16イン/16アウトのオーディオI/O内蔵高品位アナログ・ミキサー

MACKIE.Onyx・1640I
DIGIDESIGN Pro Tools M-Powered Softwareとの併用が可能で、FireWireケーブル1本で24ビット/96kHzの16tr同時録音できるアナログ・ミキサー

MACKIE. Onyx・1640I 288,750円ちょっと前、MACKIE.がOnyxシリーズを出し始めたころから、東京生まれMACKIE.育ちの僕としては、"近ごろMACKIE.はやりよるな"と思ってインディーズのレコーディングからプリプロ、リハスタでの録音、ライブ録音などさまざまな場所/目的でOnyxやVLZシリーズのミキサーを使い倒してきたわけです。ここに来てついに、DIGIDESIGN Pro Tools M-Powered Softwareとの併用が可能で、FireWireケーブル1本で24ビット/96kHzの16tr同時録音できる機材がリリースされました。ということでそのOnyx・1640Iのポテンシャルを探っていこうと思います。

従来のモデルを踏襲したレイアウト 6系統のAUXでPAにも対


写真を見て分かるように、つまみの位置などは従来のVLZやOnyxシリーズと一緒です。いままでMACKIE.のミキサーを使ったことのある人なら、説明書を読まなくてもいきなり使い始められます。ただし、オーディオI/O機能を内蔵しているため、FireWireスイッチが新しく追加されました。本機では16のインプット・チャンネルの信号をDAWヘ録音できるだけでなく、DAWのマルチアウトを16chのインプットに立ちあげることもできます。また、従来M-AUDIO製のオーディオI/Oとの併用しかできなかったPro Tools M-Powered 8 Softwareに対応しているのもポイント。ただしユーザー登録後、Webサイト( www.mackie.com/jp)でPro Tools M-Powered専用ドライバー(49.99ドル)を購入する必要があります。

インプット・チャンネル(写真1)はマイク/ラインに対応し、ch1&2のみHi-Zボタンも搭載。全チャンネルに高級機にも匹敵するプリアンプを実装と4バンドPerkins EQを実装しています。60mmフェーダーも、リアルタイムで操作しやすいです。出力側ではプリ/ポストフェーダーが選択可能な6系統のAUXセンドがあり(写真2)、簡易的なPAでの使用も可能にしています。そのほか自由度の高いルーティングを可能にする4系統のサブグループや、D-Sub 25ピン端子でのチャンネルRECアウトも搭載しています。またオーディオI/Oとして本機を使用する際、ch5〜8の代わりにサブグループを、ch9〜14の代わりにAUXセンドを、そしてch15&16の代わりにメイン・ア
ウトをコンピューターへ送ることもできます。

マイクの位置まで音色に表れる特性 60mmフェーダーで快適に作業


では実際に録音をして使用感を試してみましょう。今回は16chもあるのでドラム、ベース、ギターの一発録りの後、ボーカルをオーバーダビングしてみました。まずは、キックの内側に立てたマイクAUDIOTECHNICA ATM25のゲインから調節していきます。ここで一つVLZシリーズと違う点が。本機はVLZに比べ、結構ゲインつまみを回さないと(2時〜3時くらいまで)適正なゲインが得られません。つまり、これはかなり細かい調整まで可能ということ。マイクの位置なども結構シビアに音色に現れるので、この値段のクラスのプリとしては、録りの段階でかなり突き詰めて音作りができました。キックの外側にもYAMAHA Sub Kickを立てて収音したのですが、ローエンドまでしっかりキャプチャーしていながら、このクラスのミキサーにありがちな"ローエンドが硬くて使えなさそうな感じ"は全くなく、好印象でした。次にスネアのSHURE SM57などを順次調整していきますが、ここで気がついたことが。僕はよく、コンプやリミッターの数が足りないときに、キックやスネアなどはピークがつくくらいまでヘッド・アンプのゲインを上げ、その後にフェーダーでDAWへ送るレベルを下げるという方法をよく使っています。しかし、本機で録音される信号はチャンネル・フェーダーよりも前なので、この技が使えませんでした。とはいえ、録音できるポイントはさまざま。先述したようにAUXやバスの信号も録音できますし、各チャンネルでも録音する信号はプリEQ/ポストEQの選択ができます。その後ハイハット、トップ、タムと調整していきましたが、周波数レンジのバランスもよく、作業がスムーズに進みます。また、ドラムのアンビエンスにCOLESのリボン・マイクを立てたのですが、ゲインも問題なく稼げ、マイクを選ばず使える機材ということを証明してくれます。ベースはアンプに立てたSENNHEISER MD421MKIIとラインのミックスです。レンジが広いながらも中域がしっかり録れていて安定しています。またギター・アンプにはROYERのリボン・マイクR-121を使いましたが、きちんとリボンらしさを表現できていて、優秀でした。


