粒立ちが良く"実直なサウンド"が魅力の真空管コンデンサー・マイク

BRAUNERValvet X
名器VM-1のサウンドを継承し、さらに改良を重ねたモデル

BRAUNER Valvet X オープン・プライス(市場予想価格/348,000円前後)1993年に産声を上げたBRAUNER。NEUMANN、GEFELL、SCHOPESが軒を連ねる、"マイク・メーカー銀座" のドイツにあり、既に同社のフラッグシップ・モデルVM-1で世界的に評価されている。そしてここ数年、同社がまたマイク市場を強襲している。FET仕様のPhantom Classic、Phantheraなどのマイクで、価格を抑えより幅広いユーザーをターゲットにしているのだ。そしてこの度、名器VM-1のサウンドを継承し、さらに改良を重ねたというValvet Xが完成した。

アコギでもボーカルでも粒立ちがよく安定したサウンド


Valvet Xは真空管仕様だが、単一指向性のみでPADなどの機能が省かれている。しかしその分きっちり狙いを定めたサウンド・メイキングがなされており、機能を省きコスト・ダウンしただけのモデルとは明らかに違うのである。それでは早速チェックしていく。まずは本体だが、VM-1に比べ二回りほど小ぶりになり、さまざまなマイク・アプローチが可能となっている。実際マイクが大きく重い場合、積極的なマイキングがしづらいことがあるのだが、本機はボディを可能な限り小さくしているようで使いやすく、かつしっかりとした重量感があり共振などとも無縁だ。さらにマイク・ホルダーは反固定式で、常にベストなホールド感で使用できるような工夫も見られる。マイク〜アンプ間のケーブルはスイスのVOVOXとの共同開発で、通常の皮膜ではなく高級オーディオケーブルによく使用される"SFチューブ" 的な網状のいかにもカスタムメイドな感じの仕様。一般的にはケーブルに対して皮膜をかぶせない方がレンジの広がる傾向にあるので、そのあたりを考慮したケーブル選定となっているのであろう。またアンプ部にも一工夫なされている。通常のマイクのグランド・スイッチはグラウンド/リフトのみの選択肢しかないことが多いのだが、本機はXLRケーブルの1極に落とす"Hard-ground"とキャパシター経由の"Soft-ground"、そして"Ground-Lift"が選択できノイズ対策も万全で、アースひとつとっても細心の注意を払われた仕上げになっている。ではいよいよサウンドについて述べていく。今回は同社のVM-1とNEUMANN U67との比較で、対象楽器は男性ボーカルをメインに、そのほかアコギやピアノに対してのチェックを行った。まず一番このValvet Xがターゲットとしていると思うボーカル。下手なコンプなど必要がないほど安定した出力があり、細かなニュアンスももれなくピックアップされる。マイクとの距離、方向が多少ハズれてもフォーカスが甘くならない。さすがVM-1のなまめかしいハイエンド、U67の中域の密集度とまではいかないまでも、BRAUNER独特の透明感とVM-1にはない中域のキャラが立ったマイクであり、傾向としてはよりロック寄りだ。これまでの同社製品のように華やかかつしなやかで、一様に"ハイファイ"なサウンドとは違うと言えよう。余計なローエンドが無いうえに、しっかりとした歌の芯やボトムがとらえられているのも特筆すべき点だ。次はアコギ。ボーカル同様粒立ちのいいサウンドがここでも際立ち、アルペジオからストロークに切り替わったときにもスムーズに聴かせてくれた。これは非常にマイクの感度が高いため、アルペジオの部分でも一音一音確実にとらえられているのが如実に感じられ、これまた"コンプ要らず"という感じ。音のキャラクターはボーカル時とは打って変わってさわやかで、ヌケが良い。しかしVM-1よりはストロングなニュアンスがあり、ハードな曲調においてもほかのトラックに埋もれることのないしっかりした感じがある。

雰囲気があり再現性の高い中高域 高SN比で"プラグインの乗り"も明確


最後はピアノだが、ここで非常に驚かされた。明るく元気のある音を想像していたのだが、これまでと一転、ダークで落ち着きのあるサウンドを得られた。"ダーク"と言ってもヌケが悪いわけではなく、中高域の奥行き感などは、過去何本かチェックしてきた同価格帯のマイクでは考えられないほどの再現性と雰囲気があり、ぜひ一度ステレオ・ペアできちんと使ってみたい。ここまでは通常のテストだが、今回は後に続く作業の流れ通りに、軽くプラグイン加工も試してみた。なんとなくの流れで行ったこの作業だが、Valvet Xで録音した素材は驚くほどエフェクトのかかりがよく、つい次々とプラグインを挟んでいってしまった......とにかくコンプやEQはもちろん、リバーブのノリまでハッキリ違う!何社の何をかけるかハッキリ分かってしまうほどだ。やはりこれは冒頭で述べたノイズ対策による高SN比がもたらしたサウンド・クオリティのたまものではないかと思われ、後作業のエディットやミックスの作業もやりやすいと思う。昨今のマイクには、どこか使いやすさやコストを念頭に置き、正直どこかこちらのユーザー側に迎合して"平べったい" 向きがあったが、本機からは"自分はそんなに器用なことはできませんが、実直な音が信条のマイクです"といった新しい道を切り開く力強さが伝わってきた。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年11月号より)撮影/川村容一
BRAUNER
Valvet X
オープン・プライス (市場予想価格/348,000円前後)
▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪付属品/パワー・サプライ、ショック・マウント、専 用ケーブル▪外形寸法/30φ×160(H)mm▪重量/752g