オーディオI/O標準搭載のコンパクトな高品位アナログ・ミキサー

MACKIE.Onyx・820I
音質はもちろんDAWとの互換性などからもみても、初心者からヘビー・ユーザーにまでお薦めできるコンパクト・ミキサー

MACKIE. Onyx・820I 92,400円頑固にアナログ・ミキサーを作り続けている老舗ブランドMACKIE.が、話題になりそうな新製品を発表した。同社のコンパクト・ミキ サーのフラッグシップ機Onyxシリーズは非常に品質の良いOnyxプリアンプとPerkins EQを備えたクオリティの高い製品で、オプションのFireWireカードをインストールすることによってDAWのオーディオI/Oにもなるという優れも のだった。今回紹介する後継機種Onyx・Iシリーズは従来のOnyxシリーズに比べ、どんな特徴があるのだろうか?じっくりチェックしてみよう。

Pro Tools M-Poweredなど主要なDAWに対応するオーディオI/O


新たなOnyx・IシリーズはあらかじめFireWire端子を装備しており、24ビット/96kHzのオーディオI/Oとしてすぐに使える仕様になっていて、APPLE LogicやSTEINBERG Cubaseなど、ほぼすべてのDAWで使用できる。そして驚くことにこのOnyx・Iシリーズは、DIGIDESIGN Pro Tools M-Poweredでの使用も可能になっているのだ!これまではPro Tools LEであればDIGIDESIGN製の、Pro Tools M-PoweredであればM-AUDIO製のI/Oしか使うことができなかった。Pro Toolsはプロの使用者も多く非常に便利なDAWではあるものの、I/Oの選択肢は非常に少なかった。そこへ一石を投じるのがOnyx・Iシリーズなのだ。今回チェックするのはシリーズで最もコンパクトな8chタイプのOnyx・820I。従来のOnyxの最小モデルであったOnyx・1220に比べチャンネル数も少なく、各チャンネルのレベル調整もフェーダーではなくつまみを使用しているためかなりスリム化されている。底面の大きさは14インチ・ノート・パソコンくらい。高さも最も大きなところで約
10cmと非常に小さく、机の上にノート・パソコンと一緒に置いても邪魔にならない。モノラル2系統、ステレオ3系統からなるチャンネル・モジュールは3タイプあり、入力端子の構成はそれぞれ異なっている。ch1と2にはマイク入力端子(XLR)とライン入力端子(TRSフォーン)とインサート端子(TRSフォーン)を装備。ch3-4(ステレオ)ではマイク入力端子(XLR)1基とライン入力(TRSフォーン×2)で、マイク入力時は
モノラルとなる。ch5-6と7-8はステレオのライン入力(TRSフォーン)のみとなっている。このほかに2系統のAUX SEND/RETURN(ステレオ)はそれぞれTRSフォーン端子で用意。TAPE IN/OUT(RCAピン)も装備する。出力は、MAIN OUTにXLRとTRSフォーンを併装するほか、CONTROL ROOMとALT3-4(BUS OUT)もTRSフォーン端子で用意されている。そのほかマイク内蔵トークバックも装備しているところなど、この小ささでは考えられない充実ぶりだ。

VLZの上を行くOnyxプリアンプ ギターのうまみを引き出すPerkins EQ


Onyxプリアンプはch1と2、そしてch3-4で計3系統を装備していて、それぞれ48Vファンタム電源のオン/オフとローカット(75Hz)が装備されている。また、ch1と2にはエレキギターなどを入力するときに使うHi-Zスイッチも搭載している。Onyxプリアンプの音色はレンジが広く、とにかくクリアだ。価格的な面からも同社VLZシリーズは非常に人気があるが、VLZシリーズの音色とは(VLZシリーズが悪いわけではないが)明らかにクオリティの違いがある。低域も高域も2、3枚くらい膜を取り除いた感じと言っていいだろう。もう一つOnyxプリアンプの特徴を上げるならゲインの元気の良さだ。ゲインつまみを2時半から3時半くらいまで上げて音を作ったときに表情が変わるので、ゲインつまみがこの辺りになるように楽の出力レベルやマイクをセッティングするといいだろう。マイクのオンとオフの使い分けを熟知している人ならこの違いがはっきり分かると思う。実際にコンデンサー・マイクのRODE NT2、ダイナミック・マイクのSHURE SM57でアコースティック・ギターを録ってみたが、両方ともメリハリのある音色で印象は良い。特にダイナミック・マイクでオン気味でマイキングしたときはひずむ直前までゲインを上げた音色がよく、ストロークでは中低域にコシがあり、本当にこのサイズのミキ
サーで録れているのか?と耳を疑うくらいだった。Perkins EQもモジュールによってタイプが異なっている。ch1と2はシェルビングのハイ(12kHz)&ロー(80Hz)と、パラメトリックのミッド(100Hz〜8kHz)で構成される3バンドEQ。ch3-4は周波数固定で80Hz、400Hz、2.5kHz、12kHzの4バンド・タイプを搭載する。ch5-6と7-8にはやはり周波数固定で80Hz、2.5kHz、12kHzの3バンドEQが装備されている。いろいろ試したが、ボーカルやエレキギターなどはパラメトリックが装備されているch1&2で任意のポイントを探して、特徴ある音色を作るのが有効だと感じた。一方、アコースティック・ギターではch3-4の4バンドEQでハイとハイミッドを少し上げて、ローミッドは少々カットしてローは若干ブーストすると好みの音色になった。印象に残ったのはch3-4のハイミッドとch5-6&7-8のミッドが2.5kHzに設定されていること。ちょうどギターのおいしい部分の帯域で、ちょっと上げるだけでギター・サウンドがかなり強調される。かなりロック寄りな設定だと思った。もちろん楽器によってそれぞれ特性があるが、それぞれに容易に対応できる便利なEQと言っていいだろう。

