UKブランドらしい豊かな中低域が魅力のPA用アクティブ・スピーカー

WHARFEDALE PROTitan 8 Active
世の中の何でも"コンパクト化"している昨今、PA界も"良質で小型/軽量化" する傾向にあります。今回レビューするWHARFEDALE PRO Titanシリーズも例外ではないでしょう。さて、まだ日本では聞き慣れないこのWHARFEDALE PROは、実は音楽にシビアなイギリスで、75年以上もの長い歴史、実績のある会社なのです!

WHARFEDALE PRO Titan 8 Active 50,000円

軽くて丈夫なボディながら300Wものハイパワー


Titanシリーズには大きく分けてパッシブ・タイプとアンプを内蔵したアクティブ・タイプの2種類があり、同時にそれぞれ大きさの異なるモデルとサブウーファーが発表されています。今回のレビューはアクティブ・タイプで、ウーファーが203mmのTitan 8 Activeを試していきましょう。大きさは396(H)×266(D)×221(W)mmと、アンプを内蔵しているにもかかわらず小型で、重量も5.7kgとかなり軽量化されています。本体は丈夫なポリプロピレン製。バイアンプ仕様の2ウェイ型で、高域用にはウェーブガイド・ホーンを備えた30mmのコンプレッション・ドライバーが使用されています。内蔵アンプは高域用ドライバーにクラスABを、低域用にはクラスDアンプを採用し、このサイズなのにピーク時で300Wものハイパワーと、小型化しても音には一切妥協しない姿勢がうかがえます。また、ウェーブガイド・ホーンの指向性は水平90°、垂直60°となっており、このサイズにもかかわらず周波数特性も70Hz~20kHzとかなり優秀な数値。さらに本体の底にはネジ穴が4カ所あるのでフライングでも使用でき、底面にはスタンド用のポール・ホール(ネジ付)も用意され、サイドに頑丈なハンドルまで付いています。上部から見た本機は左右対称の凹みがあり、そのテーパー部を利用して横置きし、コロガシとしても使用可能です。次にリア・パネルのミキサー部は何ともシンプルな作りで、電源スイッチとのXLR/フォーンのコンボ・タイプ入力、マイク/ライン入力の切り替えスイッチ、それにボリュームだけ! 最低限のものしか無いということは"何も設定しなくても良い音が提供できる"という自信の表れでしょう。

ひずみやハウリングの心配も無くリミッターも内蔵の安心設計


早速ですが、今回はキーボード・モニターとしてライブで使用していきましょう。電源を入れると、スイッチ横のPower LEDとは別に、スピーカー面の高域用ドライバー奥から青いリング状のLEDが見えます! これはステージ横のお客さんからは見えない上、照明や演出の邪魔にもならないし、プレイヤーも電源が入っているのが確認できるので安心感もありますね。しかし実際にはまだ安心はできません。問題はサウンドです!卓側の設定をすべてフラットにしてボリュームを徐々に上げると、ひと回り大きなスピーカーで鳴っているような感覚です。このサイズでこのハイパワー。サウンドは芯や輪郭があり、温かく届いてくれる音。ミッド・ローを中心としたスピーカーのサウンドがレベルを感じさせるんでしょうね。ボリュームをさほど上げなくても音量感があり、まさしくUKスピーカー独特のサウンドです!著者はUKスピーカーの大ファンなので、うれしくなって思わずニヤニヤしてしまいました。ただ、本機は少し低音に寄った音質になっていると感じたので、160Hz辺りを少し切りました。調整はこの程度で完了です。逆に、通常このサイズのスピーカーでは低音がスカスカの場合が多く、ここまでしっかり再生されている方がすごい。欲を言うなら高域用のドライバーの帯域ももう少し出ても良かった気もしますが、そうなるとUKっぽさ、良さがなくなってしまうのでしょうか?さらにかなりの音量を出しているのにかかわらず、ひずみも無く、マイクを持ったままスピーカーに近づいてもハウリングも起きません。むやみにモニターで音量を欲しがるプレイヤーでも安心して使用できます。実際リハ前にこれくらい返しておけば大丈夫だろうと思っていたのですが、リハが始まるやいなや"下げてください!"と言われてしまいました。このサイズでこの重量ならちょっとしたイベントやカフェでのメイン・スピーカーとしても問題なく使用できると思います。たとえ誤って音量を上げ過ぎても、リミッターを内蔵しているので、 "スピーカーが飛んでNG!"なんてトラブルも起きないでしょう。一口に"75年"と言葉にするのは簡単ですが、"音量と音質を共存させたスピーカーの開発競争"という時代に、ましてやライバルの多いイギリスで存続し続けられているその理由を、本機のサウンドを聴いて納得しました。"音楽したい"という気持ちにさせる魅惑のスピーカーです。今回はモニターとしてチェックしましたが、次は大きいサイズの製品をメインで使ってみたいですね。

▲リア・パネルのミキサー部。マイク/ライン入力(XLR/フォーンコンボ・タイプ)、インピーダンス切り替えスイッチ、ボリューム・ツマミのみのシンプルな構成になっている


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年11月号より)撮影/川村容一
WHARFEDALE PRO
Titan 8 Active
50,000円
▪周波数特性/70Hz〜20kHz▪指向角度/90°×60°▪外形寸法/396(H)×266(D)×221(W)mm▪重量/5.7kg