の感じは"発展途上"という感じがしましたが、前後左右の感じは"既に完成されている!"と思いました。3Dの音像移動にドップラー効果を加味することも可能で、これはかなりヤバいです。ヘッドフォンで調子に乗ってグルグルやっていたらかなりキました。この感覚は伝説のパンナーSONGBIRD FS-1以来かも......。遊園地の"魔法のじゅうたん" "コーヒー・カップ"など、グルグル系アトラクションが苦手な方(私も含めて......)は要注意です。またSoundLocusはReWire対応なので、基本の音素材はホストのDAWソフトに入れておいて3D処理するトラックだけSoundLocusで扱う、ということが簡単にできます。もちろんマシン・スペックにもよりますが、SoundLocusでの3D処理はさすがに負荷が大きいので、3Dネタがまとまったところでホストに録音というのが実用的かもしれません。SoundLocusでもファイル・エクスポートすることが可能ですが、今のところ対応しているフォーマットは16ビットWAV/AIFFです(内部では24ビットや32ビット・フロートも扱えます)。このSoundLocus、ゲームのSEデザイナーが待ち望んだソフトの一つなのではないでしょうか。TV、Webでの"飛び道具"としても非常に有効だと思います。また、ReWire対応という点で音楽畑での利用もかなり敷居が低いのでは?と思います。SoundLocusの基本技術はHRTF(Head Related Transfer Function=頭部伝達関数)という"音源から聴取者の耳に至るまでの経路における音の伝搬特性を仮想的に再現する関数"を使用しているそうで、この技術もまだまだ進化中ということです。5.1ch(を含めた多チャンネル)サラウンド・ミックスはここ数年で定着してきましたが、実際のリスニング環境では、やはりステレオでのミックスを耳にすることが大半を占めると思います。そんな中で手軽に、かつ高品質な3D音響が手に入るSoundLocusの登場は時代に即したものだと思います。今後の進化も含めて期待大のソフトだと思いました。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年12月号より)
ARNIS SOUND TECHNOLOGIES
SoundLocus
65,000円
▪Windows/Windows XP SP2以降、Vista(32ビット版)、INTEL Core2 2GHz以上もしくはAMD AthlonX2 2GHz以上のCPU、2GB以上のメモリー、1,280×1,024以上のディスプレイ、DirectX9対応のビデオ・カード(VRAM128MB以上)、ASIO対応オーディオI/O、DVD-ROMドライブ、インターネット接続環境、軌跡コントローラー(Dualshock IIなど)用のUSBポート、5GB以上のハード・ディスク空き容量