ビンテージ的な温かさあふれる自然なサウンドが魅力のリボン・マイク

SHUREKSM353
派手ではないが、"ありのまま"を伝えるリボン・マイク

SHURE KSM353 オープン・プライス(市場予想価格/295,000円前後)多様化していく近年のサウンドの中で、ここ数年はビンテージ機材が見直され、復刻版やプラグインなどでよみがえっている。この現象は1990年代半ばまでのハイファイ一辺倒のサウンドからの脱却、そして何よりアーティストやエンジニアたちの個性を求め試行錯誤した結果から生み出されたものだ。"新しさ" を求めて"古いもの" に還る。しかし、そこに革新技術がプラスされているのが録音機材の特徴である。

Roswelliteリボン・テクノロジー導入 高い最大音圧レベルを確保


今回紹介するKSM353は現在ではごく少数派のリボン・マイクである。その歴史は古く、ハイファイ時代には見向きもされなくなった機種ではあるが、最近ではその良さが再び見直されてきている。構造的にはダイナミック・マイクに近く、薄くギザギザに折り畳んだアルミ箔を振動させることにより発生する電力を取り出す仕組みで、このKSM353にはCROWLEY AND TRIPPのマイクの特徴であったRoswelliteリボン・テクノロジーを導入している。これは高い抗張力と形状記憶力を持っているため、昔のリボン・マイクのように過剰なほどデリケートに扱わなくてもよいそうだ。特製の木箱を開けると本体は縦にスッポリと収まるように作られており、厳重にホールドされている。この"縦置き"は、振動体のリボンがたるまないようにする配慮で、リボン・マイクの保存の基本だ。本体は直径約5cmの円筒形で、高さは16cmほどのサイズ。思ったよりも小ぶりだが、重量は633gとずっしりくる重さだ。パーツも厳選されたスチール/シルバー/ゴールド/アルミ部品で、丹念にハンド・メイドで組み上げられており、洗練された高級感に包み込まれている。最大音圧レベルは146dBとかなりの許容量を持ち、打楽器などのピークの多い音源や、ギター・アンプなどにも立てられそうだ。指向性は双指向でポーラ・パターンもきれいな8の字を描いている。

マイクプリの特性が表出 ピークの多い楽器にも最適


今回のテストではBRENT AVERILL 3405と1272、入力インピーダンス切替があるAVALON DESIGN AD2022を用意し、比較対象としてコンデンサー・マイク2機種と、SHUREのダイナミック・マイク、SM57を交えて行った。早速ボーカルを録音してチェック。3台のマイクプリいずれとも相性がよく、逆にアンプの特徴をよく引き出したその音は実に"自然"だ。しかし自然であるがため、近年のハイ上がりのコンデンサー・マイクとの比較ではどうしても地味に感じてしまうところがある。特にリボン・マイクの特徴とも言うべき10kHzから上がストンと落ちていく周波数特性カーブは本マイクにも見られた。だが、これを考慮して使えばリボンならではの良い部分がたくさん見えてくるのだ。この色付けのない自然な音は"後に加工しやすい"ということでもあり、10kHzから上をシェルビングEQで5dBほどブーストしてやれば、その下の嫌みのない中高域が、ツヤツヤに磨かれた原石のように出てくる。中域からボトム・ラインにかけても無理が無く、とても親しみやすい音だ。やはりダイナミック・マイクとも決定的に違う表現力の差や、磨き抜かれた最新のコンデンサー・マイクとも違う"アナログの温かさ"みたいなものが感じられる。またもう一つリボン・マイクの特徴として、打楽器など大きなピークを持つ楽器に対しピーク・リミッター的な役割ができるという点が挙げられる。音に対するリボンの反応が"適度に鈍い"という構造ゆえ、程よく最初の衝撃を吸収してくれるのだ。タンバリンの録音では、アタック音に劇的な違いが現れた。感度の良いコンデンサー・マイクでは、低域の衝撃音が"バコッ"というのに対し、本マイクでは"ストン"ととてもキレイなアタック音に。しかも振ったときの"チャリチャリ" のレベル差が少なく、アタックをリミッターで抑える必要が無かった。よりダイナミクス・レンジの大きいインストゥルメントやバラード曲のボーカルなどにも最適だろう。今回のテストではアコギとバイオリンでも使用してみたが、荒いピッキングでも暴れが少なく、ノー・コンプでもいけてしまうのはプレイヤーにとってもエンジニアにとってもうれしいところ。ノイズも少なく表現力にも優れている。一般的なリボン・マイクより頑丈な作りであることも
実感した。とは言え、強く吹いたり、裸でブラブラ振って持ち歩くのは控えるべきだろう。ボーカル録音では2重のウインド・スクリーンを使うことや、鼻の上から口元を狙うなどの工夫をした方がいい。決して派手ではないが、"ありのまま"を伝えるこのKSM353。ハイ上がりのサウンドの中で忘れてしまったアナログの温かさを思い出すことができるマイクだ。ビンテージの機材が見直されている昨今、個性としての"古さ"を、どのように"新しさ"に変換するのか?ということを、このKSM353の中から見いだすことができた次第である。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年12月号より)
SHURE
KSM353
オープン・プライス (市場予想価格/295,000円前後)
■ 指向性/双指向■ 周波数特性/30Hz〜15kHz■ 最大音圧レベル/146dB■ 出力インピーダンス/270Ω■ 感度/−53.5dBV/Pa(2.11mV/Pa)■ 外形寸法/48.2(φ)×157.5(H)mm■ 重量/633g