老舗コンソール・メーカーが贈る画期的なコンパクト・サイズ・ミキサー

SOLID STATE LOGICXLogic X-Desk
8ch+ALT8chで最大16インに対応し、モニター・セクションも充実。7Uラック・マウントにも対応

SOLID STATE LOGIC XLogic X-Desk オープン・プライス(市場予想価格/345,000円前後) レコーディング・エンジニアの私が初めてSSLを目の当たりにしたとき、今までのコンソールとは違った洗練されたデザインに興奮したものだ。それは現在にも受け継がれ、他社のコンソールにも多大な影響を与えた。そのSSLもここ数年、その卓越した技術をもとに数々のアウトボードを世に出し、もちろんコンソールもアナログはもとよりデジタルもラインナップされ、サイズもいろいろなユーザーに対応できるように幅広くそろっている。そんな中、今までには無いほどコンパクトなXLogic X-Deskが発表された。 

D-Subケーブルを採用したことで想像できないほど回線が充実


まず大きさだが、X-Rackのバス・モジュールと4chのインプット・モジュールなどの組み合わせを除く、ミキサー専用タイプとしては同社最小で、EIA規格に準じており7Uサイズに収まる。しっかりしたボディの割には思ったより軽量で、運搬も苦にならないだろう。入出力はモニター・スピーカー出力の2系統のみXLRで、ほかはすべてD-Subタイプとなる。後に述べるが入出力はかなりの回線が用意され、このサイズでは想像できないほどの充実ぶりだ。フロント・パネルは、大きく分けてインプット・セクション、マスター・セクション、モニター・セクションの3つのエリアに分かれる。初めてでも非常に分かりやすくすぐ理解できる。まずはインプット・セクション。一番上が入力に関するブロックで、入力トリム、ALTスイッチ、フェイズ・スイッチ、インサート・スイッチと並ぶ。入力は基本的に8ライン入力のミキサーとなっているが、ライン入力のほかにALT入力があり、ALTスイッチを押すことで、ALT入力に入れられた信号をコントロールすることが可能。入力トリムはゲイン幅がかなりあり、ほとんどの機器は対応できるだろう。次のブロックがCH OPスイッチだ。モジュールに入力された信号は随時ダイレクト・アウトから出力されるが、フェーダーの後(POST)を出力するのか、フェーダーの前(PRE)を出力するのかを選ぶ。そしてCUE STブロック。モジュールに入力された信号をCUEアウトから任意の定位とレベルで出力できる。が、その機能とは別に、このブロックにあるALTスイッチを押すことで、メインの入力が通常のラインを選択されている場合、ALT入力に接続された信号をこのブロックでコントロールすることが可能になり、実質的に16入力のミキサーとして機能する。FX1とFX2はメインのフェーダーを経由した信号をディレイやリバーブなどのエフェクト用のセンドとして使用する。最後にフェーダーと、それに対するPAN/CUT/SOLOという構成になっている。マスター・セクションに移ろう。まず上部にあるのが、CUE、FX1、FX2のセンド・マスター。おのおのにAFLスイッチがついており、ここを経由する信号をモニターで確認することが可能。FX 1とFX2にあるPREスイッチは、通常フェーダーに対してポストで信号が送られているが、このスイッチを押すことでプリで送ることができる。次にST RTN1と2、ここはエフェクターのリターンとして使用する。入力した信号は、CUE回線やMIX回線など任意の回線に送ることができる。最後がMIXブロックで、MIX LEVELが通常のコンソールにあるマスター・フェーダーにあたる。その上にあるCUE TO MIXボタンは、先にインプット・モジュールのCUE STで述べた、"ALTスイッチを押すことにより〜事実上16 chのミキサーの機能を持つ"という機能を実行するためのボタン。INSERTスイッチは、マスターに対して外部のエフェクターを接続して使用できる。Σスイッチとは、インサートのイン側に接続された信号を2ミックスと混ぜることができるもの。例えば他社ミキサーと2ミックスをカスケードしたい場合、インプット・モジュールを使用せずに別のミキサーの信号をX-Deskで聴くことができる。モニター・セクションへ進もう。一見して目を引くのがDIM、CUT、T/Bの各スイッチだ。DIMスイッチはMONITOR LEVELで設定されたレベルに対して、DIMボリュームで設定したレベル分だけモニターの音量を下げることができる。CU Tスイッチはモニターを完全にオフにする。T/Bスイッチはブース側にいるプレイヤーとコミュニケーションをとるトークバック用スイッチだ。T/B上部にあるスイッチは、下からMONO(モニター上のステレオ・ソースをモノにして聴くことが可能)、ALT L/S(押していない場合メイン・スピーカー・アウトに接続されたスピーカーから音が出、押された場合ALT L/Sアウトに接続されたスピーカーから音が出る)、その上のMIX/EX T/iJACKの3つは、モニターするソースを選択するためのスイッチ。MIXは通常のミキサーの信号を聴くときに選択し、EXTはCDやマスター・レコーダーなどの外部機器を接続して聴くことができる。iJACKは、このようなミキサーでは珍しく、ステレオ・ミニ入力がメイン・パネル上に装備されており、そこに接続された音を聴ける。いちいちケーブルを変換することなく接続できるのは非常にうれしい装備だ。本機はマイクプリ、イコライザー、コンプレッサーなどは搭載されてはいないが、大型コンソールと同じような信号の流れで構成されており分かりやすく、このサイズにしてはかなり考え込まれたミキサーである。

