M-400の多機能をラック・サイズに凝縮したデジタルPAコンソール

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M-400の機能はそのまま受け継ぎサイズだけをコンパクトにしたデジタル・ミキサー

RSS BY ROLAND M-380 724,500円デジタルPAシステム、V-Mixing Systemの中核を担うデジタル・ミキサーの新製品、M-380が発表されました。従来機種のM-400発売以来、ぜひ同等の機能で19インチ・ラック・サイズのモデルを出して欲しいとお願いしていましたが、ついに登場です。しかも願い通り、M-400の機能はそのまま受け継ぎサイズだけをコンパクトにした製品です。もちろん、19インチ・サイズなので操作子などの若干の配置の違いや省略されている部分は多少ありますが、実際に使用してみて特に問題はありませんでした。それでは、あらためてM-400とも共通するM-380の機能を確認しつつ、サイズ変更により使い勝手などがどのように変わっているのか見ていきましょう。

入出力数からバス構成までM-400と全く同等


本機は1本のCAT5eケーブルで最大40chの音声を伝送可能なデジタル伝送技術REACに対応しており、18バス/8マトリクス仕様で最大48ch入力/58ch出力が可能です。入出力は2つのREACポート(A/B)を使い自由にパッチできます。例えば、同社の16イン/8アウトでリモート・マイクプリ内蔵のI/Oユニット、S-1608を2台使ってステージの下手と上手に配置し、マイクやラインの入力、スピーカーなどへの出力を行い、さらにM-380本体に装備された8chのアナログ入出力(XLR)やステレオ入力(RCAピン)、デジタル出力(コアキシャル、オプティカル)を使ってPAブースにある再生系機器や録音機器などの入出力を同時に行えます。また最大40chの入出力を構成可能なI/OユニットのS-4000Sシリーズで入出力を集中的に管理することも可能です。このシリーズはモジュラー仕様になっているため、入出力数をカスタマイズしたり、アナログだけでなくAES/EBUにも対応します。しかも、CAT5eのLANケーブル1本で引き回しできる上、伝送される音声は24ビットのデジタル・オーディオなので、アナログ・マルチ使用時のセッティングにかかる時間と音質の違いは歴然です。さらに、もう1つのREACポートであるSPLIT/BACKUP端子を使用すると、A/Bポートへ入力された音声をそのままスプリット・アウトできるので、モニター卓用や録音用の分岐もLANケーブル1本で可能です。分岐される信号はI/Oユニットのマイクプリ通過後の信号をダイレクトに受けられるため、メチャメチャ便利でシンプルです。ここまで述べた入出力関係スペックは、M-400/M-380共通で、全く同じ感覚で使用できます。も
ちろん、同社の演奏者モニター用小型ミキサー、M-48も同じく使用できます。

アナライザー機能も備えるグラフィックEQを最大12系統使用可能


次に各機能について触れてみましょう。48ch入力すべてにゲートとコンプが独立して用意されており、同時にそれぞれ24個まで使用できます。また4バンドEQも装備しダイレクト・アウトも可能。AUX出力は16系統でステレオ・リンクにも対応し、マスター出力からのセンドも可能となっています。各出力には4バンドEQとリミッターを搭載し、マトリクス出力にもセンドできます。内蔵エフェクトは、31バンドのグラフィックEQもしくは8バンドのパラメトリックEQを選択可能な"GEQ"を4系統、その他のエフェクトとグラフィックEQを選択可能な"FX"をステレオ4系統で用意。また、グラフィックEQとパラメトリックEQには周波数特性が表示されるアナライザー機能も装備しています。31バンド・グラフィックEQは、通常のカーソル・キーでの操作に加えチャンネル・フェーダーでの操作も可能です。周波数帯域は、フェーダーのレイヤーを切り替えて選択しますが、タッチ・センス付きなので操作したいポイント(周波数)が瞬時に分かり、変更した周波数をフラットに戻すのもボタン1つで可能となっています。ディスプレイにはアナライザーと同時に表示できるので調整時は非常に便利です。また、FXはグラフィックEQ使用時はモノラルあるいはステレオ・リンクを選択できます。ディレイも装備しているので、ディレイ・スピーカー用やリップ・シンク時などにも役立つでしょう。EQ以外には、一般的な空間系エフェクトをはじめとして、ROLANDの代表的なビンテージ・エフェクト、RE-201やSRV-2000、SDE-3000などのアルゴリズムも搭載されています。以上のスペックもM-400と全く同等です。

