ソフト・シンセ・メーカーが押し出す待望の初ハード・シンセ

ARTURIAOrigin
MOOG Minimoog、ROLAND Jupiter-8、ARP 2600、YAMAHA CS-80をTAE技術でハード上に再現

ARTURIA Origin オープン・プライス(市場予想価格/294,000円前後) ARTURIA、といえばソフト・シンセのMoog Modular Vでセンセーショナルにデビューし、物理モデリングのソフト音源Brassやソフト音源とハードのコントローラーからなるハイブリッドなAnalog Factory Experienceなど、多数の高品質な製品を手がけるソフト・シンセ・メーカーです。今回ご紹介するOriginはなんと同社初のハードウェア・シンセ。もちろんソフト・シンセ畑で培ったTAEテクノロジーをふんだんに盛り込みつつも、単なるソフト・シンセのハード版にとどまらない独創的で先進的な機能がてんこもりなのです。 

"本気度合い"がうかがえる充実のI/O群を装備


まずはシンセ心をくすぐるそのルックスから。はっきりいって昨今のテーブルトップ・モデルに比べるとデカいです。全体の大きさとしてはROLAND SH-101くらい(......伝わりますか?)。鍵盤無しのモデルですから、なかなか圧巻の存在感ですが、それにふさわしいだけのユーザー・インターフェースも備えています。53個のノブ、81個のボタン、ジョイスティックに大型のカラー液晶と、シンセをコントロールするのに不足無い充実の装備。そしてなにより、木と鉄でできたボディが質感的にグッときます。コレ、シンセを選ぶときに非常に大事。ちなみに、左右のウッド・パネルと前面下部のパネルを外すと6Uでラック・マウント可能。背面端子部も多少のくぼみがありますのでL型ケーブルなどを使えば、きっちり6Uで使うことも可能だと思います。さて背面端子類ですが、まずはアウトプット数から。ステレオ・マスター・アウトに加え8chの独立した外部出力を装備。これだけでも相当なもんですがS/P DIFのデジタル出力もついてます。Originは4パートのマルチ音源として使用できますから、すべてのパートを個別に出力することも簡単にできます。さらにOrigin内部でルーティング&音声処理可能なオーディオ・インプットも完備。外部音源をOriginの多様なシンセ・モジュールでシンセサイズさせることも可能です。またUSBケーブルでMIDIの送受信やファームウェア・アップデートが可能。さらに現状では未対応ながら将来的なアップデートでシンセ・モジュールの追加やコンピューター上からのプログラム編集、プリセット管理機能なども追加予定。充実のI/O群からもARTURIAの本気度合いがうかがえるというものです。ではOriginの中身に踏み込んでいきましょう。Originのシンセサイズ部分は固定的な構造になっているのではなく、モジュラー・シンセのように各モジュールを追加、接続していくことで構築していくことが可能。もちろん、各モジュールはARTURIA印。TAEによって裏付けされた確かな音です。このTAE、ARTURIAのソフト・シンセ製品の画面にも刻印されていますがどんな技術なのでしょうか。資料によればTAE(=True Analog Emulation)とはARTURIA独自のエミュレーション・エンジン。例えばオシレーターに関しては周波数変調使用時のエイリアシング・ノイズの除去、コンデンサー特性のひずみ、また波形が周回するたびに不安定に変形する様を再現したり、またフィルターにおいては各ハードウェア・コンポーネントの動作モデリングをしたりとアナログ・シンセ偏愛ここに極まり!な技術なのです。こうしたTAEによって開発されたオシレーター、フィルター群の音の良さは既発のソフト・シンセ群とその採用実績が証明してくれていることでしょう。ちなみにマニュアルでは実際のビンテージ・シンセとTAEエンジンのオシレーター波形や、フィルター自己発振時に生成される波形の比較が誇らしげに掲げられています。マニュアルを手に取った際はARTURIAエンジニアたちの自信をぜひ確認して下さい。そういえば、この技術のおかげか、ARTURIAのMOOGシンセ・プラグインにはモーグ博士のサインが入っていましたね。現在、Originで使用できるエミュレーションはMOOG Minimoog、ROLAND Jupiter-8、ARP 2600、YAMAHA CS-80。各シンセのオシレーターとフィルターを使用することができます。また今後のアップデートでSEQUENTIAL Prophet-5、Prophet-VSやMOOG Modularも追加予定(しかも無料提供を予定しているそう!)。またモジュールだけではなくシンセを丸々一台エミュレートしたテンプレート機能も搭載(画面①)。これはテンプレートとして登録されたシンセを選ぶと液晶ディスプレイに選んだシンセが表示され、往年のビンテージ・シンセそのものを手早くエミュレート可能。冒頭で紹介したユーザー・インターフェースの充実ぶりも相まって、簡単に操作することができます。現在はMinimoogだけですがモジュールと同じくこちらも2600、Prophet-5、Jupiter-8などをアップデートで追加予定。液晶でちんまく表示されるビンテージ・シンセがかわいくて、キます(今回はレビュー中に結構な回数キてます)。ARTURIA_Origin_minimoog.jpg

▲画面① Minimoogのテンプレート。まさに実機をそのままエミュレートしており、使いやすくできている。中古市場においても数十万円で取引されている名機のサウンドを簡単に試すことができる。