インプット・チャンネルだけでなくマスターやAUXもDAWへ録音可能


Onyx・820IのオーディオI/O機能は8イン/2アウト。今回はPro Tools M-Powered 8(以下Pro Tools)でチェックした。ドライバー・ソフトをインストールしてPro Toolsを立ち上げて確認してみると、Onyx・820Iは"ProFire 2626"(MAUDIOの製品)として認識されるが、問題なく動作している(画面1)。

▲画面1 DIGIDESIGN Pro Tools M-Powered 8のI/O設定画面で見ると、Onyx・820IがM-AUDIO ProFire 2626として認識されているのが分かる


これはMACKIE.が独自にPro Toolsへ対応させたらしい。ちなみにMARK OF THE UNICORN Digital Performer上では"Onyx-i(0008)"と認識された。本題に戻ろう。Onyx・820Iでは入力チャンネルの配列がそのままDAWのインプット・チャンネルにアサインされるのが基本。例えばOnyx・820Iのch1にインプットしたソースは、Pro Toolsのインプット1にアサインされる。面白いのはOnyx・820I本体でのDAWに対するルーティング機能だ。まずチャンネル・モジュールのゲインつまみの下に、DAWに信号を送る際にEQのプリとポストを切り替えるボタンがある。これによりモニターしている音にEQをかけながらDAWに送る際にはEQを通っていない信号にしたり、逆にPerkins EQで作った音色をそのまま録音したいといった使い分けが可能だ。また、MAIN MIXつまみ上に配置された"ASSIGN TO FW 7-8"ボタンを押すと、Onyx・820Iのステレオ・マスター出力がDAW側のインプット7-8にアサインされる。例えばリズム・マシンやシンセなどのパートをいったん2ミックスにまとめて録音したり、ラフ・ミックスを録るときなどに便利だろう。さらに、ch7-8のEQプリ/ポスト・ボタンの横にある"FW1-2"ボタンを押すとDAWからのマスター・アウトがch7-8にアサインされ、EQやレベル、L/Rバランスの調整が可能になる。これは録音時のモニター・バランスを調整したり、ライブでDAWからオケ出しするときにEQやレベルの補正を行うこともできる。もう一つ、AUXマスター・セクションの左下にある"AUX SEND 1-2 TO FW 5-6"ボタンを押すと、2系統あるAUXがそれぞれDAWのインプット5&6にアサインされる。これも非常に便利な機能で、例えばDAWにAUXトラックを設けてインプットを5(もしくは6)にする。プラグインのリバーブを立ち上げればOnyx・820Iのモニター・ミックス用のリバーブができるわけだ。こうした操作はOnyx・820I上のアイコンやデザインによって非常に分かりやすく配置されていて、初心者でもすぐに扱える。リズム録りを外部のスタジオで終えるなどして、自宅ではダビング作業に徹する人には、かなり便利な製品だ。音質はもちろんDAWとの互換性などからもみても、初心者からヘビー・ユーザーにまでお薦めできるコンパクト・ミキサーだと言えよう。

▲リア・パネル。FireWire端子(400/6ピン)×2の右に、MAIN OUT L/R(XLR)、CNTL-RM(CONTROLROOM)OUT L/R、ALT 3-4 OUT(いずれもTRSフォーン)が並ぶ


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年11月号より)
MACKIE.
Onyx・820I
92,400円
▪周波数特性(アナログ入力→出力)/+0/−0.5dB、20Hz〜20kHz▪サンプリング・レート/44.1/48/88.2/96kHz▪量子化ビット/24ビット▪入力インピーダンス/マイク:2.8kΩ(バランス)、Hi-Z:1MΩ(アンバランス)、モノラル・チャンネル・ライン:30kΩ(バランス)&15kΩ(アンバランス)、ステレオ・チャンネル・ライン:20kΩ(バランス)&10kΩ(アンバランス)▪出力インピーダンス/MAIN:100Ω、ヘッドフォン:75Ω、その他:300Ω▪外形寸法/229(W)×96(D)×361(H)mm▪重量/4.4kg▪オプション/ラック・マウント・キット

▪Windows/Windows XP Home/Pro SP2以降もしくはVista 32Home/Bussiness/Ultimate RTM以降、FireWire(IEEE1394)端子▪Mac/Mac OS X 10.4.11以降、FireWire端子▪動作確認済みソフト/DIGIDESIGN Pro Tools M-Powered 8、APPLE Logic、Final Cut Pro、CAKEWALK Sonar、STEINBERG Cubase、ABLETON Live