新マイクプリを搭載しDAWに最適なコンパクト・アナログ・ミキサー

MACKIE.802-VLZ3 / 402-VLZ3
従来のシリーズより小さい、802-VLZ3(以下802)と402-VLZ3(以下402)の2機種

MACKIE. 802-VLZ3 / 402-VLZ3 39,900円(802-VLZ3)/22,260円(402-VLZ3)ミキサーの老舗、MACKIE.から新しく発売されたのは従来のVLZ3シリーズより小さい(!)、802-VLZ3(以下802)と402-VLZ3(以下402)の2機種だ。小型ミキサーもここ数年でいろいろなメーカーのものが発表され、多くの選択肢がある中で、この2つはどんな個性を発揮してくれるだろうか? 早速チェックしてみた。

低ノイズで透明感のあるマイクプリ DAWシステムに便利なテープ入力


MACKIE.からは、既に4機種のVLZ3シリーズが発売されている。同社はこのシリーズを作るにあたりマイク・プリアンプをブラッシュ・アップし、新設計のXDR2マイクプリを搭載した。ダイナミック・レンジを大幅に拡張し、ノイズ・レベルを著しく低下させたのが最大の特徴だ。このXDR2マイクプリは、今回の新機種にも搭載されている。また、VLZ3シリーズを通じてEQも設計し直され、ヘッドフォン・アンプのノイズも低く抑えられている。さらに同社のDAWソフトであるTracktion3のベーシック・バージョンも付属する。では402と802を個別に見ていこう。まずは最も小さい4chモデルの402から。ちょうど本誌半分程度の大きさで、重さは1.1kg(パワー・サプライ込みで1.36kg)とかなりコンパクトだ。アルミでU字型に成型されたボディはしっかりしていて高級感がある。ch1/2にはXDR2マイクプリ搭載のマイク入力(XLR)と、スイッチでHi-Z入力に切り替え可能なライン入力(TRSフォーン)を装備。ch3/4はステレオ・チャンネルでライン入力×2(TRSフォーン)となっている。そのほか入力としてはステレオ1系統のテープ入力(RCAピン)がある。出力はステレオ1系統のメイン出力(TRSフォーン)のほか、メイン出力と同内容を出力するステレオ1系統のテープ出力(RCAピン)とヘッドフォン出力がある。ゲイン調整が行えるのはch1/2のみで、ch3/4はレベル調整のみ、またch1/2のパンはセンターかL/Rへ振り切るかを選択するというシンプルな仕様なのだが、後述するようにホーム・レコーディングには大変便利に設計されている。まずライン入力とテープ入力に、DAW出力用のオーディオ・インターフェースとメディア・プレーヤーをそれぞれ接続して、メイン出力とヘッドフォン出力の出音を確認してみた。MACKIE.の初期ミキサーCR1604や1202をよく知る者からすると、このクオリティは驚きだ。ノイズ・レベルは格段に低く、高域がすっきりと伸びていて、サウンドの透明度が高い。ヘッドフォンの音量も十分に余裕がある。また、ヘッドフォンとメイン出力の音量を別々に調整できるのも便利だ。次に、手持ちのコンデンサー・マイクを接続し、ファンタム電源をオンにしてボーカルやギターなどいろいろな生楽器を試してみた。こちらも音量を上げたときに、一瞬接続を間違えたのかと勘違いするくらい静かで、ノイズが少ない。音の太さ、存在感にMACKIE.らしさは感じられるが、音が滑らかでハイエンドが十分にある。ゲインの幅も大きく、かなりの弱音まで拾うことができる。ch1/2に用意された100Hz以下を18dBカットするローカットはスパッと効くし、同じくch1/2に装備された2バンドのシェルビングEQの効きもすっきりしている。各バンドは80Hzと12kHz固定だが、低域用の80Hzを上げても音が"ずぶずぶ"になりにくい点は買える。また、ローカットと低域ブーストを組み合わせて、80Hzのみをピンポイント的に上げるのも面白い。ここで、あえてゲインを上げ、オーバーロードを示すLEDが点灯し続けるくらい増幅して録音してみた。ひずみ方は丸くアナログ的で、デジタルの汚いひずみではないので、ドラム録音のときなどにはゲイン調整で音色作りが楽しめそうだ。ミキサーではなく、単に2chマイクプリと考えてもコスト・パフォーマンスは高い。ch1/2のライン入力も同様の印象で、広いゲイン幅とノイズの少なさが使いやすい。Hi-Z入力に切り替えるとインピーダンスを調節してくれるので、DI無しにエレキギターを直接入力することもできる。さて、テープ入力にはレベル調整つまみとメイン出力へのアサイン・スイッチがある。スイッチをオフにすると、テープ入力の信号はヘッドフォンに出力されるだけで、メイン出力とテープ出力には送られない。オンにするとこれらも含めた3系 統の出力に送られる仕組みだ。これをどのように使うかというと、例えばDAW中心の宅録システムで、オーディオ・インターフェースの入出力と402のテープ入出力を接続している状況を想定してみよう。402にマイクを接続し、歌を録音するとき、テープ入力のアサイン・スイッチをオフにしておけば、ヘッドフォンでDAWのバックトラックとマイクからの歌の両方を聴きながらDAWに歌だけを録音することができる。歌は402から直接ヘッドフォンに出力されるので、オーディオ・インターフェースのレイテンシーが気になることはない。402にはAUXの機能はないが、DAWと組み合わせても便利に使えるように設計されているのだ。オーディオ・インターフェースの買い替えや、宅録用マイクプリの購入を検討している人たちには、402も1つの選択肢である。