ソフトウェア音源で培った一目で分かるパッチング操作


さて実際のシンセサイズ・エディットでは、Originはさまざまなモジュールを組み立てるパッチ式を採用しています。パッチングと聞くと小難しそうなイメージがありますが、Originはパッチの経路を表示してくれるモードがついており、視覚的に大変分かりやすいのです。こうした足下の出来の良さ、使い勝手の良さはさすがソフト・メーカーとして培ってきた基礎体力、といったところでしょうか。モジュールの出力先や入力元もボタン一つで一発表示で、どのモジュールがどのモジュールとつながっているのかも一目で分かります。もちろん、パッチングの仕方も洗練された出来。まずはEDIT画面からラック画面へ。ここに使用したいモジュールを追加します。追加できるモジュールはそれぞれキーボード、6種類のオシレーター、5種類のフィルター、エンベローブ、アンプ、LFO、リング・モジュレーター、Bode周波数シフター(!)、ミニミキサー、ジョイスティック(画面②)、フェーダーとなります。モジュールを追加したらその後、モジュール詳細画面を開きモジュールの接続先を変更するだけ。真っさらな新規プログラムから簡単なシンセまで数秒でできちゃいます。もちろん、それも待てない!という人のためにシンプルなシンセのテンプレートも装備。ここから発展させていけばすぐにパッチを作成できます。また、"これは考えられてるなー"と感心したのがchangeボタン。これ、ルーティングそのままにモジュールだけ変更可能なんです。さっきまでMOOGフィルターを使ってたけど、同じ構成でCS-80のフィルターも試してみたいなんて場合も一瞬で完了できます(画面③)。歴代のビンテージ・シンセの音を聞き比べたりもできる、シンセ好き垂ぜんの機能です。ちなみにモジュールはDSPの許す限り追加していくことが可能。OriginのDSPはSHARCプロセッサーを2基搭載。これ、ハードウェア音源としては異例の高スペックなんだそうです。ARTURIA_Origin_Joystick.jpg

▲画面② パネル左側に配置されたジョイスティックの設定画面。モジュレーション、ソースなどをアサインして、さまざまな音色に変更可能となっている。これはハードウェアのだいご味といえるのではなかろうか


ARTURIA_Origin_Filter.jpg

▲画面③ FILTERセクション。こちらは名機YAMAHA CS-80をエミュレートしたモノ。こちらもシンセのテンプレート同様に、使いやすく、歴代の名機フィルターを瞬時に試すことができるのがうれしい


さらにさらに、シンセサイズ以降の段にはエフェクトも装備。フェイザー、コーラス、ディレイ、リバーブ、ディストーション、パラメトリックEQ、ビット・クラッシャーと、これでもか!と詰め込んでおります。またトップ・パネルをご覧になって分かる通り、パネル下部にはアルペジエイター/シーケンサーも装備。ここは、32ステップのシーケンサーが3つ使用できるのですが、これもそれぞれ出力先を変更可能。メロディを作るシーケンサー、フィルターのカットオフ周波数を変更するシーケンサー、モジュレーション・デプスを変更するシーケンサーなどとアサインも自由に変更可能ですので、単体ハードウェア・シーケンサーにも劣らない充実の内容です。もちろん、こうしたシンセとしての基本的な性能もさる事ながらX-Y2次元軸と角度を設定し、複雑なモジュレーションを可能とするGALAXY機能や簡単にアサイン可能なジョイスティック機能など新たな要素ももりだくさん。ビンテージを踏襲しながらもそれだけにとらわれない音作りが可能で、ARTURIAのフラッグシップ・モデルの意気込みをそこここに感じます。忠実に再現されたビンテージ・シンセのモジュールを組み合わせて新しいものを作っていく感じも大変おもしろい体験。"この使い方ならMOOGフィルターよりARPフィルターかなぁ......で、LFOをもう一基足して......" とかシンセ好きの夢、みたいなエディットもできちゃいますし、今後のアップデート・プランも楽しみなモノばかり。末長いお付き合いができる一品なのではないでしょうか。ARTURIA_Origin_rear.jpg

▲リア・パネル。左からヘッドフォン、インプットLR(フォーン)、マスター・アウトプットLR(フォーン)、AUXアウトプット×8(フォーン)、S/P DIFアウト(コアキシャル)、フット・コントロール、フット・スイッチ、MIDI IN/THRU/OUT、USB


撮影/高岡弘


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年8月号より)
ARTURIA
Origin
オープン・プライス(市場予想価格/294,000円前後)
▪最大同時発音数/32 ▪音源システム/TAE(TrueAnalogEmulation) ▪プログラム/1,000(400ファクトリー+600ユーザー) ▪マルチ/256(100ファクトリー + 156ユーザー) ▪オシレーター/最大9(各モデルのエミュレーションにより変化)  ▪ウェーブテーブル/最大4  ▪フィルター/最大4(マルチモード・フィルター) ▪出力VCA/最大4  ▪ADSRエンベロープ/最大8  ▪LFO/最大4のポリLFOと最大2のモノLFO ▪外形寸法/482(W)×87(H)×290(D)mm ▪重量/8kg