大型コンソールにも引けを取らないインターフェースの高級感


それではリア・パネルの入出力を見ていこう。先にも述べたが、本機は、接続用のコネクターにD-Subが使用されている。その入出力は大きく4つのブロックに分かれる。まず正面にみて右側、チャンネルI/Oのブロックだ、ここには、メインのLine Input、ALT Input、各チャンネル用のインサート・センド(アウト)、インサート・リターン(イン)、ダイレクト・アウトが装備されている。次のブロックは、エクスパンション・ポートで、ここには複数台のX-Deskをカスケードして使用するための入出力が並んでいる。そしてセンター・セクションのブロック。ここにはマスター系に関する入出力が装備されており、マスター用のインサートのインおよびアウト、マスター・レコーダー等に信号を送るためのStBuss、StCue、FX1、FX2の各アウト、ST RTN1と2のインプット、外部機器をモニターするためのEXTインプットがある。そしてその左にモニター・スピーカー用のアウトがメイン、ALTと2系統のXLR端子が用意されている。ここで一つ注意しておかなければいけないのが、X-Deskをただのライン・ミキサーとして使用する場合でも、最低3本のD-Subケーブルが必要だ。外部のマルチレコーダーなどを使用して、録音からトラックダウンまでスムーズに作業を行おうとすれば、7本のD-Subが必要になる。SSL_X-Desk_BACK.jpg

▲リア・パネル。左からAC電原、XLR端子(MAIN R/ALT R、MAIN L/ALT L)、センター・セクションI/O(OUT/IN)、エクスパンション・ポート(エクスパンション/リンク・アウト/リンク・イン)、チャンネルI /O(アウト/インサート・センド/インサート・リターン/メイン・インプット/オルタネイト・インプット)



昨今のレコーディング環境にマッチするハイクオリティなミキサー


実際に使用してみよう。本機をチェックするにあたって、同社のSL4000Gを装備しているスタジオでミックス・ダウンの仕事をしていたので、比較しつつ進めていく。とは言え、(当時)億近いコンソールと直接の比較は酷な気はするが、同じSSLの血が流れている物同士、それなりの奮闘はしてくれるのではないか。私は通常レコーディングからミックス・ダウンまですべてDIGIDESI GN Pro Toolsの内部で作業を行っており、特にミックス・ダウンに関しては必ず、すべて自分のシステムを持ち回り作業をする。もちろんスピーカーもパワード・タイプを持ち回り、スタジオが変わっても、モニターする機器(コンソールなど)、そしてルーム・アコースティックが変わるだけなので、スタジオおよびモニター機器の癖などが非常に分かりやすい。かつ今回はよく使用するスタジオなので比較するにはもってこいだ。触ってみた感想は、作りは非常にしっかりとしておりボディ剛性もよさそうだ。不要な振動が基盤などに与える影響は無視はできない。そういう意味では好感が持てる。フェーダーのタッチはやや軽い気もするが、最近は少し軽めなものが多いので気にはならないだろう。ストロークもこのボディ・サイズを考えれば申し分ない。各スイッチも重要な所にはLEDが点灯するようになっており、視認性も非常に良い。特に気に入ったのがPANや、センドのボリュームなどのツマミだ。指でつまんだ感じや、動かしたときの重さなど、仕事で使用している大型コンソールのタッチに非常に似ており心地よい。MONITOR LEVELなどは、かなり軽いタッチのツマミが多い昨今、この微妙な重さが高級感もかもし出している。それではLine Inputに入力された信号をMix Bussからアウトされた信号をチェックしてみる。X-Deskのモニター・セクションは使用せず、StBussから出された信号をスタジオのSL4000Gでモニターする。この状態での印象はすこぶる良い。実際のミックス・ダウンの途中でX-Deskを経由させ、厳密にレベルも調整して比較しているわけだが、フェーダーもコンマ00単位で反応してくれるし、2本のモジュールの特性(位相)も良い。少し厳しく言えば、当たりのキツい部分(2~6kHz)が少し滑らかになるような印象があるがこれはこのX-Deskのキャラだと理解すればなんら問題は無い。次にSL4000Gを経由していたモニターの回線もX-Deskのモニター・セクションに変更して、X-Deskのみでチェックしよう。モニターの音は、先ほどのチェックのときに感じた少し当たりがマイルドになる感じがもう少し上乗せされる感じだ。10kHz前後も少しおとなしくなる印象がある。しかしモニター・ボリュームの音量の変化でのバランスの崩れは全く感じられず、かなりの音量でドライブさせた場合でも、いやなひずみ感も感じられなかった。このミキサー自身のヘッド・マージンの余裕も感じさせる。モニターの音質の部分はキャラを理解して使用すればなんら問題の無いレベルである。このサイズと機能、価格を考えればかなりの代物だ。最近では、コンソールの無いスタジオで作業することも少なくない。その場合困るのが一つの楽器に数本のマイクを使用して録音したとき、ミキサーが無いと個別に録るしか選択肢が無い。そういう場合このようなコンパクトでハイクオリティなミキサーがあると任意にミックスして録音することができるので非常に助かる。本機のようにたくさんの機能が搭載されていればいろいろなシーンで、いろいろなタイプのユーザーに対応できることは、非常にすばらしいことだ。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年8月号より)
SOLID STATE LOGIC
XLogic X-Desk
オープン・プライス(市場予想価格/345,000円前後)
▪周波数特性/10Hz〜40kHz(±0.2dB、chライン・ALT入力→ch出力/ポストフェーダー)、10Hz〜40kHz(±0.3dB、chライン・ALT入力→MixBuss出力/1ch) ▪全高調波歪率/0.05%(20Hz〜20kHz) ▪ヘッドルーム/+24dBu(入力インピーダンス:10kΩ) ▪外形寸法/434(W)×120(H)×310(D)mm ▪重量/4.8kg