有名カスタム・ショップが自社ブランドで生み出したマイク

MERCENARY AUDIO MFGKM69
銘機KM84を再現し現代的な仕様も加えられたコンデンサー・マイク

MERCENARY AUDIO MFG KM69 114,000円MERCENARY AUDIOはレコーディング機材を扱う米国のショップとして著名であるが、加えて"Mercenary Edition"の名前で、これまでに多くのメーカーと組んでさまざまなアウトボードなどを世に輩出してきた。その種類を挙げれば本当に切りがないが、ビクタースタジオが多数所有するNEVE 1073のほぼすべても同社の手によるものである。そしてこの度、自社ブランドMERCENARY AUDIO MFGを立ち上げ、その第一弾としてリリースしたコンデンサー・マイクがこのKM69である。これは、KM84のサウンドを完全に再現したマイクであるとのこと。KM84とは、言わずと知れたNEUMANN製コンデンサー・マイクで、今やビンテージと呼ぶのにふさわしい銘機。さらに、KM69の資料には、KM84の復刻にとどまらず、さらにプラスαを盛り込んだとある。早速試してみよう。

驚きの高ゲイン・タイプ 高域の伸びが特徴的


まずは外観から。ベーシックな形や大きさはKM84とほぼ同じで、少し離れてセッティングされていると見た目では区別がつかない。個人的にはSCHOEPSやAKG C451といったマイクも"同型"と勝手に区分けしているが、それらと比べて縦が短い点がKM84の特徴と感じていたが、そのスタイルは引き継がれている。ただ厳密には、長さは同じだがKM69の方が若干太い。そのためか重量があり、前述の同型マイクと比較しても"どっしり感"がある。指向性はKM84と同様に単一のみで切り替えはできない。ちなみにオリジナルのKMシリーズは、KM83が無指向、KM86が双指向と単一と、指向性によって型番分けがなされていた。それでは、実際に音を聴いてみよう。まず立ち上げてみて驚いたのはゲインだ。KM84と比べると10dB以上は高く、現代仕様に改善されていることが分かる。では、肝心の音質はどうか。まずKM84との比較試聴から行った。パッと聴きの質感は非常に似ていて同種のにおいを感じさせるが、高域の表現力に明確な差がある。基音より上の高い周波数帯域に、現代的とも言えるような"伸び"があるのだ。加えて非常に低い重低域の、特に空調ノイズでボコボコと吹かれてしまうような帯域がうまく処理されている。このことからホール録音での使用にも配慮したことがうかがえる。トータルなサウンドの印象はハイファイと言えるだろう。

KM84譲りの柔らかい音像 音源との距離次第でオフ感も付加


KM84が海外ではどんな楽器に多く使用されているかはほとんど分かっておらず、不勉強さをおわびするしかないが、日本での使用例としてはまずアコースティック・ギターが挙げられるだろう。個人的なアコギでのKM84の印象は、単一指向のマイクに特有の、ある帯域でのピーク感が全く無く、非常に柔らかい音が録れるというもの。ここは好みが分かれるところで、シャープな音を目指した場合にはその特性ゆえに高域に物足りなさを感じてしまうケースもあった。一方、このKM69では、KM84の最大の特徴であろう音像の柔らかさはそのままに、高域に自然なきらびやかさが加わっている。今までアコギにKM84を使っていてEQで高域をブーストしていた方にはお勧めだろう。面白いのはチョッと離して立てた場合。指向性の角度によるものなのか、KM84よりも少し音源から離しただけでもオフ感が加わる印象を受けた。セッティングの調整次第ではアンビエンス・マイクを別途用意しなくても、メイン・マイクのみでスタジオの響きも同時にレコーディングが可能だではないだろうか。この方法であればマイクを複数使用したときの位相を気にすることもなくなるというメリットもある。ただし、もともとオフめにセッティングするバイオリンなどに用いる場合は、KM84と同じように立てるとオフ過ぎる場合があるかもしれない。このケースでは事前のキャラクター把握が必要になるだろう。なお、KM69の紹介文で"最高のハイハットマイクを開発したかった"との一文を目にした。私の知る限り、日本でのレコーディングではKM84をハイハットやドラムのオーバーヘッドに使用するケースはあまり無かったが、KM69であればシンバル系の金物の響きを録るのにも適しているのではないだろうか。NEUMANNでは、KM84の後継モデルとして、KM184をリリースしており、さらにKM184Dという型番でデジタル仕様のモデルまでラインナップしている。このことからも、その"KM84の血統"をNEUMANN自らが大切にしていることが十分にうかがえる。しかし、このタイミングでNEUMANN以外のブランドから新たにオリジナル仕様のKM84サウンドを再現したマイクが発表されるほど需要があるとは情報不足であった。というのも、確かにKM84はキャラクターあふれる個性的なマイクであることには違いは無いが、決してオールマイティなマイクという印象は受けないからだ。そうしたKM84の強いキャラクターはしっかりKM69にも受け継がれており、両者のサウンドは非常に似ていると言っていいだろう。KM69のキャッチ・コピーには、"KM84の再現に加え高域に絶妙なエアー感が加わった素晴らしいバランスのマイク"とある。まさにその通りで、この表現は全く嘘のない的確なものであった。懸念材料があるとすれば、KM84ファンの方にとって、その"高域のエアー感"を必要とされない場合もあるかもしれない。しかし、この価格である。KM84サウンドを求める方にとって、KM69がお買い得と言えるのは確かだろう。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年5月号より)
MERCENARY AUDIO MFG
KM69
114,000円
■指向性/単一 ■外形寸法/23(φ)×108(H)mm ■重量/120g ■付属品/ケース、マイク・ホルダー