DSPパワー・アップ&エフェクト機能が強化したシンセ・モジュール

ACCESSVirus TI2 Desktop
Audio Units/VSTプラグインとしても使用可能なドイツ製ハードウェア・シンセの最新版

ACCESS Virus TI2 Desktop オープン・プライス(市場予想価格262,500円前後)気がつけばドイツのACCESSからVirusが発売されたのはもう10年以上前のことになる。この間いくつかの製品をリリースし続けるが、常にVirusという冠はそのまま残してきた点に開発者たちの意地、こだわりのようなものが感じられる。そんなVirusシリーズのひとつVirus TI Desktopが、今回Virus TI2 Desktopとしてアップグレードされたのでチェックさせてもらった。

DSPパワーを25%アップし新OSバージョン3を搭載


Virus TI2 Desktop(以下TI2)はTIと同様にハードウェアのシンセとして、またパソコンとUSB接続し付属のAudio Units/VST対応プラグイン・ソフトVirus Control(Windows/Mac)を使用すれば、外部DSPを利用したプラグイン音源としても使用可能な音源モジュール。また2イン/2アウト、24ビット、44.1/48kHzのオーディオ・インターフェースとしても使えるので、パソコンとTI2だけで、ライブ・プレイや机の上でのシンプルな環境も構築できる便利さも併せ持っている。今回のアップグレードでは、まず外見に若干の変化があり、内部DSPパワーが25%アップされている。さらに本体には新OSのバージョン3.0が搭載され、テープ・ディレイなどの新しいエフェクトが追加されている。特にディストーション系には大きな改良が加わり、新規ディストーションに加えて、サイン波、三角波、ノコギリ波などの波形を応用したシェイパー・アルゴリズムを追加。ほかにも前モデルから搭載されているオシレーターを利用したリング・モジュレーション機能のほかに、エフェクトとしてのリング・モジュレーターと、同じくモジュレーション系のフリケンシー・シフターなどを搭載。これらは従来以上に音作りの可能性を大きく広げてくれるだろう。そう聞いてしまうと旧TIユーザーは取り残された気持ちになりそうだが、新OSはACCESSのWebサイト(www.access-music.de)から無償でダウンロード更新でき、DSPパワー以外はほぼ同じ機能になるので、旧ユーザーはひとまず安心だろう。ちなみに本稿はVer.3.0.1.10でのレビューだ。 

アナログ・シンセの質感を付加できる新エフェクト"キャラクター"


ここからは新機能にこだわらず、あらためてTI2全体の機能を見ていこう。TI2は今どきのシンセらしく多機能だが、その柱となるのはオシレーター・セクションではないだろうか。本機ではいわゆるバーチャル・アナログ系の"クラシック"のほかに2つのモードが用意されている。まず古き良き時代のアナログ・シンセを実直なまでに研究したクラシック・モードは特にウルトラ・ローの再生域の強力さに加え、波形の位相角やFMをはじめとする変調の充実ぶりはマニアならずとも納得の出来栄え。そこからは"ウチはこれで勝負してますから"という技術者の気負いを感じずにはいられない。またHypersawモードでの強力なシンク系サウンドはアナログを超えたとさえ思える出色の出来だが、個人的にイチ押しと思ったのがWavetableモード。発想自体は1980年代からあるものだが、TI2ではより多くのバリエーションがあるため、21世紀のサウンドがふんだんに楽しめるようになっている。フィルターは2基のマルチモード・タイプが搭載され、ルーティングも複数用意されているのは今では当たり前だが、フィルター・ページにさりげなく用意されたサチュレーションが面白かった。ビットやサンプリング・レートを変化させたり、意図的にデジタルチックなひずみを加味できるもので、テクノ/エレクトロニカ系はもちろん、幅広いジャンルで重宝すること請け合いだ。そのほか、音作りの要であるマトリクス・モジュレーションも構成のルーティングが素早く理解でき、スピーディなアサインが可能だ。操作性の良さも挙げておこう。コンパクトなボディなので全パラメーターの編集にはLCDディスプレイが必須になるが、基本的につまみで調整すべきパラメーターはちゃんとつまみで賄えるので、リアルタイム・コントロールでは必ずしもLCDを見る必要はない。またパラメーターの要所に設置されたLEDが現在の状況を示しているので、視認性の良さと全体情報の確認に一役かっている。とりわけ特筆しておきたいのはつまみのスムーズさだ。特に、オシレーターやフィルターのパラメーターは細かい解像度が要求されるのだが、その点TI2のスムーズさは完ぺきだ。エフェクトもなかなか芸が細かい。特に気に入ったのは新規搭載されたテープ・ディレイのキャラクター。前者は幾つかのタイプが用意されているが、どれも"ならでは"の質感をうまく表している。後者はサウンドを微妙に変化させ、アナログ・ブーストや過去の伝統的なアナログ・シンセのキャラクターの付加も可能で、これが大変強力。同じパッチでもここでの設定は料理における最後のうま味調味料の一振りという感じだ。さらに、DAW上でプラグイン音源として使用する場合、パソコンのCPUに負担をかけないのがミソ。パソコン画面上で普通のプラグイン感覚で使え、チェック環境下ではすこぶる安定していたことを付け加えておこう。これら以外にマルチモード、アルペジエイター、即戦力となる膨大な数のプリセット音色などお伝えしきれない話がたくさんあるので、一度楽器店で触ってみることを強力に推奨する。2_Access_TI2_Back 

▲リアパネル。左からヘッドフォン端子、電源コネクター、ステレオ・アナログ出力×3(フォーン)、ステレオ・アナログ入力(フォーン)、S/P DIFデジタル入出力(コアキシャル)、MIDI THRU/OUT/IN、USB端子


サウンド&レコーディング・マガジン2009年6月号より)

撮影/川村容一

ACCESS
Virus TI2 Desktop
オープン・プライス(市場予想価格262,500円前後)
■最大同時発音数/25〜110(パッチ構成による) ■シングル・パッチ/RAM=1024、ROM=3,328 ■マルチ・パッチ/128(内16はシングル・パッチ埋め込みタイプ) ■外形寸法/444(W)×70(H)×200(D)mm ■重量/3.2kg