プリ/ポスト切り替え可能なAUX マイク・レベルでの出力にも対応


8ch入力の802は、ほぼ本誌と同サイズで重さは2kg。ch1/2はモノラルで、そのほかはステレオ・チャンネルだ。XDR2採用のマイク入力(XLR)はch1/2/3に搭載され、ch1/2にはライン/Hi-Z入力(TRSフォーン)のほかインサート(TRSフォーン)もある。ステレオ・チャンネルはライン入力(TRSフォーン)のみだ。また各チャンネルには1系統のAUXセンドのほか、402に中域用の2.5kHz固定ピーク・タイプが加わった3バンド仕様のEQがある。さらにテープ入力に加え、ステレオ・リターン入力(TRSフォーン)も用意。出力はステレオ1系統のメイン出力(XLR、TRSフォーン)とコントロール・ルーム出力(TRSフォーン)、同じくステレオのALT出力(TRSフォーン)、テープ出力、ヘッドフォン出力、それにAUX出力(TRSフォーン)と、ぐっと豪華だ。各チャンネルにはミュート・ボタンがあり、これはALT出力へのアサインも兼用。また、プリフェーダーのソロ・ボタンを押すとLEDが点滅したり、AUXセンドはプリ/ポストの切り替えが可能、メイン出力のXLRには+4/MICのレベル切り替えがあり、ほかのミキサーとの接続も考えられているなど、いろいろな用途に向けてうまく設計されている。以前のVLZ Proシリーズではファンタム電源スイッチがパワー・スイッチの隣にあったため間違えてオンにすることがあった点も、トップ・パネルに場所を移すことで危険を回避している。入出力とも豊富なので、宅録から小規模ライブのメイン・ミキサーまで幅広く対応できるだろう。402同様、音質のクオリティの高さも印象的だ。サブミキサーとして使う場合、ハードウェアのサンプラーやシンセにはEQ付きのライン入力、メディア・プレーヤーにはレベル調整だけのステレオ・リターン入力を使うといったやり方もできる。ビデオ編集やホーム・シアターといった用途でも的確なセットアップができるだろう。402と802は、パソコン内でさまざまなことが可能になった現在、アナログ・ミキサーに求められる課題にきっちり応えた優秀な小型ミキサーだ。ハイエンド、ローエンドに対応する高品質なマイクプリとフレキシブルな入出力のルーティングは、今後の宅録のスタンダードになりそうだ。

▲402の接続端子。左の2列はch1/2の入力部で、上からマイク入力(XLR)とライン/Hi-Z入力(TRSフォーン、スイッチで切り替え)、その右は下がch3/4のライン入力L/R(TRSフォーン)、上がメイン出力L/R(TRSフォーン)、その右はステレオ1系統のテープ入出力(RCAピン)とヘッドフォン出力



▲802の接続端子。左の2列はch1/2の入力部で、上からマイク入力(XLR)とライン/Hi-Z入力(TRSフォーン、スイッチで切り替え)、インサート(TRSフォーン)。その右はch3/4で上からch3のマイク入力(XLR)、ライン入力×2(TRSフォーン)、さらにその右の下段にはch5/6のライン入力×2(TRSフォーン)とch7/8のライン入力が並び、上にはステレオ1系統のテープ入出力(RCAピン)とメイン出力L/R(XLR)がある。その右はTRSフォーンのメイン出力L/RとAUX出力(TRSフォーン)。下は左からステレオ・リターンL/R(TRSフォーン)、ALT出力L/R(TRSフォーン)、コントロール・ルーム出力L/R(TRSフォーン)、ファンタム電源スイッチとヘッドフォン


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年9月号より)
MACKIE.
802-VLZ3 / 402-VLZ3
39,900円(802-VLZ3)/22,260円(402-VLZ3)
▪周波数特性 402-VLZ3:20Hz〜90kHz(+0dB/-3dB)/ 802-VLZ3:10Hz〜100kHz(+0dB/-3dB)▪全高調波歪率 402-VLZ3:0.005%(20Hz〜80kHz)/ 802-VLZ3:0.001%(20Hz〜20kHz)▪外形寸法 402-VLZ3:146.9(W)×40.7(D)×185.5(H)mm / 802-VLZ3:227(W)×47(D)×273(H)mm▪重量 402-VLZ3:1.1kg / 802-VLZ3:2.0kg