オーディオI/O&コントローラー機能を装備する薄型デジタルMTR

ZOOMR16
コンピューターとの連携をよく考えられた、まさに何でもありなトータル・ミュージック・ツール

ZOOM R16 47,250円自宅録音ツールの先駆けとして登場したミキサー一体型MTRはいまだに進化を続けている。音楽制作専用に設計されているために扱いも非常に簡単なことから、コンピューターが少々苦手なユーザーからの支持を受けているほかに、コンピューターを介さずともすぐにレコーディングを始められるというフットワークの軽さから、リハーサル・スタジオなどでの一発録り、さらにライブ・パフォーマンスでは同期演奏のためのツールとして使われたりと、活躍している現場は非常に多い。また最近ではDAWとの連携を考えられたMTRも登場してきているのでまだまだ可能性がありそうだ。今回紹介するR16は、 SD/SDHCカードを録音メディアとするステレオ・マイクも内蔵した16trデジタルMTRであり、コンピューターと接続して8イン/2アウトのUSBオーディオ・インターフェース、そしてフィジカル・コントローラーとしても機能する。コンピューターとの連携をよく考えられた、まさに何でもありなトータル・ミュージック・ツールと言える。

ハンディ・レコーダー的に使える内蔵ステレオ・マイク


まず外観だが、非常に薄く小さく軽い。APPLE MacBookより幅が5cmくらい広いものの、同じパソコンのキャリー・バックに入ってしまうくらいの大きさで、重量も非常に軽くノート・パソコンと一緒に持ち運んでも苦にならない重さだ。フェー ダーやエンコーダー類も分りやすく配置されていて、今までにミキサー一体型MTRを触ったことがある人ならすぐにでも扱えそうなデザインだ。リア・パネルには入力端子が8つあり、すべてXLR/TRSフォーン兼用のコンボ・タイプとなっている。各プリアンプはライン・レベルからマイク・レベルまでが対応可能となっていて、ch1はギターやベースなどのハイインピーダンス楽器を接続 可能なHi-Zスイッチを装備し、ch5/6には+48Vファンタム電源スイッチを装備している。このプリアンプの音色も本機の価格にしては非常に仕上がりは良い。一般的な1万円前後のダイナミック・マイクでアコースティック・ギターを収録してみたが、中域にガッツのある元気のいい感じだった。ヘッドルームも広く感じられる。またユニークなのが、R16にはステレオの内蔵マイクがフロント・パネル両端に装備されていて、ch7/8を切り替えて使うことができるところだ。その音質は、多少低域に物足りなさはあるものの、高域はヌケがあり、アコースティック・ギターなどには良い感じだ。指向性は少々強めでステレオ感は良い。リハスタでマイクの本数が足りなかったときや自宅で曲を思いついたときにハンディ・レコーダー感覚で使うと非常に便利だろう。出力はステレオ1系統のOUTPUT端子(TRSフォーン)とヘッドフォン端子がリア・パネルに用意されており、それぞれにボリューム・コントロールも装備されている。R16のレコーダー部は16ビットもしくは24ビット/44.1kHzで、最大8トラックの同時録音と16トラックの同時再生が可能。バンドの一発録りやドラムのマルチマイク録音などに対応できるだろう。録音ファイルはWAV形式で保存され、USB端子を介してパソコンに取り込み、任意のDAWで編集することも可能だ。この作業がどれくらい簡単なのか実際に試みてみた。R16とコンピューターをUSBケーブルでつなぎ、本体右上のUSBボタンを押してカーソル・ボタンでCARD READERモードを選択する。あとはENTERボタンを押すとコンピューターの画面上にはR16に装着したSDカードを示すアイコンが現れ、その中のWAVファイルを単純にドラッグ&ドロップするだけでいい。直感的にできる簡単な流れで非常に分かりやすい。また、USB STORAGEモードを選べば、パソコンではなくUSBメモリーなどをR16に挿してファイルを保存することができる。バンド のリハーサルをR16で録音してバンドのメンバーに渡す際、メンバーが各自USBメモリーを持っていればそれぞれにコピーして渡せるし、繰り返し使えるので便利ではないだろうか。

