繊細な音の動きまでを音楽的に表現するミッドフィールド・モニター

ADAMS3X-H
ダブル・ウーファー採用の3ウェイ・パワード型。S3Aの後継機種。

ADAM S3X-H オープン・プライス(市場予想価格349,800円前後/1本)ドイツのスピーカー・メーカーADAMから新しいミッドフィールド・モニターSXシリーズが発売された。その4機種の1つであるS3X-Hは、ダブル・ウーファー採用の3ウェイ・パワード型で、ADAMの代表的なモニターであるS3Aの後継機種とのこと。早速レビューしていこう。

102mmのスコーカーやリボン・ツィーターを搭載


まずはS3X-Hの仕様を見ていこう。S3Aとの最大の違いは、新たに102mmの"HexaConeミッドレンジ・スピーカー"が搭載されたことである。これにより、音楽的に重要な中音域の再生能力が飛躍的に向上したとのこと。また、S3X-Hではよりタイトで深い低域を再生するため、両ウーファーが同じ周波数帯域をシンメトリックに再生する。これにより、さまざまなマルチチャンネル・システムの構築も容易になった。ADAMの特徴とも言えるリボン・ツィーターのX-ARTツィーターは、広帯域かつ位相特性に優れており、可聴帯域を超える35kHzまでをフラットな位相特性でカバーすることができる。フロントに配置されたコントロール・パネルは、部屋のアコースティックに合わせて出音を最適化する6つの調整用ノブが配備されている。これにより入力感度の調整、低域の調整、高域の調整がかなり細かく設定できるようになっている。ちなみに、SXシリーズのすべてのモデル(S1Xを除く)は、オプションでAES/EBU(XLR)とS/PDIF(コアキシャル)接続端子を装備した24ビット/192kHzのDAコンバーターを組み込むことが可能。スタジオでの使用を見越した上での拡張性と言えるだろう。以上のように、同社の代表定番モデルのSシリーズで培われた技術を踏襲しつつも新たなテクノロジーもふんだんに取り入れたこのS3X-H。早速いろいろな音楽ソースで試聴してみよう。

ジャンルを問わずバランス良く再生 気持ちよくリスニングが可能


まずは試聴用にいつも使用している、ピンク・フロイドの『ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン』を聴いてみる。このアルバムは古い録音ではあるが、デジタル・リマスタリングで超低域から高域までかなりワイド・レンジでバランス良く収録されており、モニターのチェックには最適だ。再生させると、音が出た瞬間に本機の素性の良さが分かった。こういうスピーカーで音楽を聴くとうれしくなってしまう。低域から高域まで気持ちよくコントロールされている。音のつながりやバランスが非常に良いスピーカーだと思う。タイトでまとまりが良い点も好印象。エイジング後にはさらに落ち着いてくるだろうから、これは時間をかけて音が熟成するのがさらに楽しみなスピーカーだ。少し中高域に音が寄るが、それも悪い印象では無い。芯のある中域は音楽を奏でるのには必要な成 分だし、エイジングが進んでもう少し落ち着くことを想定すれば問題無いレベルだと思う。定位も分かりやすく解像度も高い。このスピーカーなら、微妙なパンニングも自信を持ってできるだろう。試聴した僕のスタジオ(amp'box Recording Studio)では少しハイが弱い感じがしたので、コントロール・パネルでツィーターのレベルを調整。これで全体的な周波数バランスが改善され、音のつながりもさらに良くなった。次に新旧のジャズの音源も聴いてみた。いずれも気持ちよく鳴ってくれ、不足を感じることは無い。なかなかこれだけバランスが良いスピーカーには出会えないものだろう。何より、リファレンスとしてだけでなく音楽的に鳴ってくれるのがうれしい。少し前にはやったドンシャリ気味のスピーカーに飽きていたところだったので、新鮮さを感じた。最後に、スタジオでのモニター・スピーカーの定番とも言えるYAMAHA NS-10M Studioと切り替えて試聴してみた。傾向が似ているためか切り替え時に大きな違和感が無く、それでいて音楽のスケールは向上する。スタジオで使用すれば、作業の効率も上がるに違いない。ADAM S3X-Hを試聴してみて思ったのが、MUSIKELECTRONIC GEITHAINやこのADAMといったドイツのスピーカーが最近とても良くなっているということ。モニター・スピーカーと言えど、スピーカーとはまず何より音楽を聴くためのものであることを再認識させられた。今までのモニター・スピーカーには"定位が分かりやすい" "解像度が高い"など、リスニング・スピーカーとは一線を画す特長が当たり前と思われていた。本機は、ここへ"気持ちよく音楽が聴ける"という新たな要素が加わったスピーカーだと感じる。

▲リア・パネル。電源ソケットと入力端子(XLR)を装備



▲コントロール部。一番左は入力レベルの調整ノブ×2で、Fineは微調整用だ。ウーファー・コントロールは80Hzのピーキング(0dB〜+6dB)と150Hzのシェルビング(±4dB)の2つのEQで構成。ツィーター・コントロールは6kHzのシェルビングEQ(±4dB)とゲイン(±2dB)を装備している


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年9月号より)撮影/川村容一
ADAM
S3X-H
オープン・プライス(市場予想価格349,800円前後/1本)
■ 周波数特性/32Hz~50kHz■クロスオーバー/350Hz/2.8kHz■アンプ出力/LF:350W、MF:350W、HF:100W■ 入力インピーダンス/10kΩ■ 重量/19.6kg■ 外形寸法/530(W)×280(H) x320(D)mm