▲写真1 インプット・チャンネル(ch1)。4つのスイッチは48Vファンタム電源、FireWire(オンにするとコンピューターからの信号が本機に入力される)、ローカット(75Hz/−18dB/oct)、Hi-Z(ch1&2のみ)。ゲインつまみの下は、DAWへ録音する信号のプリEQ/ポストEQ選択スイッチ、4バンドPerkins EQ、6系統のAUX、パン



▲写真2 トークバックを内蔵したマスター・セクション。6系統あるAUXがプリフェーダー/ポストフェーダーの切り替え可能な点が大きな特徴。AUXリターンもステレオで4系統用意されている



 ここまで楽器隊を録ってきて、ドラムなどの複合楽器を録る場合やはり同一のマイクプリを使用するとまとまりが出て良いなぁと思いました。ここ何年かは各パーツによってカラーの異なるマイクプリで録音してきましたが、マイクプリをそろえると各パーツのつじつまが合うというか、まとまっているなぁという印象を受けました。続いてオーバー・ダビングでの使用感を確かめる意味も含め、ボーカルを録ってみました。今まで録った素材をパラで本機に立ち上げ、歌録り用のバランスを整えます。60mmのフェーダーでとても感覚的にストレスなく作業できるので素早く対応できるのでやりやすいです。僕の環境では少しレイテンシーが大きく感じられたので、歌録りのモニターはいわゆるダイレクト・モニタリングで行いました。この方法だと、レコーディング/プレイバックは毎回ボーカル・チャンネルのFireWireボタンを押して切り替えるというやり方になりますが、慣れてしまえば何の問題もなくサクサクを作業をこなすことができました。音質は、前述の通り"使える音"は当たり前で、EQボタンをオンにしても(フラット)音質変化は少なく、2kHz辺りを上げてみるとプラグインなどよりも自然に持ち上がるし、録音時にもある程度まで音作りが可能だという印象を受けました。 

DAWからの信号を立ち上げてサミング・ミキサー的な使用も可能


素材が16tr以内に収まったので一度すべてのトラックを本機のインプット・チャンネルに立ちあげてみました。コンプなどはDAW側で処理し、最後の補正的なEQを本機側で調整して、アナログ・ミックスしました。作業的には何も考えなくても手が伸びるのがよく、音楽的に作業ができるのですが、その一方でリバーブや空間系の処理がちょっとややこしくなってしまいます。しかし全チャンネル・アナログで立ち上げるというメリットは十分感じられました。デジタル・ミックスでは分離の悪さを感じたり、広がりの足りない印象を受けたりすることも多いのですが、それを解消する手段としてアナログ・ミックスは有効です。ですから、DAW内部である程度ミックスをステムとしてまとめた上で、本機をサミング・ミキサー的に使うのが、ミックスで使う上ではベストだと思います。マスター・フェーダーの出力もFireWire経由でDAWに戻せるので便利です。僕個人としては、本機は16ch入力というのが何ともうれしいポイントです。予算が限られていて、しかもスタジオ以外の場所で録音する必要がある場合、8chまでは何とか面倒くさくない範囲で用意できるのですが、それ以上となると結構大げさな機材を持ち込まなくてはならず、どうにかならないものかと思っていました。これ一台とノート・パソコンを持ち込めば、もうマイク・アレンジに悩むことなく、しかもセッティングもスムーズに行えそうです。

▲リア・パネル。上段はch1〜16のインサート(TRSフォーン)、Hi-Z(ch1&2/フォーン)またはライン入力(ch3〜16/TRSフォーン)、マイク入力(XLR)。その下は左からトークバック・マイク入力(XLR)、メイン・アウトL/R(XLR/TRSフォーン)とモノ出力(TRSフォーン)、メイン・インサートL/R(TRSフォーン)、TAPEイン&アウトL/R(RCAピン)、コントロール・ルーム・アウト(TRSフォーン)、サブアウト(TRSフォーン)×4、AUXリターンL/R(TRSフォーン)×4、AUXセンド×6。下段には電源インレット&スイッチとFireWire端子(400)×2、RECアウト(D-Sub 25ピン)×2。また、従来のこのクラスの同社アナログ・ミキサーと同様、この端子部をトップ・パネル側やボトム側に向けて設置することも可能となっている


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年12月号より)
MACKIE.
Onyx・1640I
288,750円
▪周波数特性(マイク入力→メイン出力:ゲインはすべてユニティ)/+0/−1dB、10Hz〜80kHz▪サンプリング・レート/44.1/48/88.2/96kHz▪外形寸法/444.6(W)×192.7(H)×666.7(D)mm▪重量/15.9kg

▪Windows/Windows XP 32 SP2もしくはVista 32/64 RTM、Pentium 4/CeleronまたはAthlon XPプロセッサー、512MB以上のメモリー、FireWire(IEEE1394)端子▪Mac/Mac OS X 10.4.11以降、G4以上のプロセッサー、512MB以上のメモリー、FireWire端子▪動作確認済みソフト/DIGIDESIGN Pro Tools M-Powered 8(要オプション)、APPLE Logic、Final Cut Pro、CAKEWALK Sonar、STEINBERG Cubase、ABLETON Live