ビンテージを見限る可能性も示唆する真空管コンデンサー・マイク

VIOLETThe Flamingo Standard
話題のラトビア製マイク・プランドのフラッグシップ機

VIOLET The Flamingo Standard 766,500円昨年日本に初上陸し、何かと話題のマイク・ブランド"VIOLET"。本誌先月号に製品開発ストーリーが掲載され、御覧になった方も多いのでは? 今回はそのフラッグシップ・モデルである真空管コンデンサー・マイク、The Flamingo Standardをご紹介しよう。本シリーズは、ダイアフラムの違いにより "Magic Ear""Standard""Vintage"の3種類があるが、現在日本に導入されているのが"Vintage"を除く2種。異形ダイアフラムが特徴の最上位機種"Magic Ear"も聴いてみたかったが、そちらはまたの機会にご紹介できればと思う。

NEUMANNボトルを基調にしたショックマウント機能搭載


実物を前にするとまずその個性的な外観に目を奪われる。文字通り美しい"バイオレット"を身にまとい、中央に金のフラミンゴ・バッジが輝くボディは、その大きさも相まって存在感たっぷり。いわゆる"NEUMANNボトル"を基調にし、細部を現代風にアレンジしていると見受けられるこの形状は単なるデザインだけでなく、カプセルに振動が伝わるのを吸収するショックマウント機能のためだ。カプセルは運搬時のショックからも守るため3本のビスで外側から固定され、"使用時に外すこと"という注釈が添えられている。そのカプセルに収まっているのがVD67ラージ・ダイアフラム。Flamingoシリーズはすべて単一指向だが、求める音色を得るためにツイン・ダイアフラム仕様になっている。そして大型木製キャリング・ケースには、マイク、専用電源、専用ケーブル類が奇麗に収まる。しかし付属の"スパイダー・サスペンション"が入るスペースが無い。実はもともとこのサスペンションはオプション扱いで、日本のみ付属品扱いという。とはいえ無くてはならないものであり、比較的大きいものなので何らかの対策をしていただきたく思う。専用電源は電源投入時にチューブに電流が流れすぎることを防ぐシーケンシャル回路を内蔵。ゆっくりと電圧を上昇させる様子はLCDディスプレイによって確認できる。 

ビンテージ・マイクのいいところ取りをし十分に作り込まれた感じの新しいマイク


肝心の音質チェックに移ろう。最初は実際のセッションの中で進行を妨げない程度に"試聴"してみた。まずはアコースティック・ピアノにNEUMANN U67Sとともに立ててみる。中域から高域にかけてガッツのある響きをとらえるU67Sとは対象的に本機は繊細で伸びやかな響きの印象。とはいえ、しんはしっかりしているので、オケの中で音像がぼやけることはない。次にドラムのオーバーヘッドに立ててみる。皮物の太さからシンバルなどのきらびやかさまでドラム全体をつながりよくとらえている感じは好印象だった。後日、NEUMANN U67、M149、TELEFUNKEN ELA M251E(復刻)、AKG The Tubeなど、新旧チューブ・マイクとともにその音色をじっくりと確認してみた。アコースティック・ギターの正面やや上、25cmほど離した所にマイクをセットして聴き比べた。指弾きによるアルペジオ、ピック使用のアルペジオ&ストロークとどれをとっても音の立ち上がりが早く、輪郭がはっきりしている。ゲインは高めでS/Nもかなりいい。この辺りに技術力および製品クオリティの高さがうかがえる。低域はしっかりとした締まりがあり、グズグズもたついた印象は少ない。中域の明瞭度は高く、張りはあるが嫌なピーク感は少なめ。高域は12kHz辺りの張り出し具合に若干の"脚色"を感じるが、それほど嫌みではなく、最初に感じた"はっきりした輪郭"という印象に一役買っている。カタログの"ワイドでスムースな周波数特性に最上の高域を兼ね備えており、女性ボーカルに最適"というのも納得がいく。"豊かさを持ちながらどの帯域においてもレスポンスよく抜けもいい"という基本的音色がM149に一番近い印象を受けたが、M149が持っている、いい意味での"ザラツキ感"は無く、よりスムーズ......裏を返せば"優等生過ぎてやや引っかかりに乏しい"とも言えると思う。本機はM149もU47、M49、U67などの今となっては貴重なビンテージものを意識して作られた新しいマイクだ。今回共に使用したU67はかなり状態が良いモノで、特性うんぬんではない独特の世界観を持っていた。本機にそういった"本物"が持つ濃いキャラクターは希薄だが、さまざまなビンテージ・マイクを研究、いいとこ取りし、十分に創り込まれた感じを強く受け、それゆえに形成されたバランスの良さ、使いやすさ、可能性をも多いに感じられた。個体差が激しく、年々状態の良いモノの流通量が減るビンテージを探し続けるのか、新品でもクオリティの高いマイクでさまざまな録音を今すぐ始めるのか。現在、そしてこれからを見据えてビンテージを見限るという選択も、本機のようなマイクの出現により可能になってきたと思う。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年6月号より)

撮影/川村容一

VIOLET
The Flamingo Standard
766,500円
SPECIFICATIONS ■周波数特性/20Hz〜20kHz ■指向性/単一 ■サイズ/68 (φ) x 307(H)mm ■重量/1.3kg ■付属アクセサリー/スパイダー・サスペンションVSM47-FL、専用電源ユニットVPSU-FL、専用マイク・ケーブルVTC-06(6m)、専用木製キャリング・ケース