分かりやすいミキサー部 多彩なアンプ・シミュレーターが出色


フロント・パネルのミキサー部のデザインもシンプルで、8本のチェンネル・フェーダーとマスター・フェーダー、各チャンネルに用意されているトリムとPLAY/MUTE/REC切り替えボタンといった簡単な構成だ。tr9-16はBANKボタンで切り替える。また、EQやパンなどの録音時にはあまり必要のない操作子はすべてと言っていいほど省略されている。こういったデザインは最近のミキサー一体型MTRでは主流にはなってきてい、実はいざEQやパンを使う際には不便であることが多い。またEQやパンを呼び出すためのスイッチ類や確認ランプが多過ぎると自分が今どのトラックのエディットをしているのか分らなくなってしまう状況にも陥りやすい。しかし、R16はこれに関しても非常に分かりやすいデザインとオペレーションの配慮がされている。フロント・パネル右上のPAN/EQボタンを押すと、選択したトラックのPLAY/MUTE/REC切り替えボタン横のLEDがオレンジ色に点灯し、ほかのトラックはすべて消灯する。これにより視認性が高められており、後はカーソル・ボタンでパンやEQ、エフェクトのセンドを選択し、エディットすれば良いのだ。トータルで135タイプ/390パッチ用意された内蔵のDSPエフェクトもかなり素晴らしい出来だ。各トラック共通で使用するセンド/リターン・エフェクトは2系統装備されていて、リバーブ/コーラス/ディレイの空間系エフェクトを任意に選択できる。また、アルゴリズムによって同時使用数が変化するチャンネル・インサート・エフェクトも用意されている。このインサート・エフェクトはマイク用やマスタリング用といったアルゴリズムのほかに、ギタリストにとっては必需品とも言えるアンプ・シミュレーターもあり、これが非常にいい。いわゆるブリティッシュ代表のMARSHALL系アンプからアメリカのFENDER系アンプをはじめとする数多くのギター・アンプやストンプ・エフェクターのシミュレーターが装備されていてどれも良い出来だ。本誌で数多くのアンプ・シミュレーターの記事をいている私が言うのだから間違いはない。また、このインサート・エフェクトは入力トラック、再生トラックどちらにでもかけることができるので、"録音時のかけ録り"も可能だ。

オーディオI/Oとしては最高96kHz対応 バスパワー&単三電池でも駆動


R16の最大の魅力は、何といってもオーディオ・インターフェース、そしてフィジカル・コントローラーになるという点だ。USB 2.0で接続して、最高24ビット/96kHz対応で8イン/2アウトが可能、USBバスパワーでも動作するほか、サンプリング・レートを44.1kHzで使用する際にはR16の内蔵エフェクトも使用できる。早速ドライバー・ソフトをインストールしてMARK OF THE UNICORN Digital Performerでチェックしてみた。音色はR16をMTRとして使っていたときとはまるでといっていいほど違って、より良くなった。理由は簡単だ。MTRでは44.1kHz固定だが、オーディオ・インターフェースとしては96kHzまで対応しており、96kHzになっていることを気かずに作業していたからだ。フィジカル・コントローラーとしても問題なく動作した。主要な機能としてはフェーダーの操作とチャンネル・ソロのオン/オフ切り替え、そしてトランスポートなどだ。付属のDAWソフト、STEINBERG Cubase LE 4ではこれらのほとんどがコントロール可能なようだが、Digital Performerではトランスポートのゼロ・リターンが使えなかった。しかし、私を含めほとんどのユーザーはエディットしながら作業するためにキーボードを併用すると思うのでさほど問題はないだろう。私の場合はトランスポートよりも複数のフェーダーをソフト上ではなくフィジカル・コントローラーで操 作できるという自由度の方が非常に重要なのだ。一つだけ欲を言えば、ch9以降はBANKボタンで切り替える必要があるので、できればムービング・フェーダーを装備してほしかった。なお、R16は何と単三電池6本でも稼働する(写真①)

▲裏面の電池ボックス。単三アルカリ電池6本で、約4時間30分の駆動が可能


ちょっと大きめのハンディ・レコーダーという使い方から、バンドの一発録り、DAWでミックス・ダウンするときのオーディオ・インターフェース&フィジカル・コントローラーなど、まさ に何でもアリの一台だ。付属のCubase LE 4をインストールすれば、その日からDAWデビューがかなう。自宅録音をするために何を買ったらいいか迷っている人、全く分からない人、特にバンドマンにはお勧めしたい。  

▲右サイド・パネル。左はSD/SDHCカード・スロット。右はUSB端子×2で、左側の"HOST" 端子にはUSBメモリーを接続してデータのコピーが可能なほか、もう1台のR16を接続して16tr録音も可能になる。右側の"DEVICE" 端子はパソコンとの接続用でオーディオ・インターフェース、フィジカル・コントローラー、パソコンとのファイルのやり取りなどに使用する


  

▲リア・パネル。左からACアダプター端子、電源スイッチ、出力ボリューム、出力端子R/L(TRSフォーン)、ヘッドフォン・ボリューム、ヘッドフォン端子、入力端子×8(XLR/TRSフォーン・コンボ)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年9月号より)
ZOOM
R16
47,250円
▪最大同時録音トラック/8▪最大同時再生トラック/16▪レコーダー部の録音フォーマット/WAV(16/24ビット/44.1kHz)▪録音時間/1GB=200分(モノラル・トラック換 算)▪オーディオI/O接続タイプ:USB 2.0▪オーディオI/O時の同時入出力数/入力8ch、出 力2ch▪オーディオI/O時の最大ビット数&サンプリング・レート/24ビット&96kHz▪外形寸法/376(W)×237.1(D)×52.2(H)mm▪重量/1.3kg

▪Windows/Windows XP SP2/Vista SP1以降、INTEL Pentium 4/1.8GHz以上、1GB以上のメモリー▪Mac/Mac OS X 10.4.11以降/10.5以降、INTEL Core Duo 1.83GHz以上、1GB以上のメモリー