ゲートとコンプのつまみが省略されるも代用機能の操作性は非常に良好


では、M-380のパネル配置と操作性を見ていきましょう。中央上部にM-400と同じカラー・ディスプレイを置き、その表示内容も全くと言ってよいほど同じです。M-400同様に非常に見やすくて気に入りました。その下部にはディスプレイに表示された機能の操作を行う8個のファンクション・ボタンが並び、さらにその下にアサイナブルなユーザー・ボタンが8個あります。M-400は4個ずつ2列でしたが、M-380は8個横一列で分かりやすく使いやすく感じます。ディスプレイ左側には、選択したチャンネルの設定を行うCHANNEL EDITや4バンドEQのセクションがありますが、これもM-400とほぼ変わりません。唯一、ゲートとコンプに関してはスレッショルドつまみが省かれています。恐らくスペースの関係かと思いますが、その代わりゲートやコンプのボタンを押すとEQつまみが点滅して、ディスプレイにはスレッショルド/レシオ/アタック/リリースのボタンが現れます。そして、点滅しているEQつまみで各パラメーターを操作できるのです。この機能は非常に便利で使いやすいので、ぜひM-400にも取り入れていただきたいです。ディスプレイ右側にはUSBメモリー・レコーダー機能やトークバック、モニターのセクション、そしてカーソル・ボタンとバリュー・ダイアルがバランスよく配置されています。そして、下部には12本のチャンネル・フェーダーとメイン・フェーダーが並んでいます。いずれも長さは100mmでタッチ・センス付き。各チャンネルにはSELECT/SOLO/MUTEも用意されており、フェーダー数は半分になったものの、機能的にはM-400と全く変わりません。これらの左側にはAUX SENDセクションがあり、その下にはヘッドフォン端子とボリュームが用意されています。これは、とても使いやすく良い配置です。通常、ヘッドフォンのケーブルはL側出しが多いので、ここに端子があるとヘッドフォン・ケーブルが邪魔になりません。ボリューム操作も楽です。またフェーダーの右側にはレイヤー・ボタンがあり、マスター・フェーダー上部にはGROUP(DCA/MUTE)セクションとシーン・メモリー・ボタンを配置。M-400とほぼ同等の操作子が省略されることなく並んでいます。

シーンごとに使い分けられる6ユーザー・レイヤー仕様


それでは、M-380になって変更された機能を紹介しましょう。チャンネル・レイヤーは4つになり、AUX1-12とAUX13-16/MTX(マトリクス)もボタンで切り替えるため、ユーザー・レイヤー用も合わせてレイヤー・ボタン数は7個になりました。このユーザー・レイヤーは、各入出力用のフェーダーを自由にアサイン可能なレイヤーですが、M-400では1ページ(24本)のみでした。しかし、M-380では6ページ(12本×6)に変更されています(写真1)。

▲写真1 右側に見えるのがレイヤー・ボタン。一番上がユーザー・レイヤー・ボタンで、これを押すと下の6個のボタンで6ページ分のユーザー・レイヤーを切り替えることが可能となる


ユーザー・レイヤー・ボタンを押した後に各レイヤー・ボタンを押すと、通常のレイヤーではなくあらかじめ設定したユーザー・レイヤー・ページとして使えるのです。この場合、ユーザー・レイヤー・ボタン(赤)と、選択されているレイヤーのボタン(橙色)が点滅します。もう一度ユーザー・ボタンを押すと通常のレイヤーに戻ります。この機能を使うとユーザー・レイヤーを6シーンに分けて使えるので非常に便利です。ただ、ボタンの点滅が意外と気になるのでユーザー・レイヤー・ボタンは点灯した状態で、選択されたボタンのみが点滅する仕様でもよいような気がしました。また、本機はM-400と同様にコンピューターからリモート・コントロール可能ですが、コントロール・ソフトは本機専用のM-380RCSが用意されています(画面1)。

▲画面1 M-380専用のコントロール・ソフト、M-380RCS。コンピューターからリアルタイムにM-380を操作できるほか、事前の仕込みにも重宝する


実際に使用してみたところ、M-380はホテルや式場などの常に行うイベントが変わるような会場で、限られたスペースしかないような現場に適していると感じられました。またM-400で構築したデータはM-380でも使用できるので、同じバンドの仕事であっても、M-400を置くスペースが無いような会場へ行く場合に重宝するでしょう。また先日、メイン卓にM-400、モニター卓にM-380という組み合わせで使用してみました。ステージ袖のモニター卓スペースをほとんど取ることなく、音声の分岐もメイン卓からのSPLITアウトによるCAT5eケーブル1本というシンプルさでシステムを構築でき、セッティング時間も短縮化されるなど良いことずくめでした(写真2)。

▲写真2 筆者によるM-380の使用例。ラックの上へ収まるので、スペースに余裕の無い現場にも余裕で対応できるのが魅力


M-380だけでも多彩な用途/場所での活躍が期待されますが、M-400とのコンビネーションでもさらなる可能性が広がるでしょう。

▲リア・パネル。上段左からステレオ入力(RCAピン)、トークバック・マイク入力(XLR)、S/P DIFデジタル出力(コアキシャル、オプティカル)、リモート端子(D-sub 9ピン)、RS-232C/MIDI切り替えスイッチ、MIDI OUT(THRU)/IN、USB、REAC A/B/SPLIT(BACKUP)。中段はアナログ入力1〜8(XLR)、下段はアナログ出力1〜8(XLR)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年11月号より)
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M-380
724,500円
▪チャンネル数/48ch入力、18バス、8マトリクス、58ch出力▪内部信号処理/56ビット▪AD/DA/24ビット、44.1/48kHz▪総信号遅延時間/約2.8ms(S-1608に入力された信号がM-380のREACポートAまたはBを経由し、M-380本体内でデジタル信号処理され、再びREACポートAまたはBを経由し、S-1608から出力されるまでの総遅延時間、サンプリング・レート48kHzでエフェクト未使用時)▪ダイナミック・レンジ/110dB(XLR出力端子)▪外形寸法/482(W)×581(D)×221(H)mm(卓上設置時)、482(W)×231(D)×551(H)mm(ラック・マウント時)▪重量/14kg