可搬性に優れたMOTUのDSP内蔵オーディオI/O

MARK OF THE UNICORNTraveler MK3
小型ボディに高性能を凝縮したオーディオ・インターフェース3代目

MARK OF THE UNICORN Traveler MK3 オープン・プライス(市場予想価格125,000円前後)初めてDAWを手に入れた10年前に、僕が最初に使ったオーディオ・インターフェースが、MARK OF THE UNICORN(以下MOTU)828の初代機。同機は当時、その性能と扱いやすさ、手ごろな価格で入門向けインターフェースとして人気の機種だった。やがて、野外などに持ち運んで手軽に使える小型機種にも人気が集まり始めたころに発表されたのが、Traveler。高性能はそのままにダウン・サイズした同機はすぐに話題になったことを覚えている。そして時代はさらに進み、今では828がMK3に、そして今回紹介するTravelerもMK3になって新登場した。

高性能の内蔵DSPエフェクトで幅広い音作りが可能


スペックを見てみると、アナログ入出力は48Vファンタム電源内蔵のマイク入力×4、ライン入力×4、ライン出力×8。 デジタル入出力は16chのADAT×2系統、S/P DIF、AES/EBUの計20イン/20アウト(写真1)。24ビット/192kHz に対応しており、付属のACアダプターのほか、DC電源やバスパワーでの駆動も可能(写真2)。またコンピューターの有無にかかわらず、スタンドアローンのミキサーとしても作動する。MOTU_TRAVELERMK3R_600.jpg▲写真1 リア・パネル。左よりAES/EBU入出力、FireWire端子×2、ワード・クロック入出力、オプティカル入出力×2系統、S/P DIF入出力(コアキシャル)、アナログ出力×8(TRSフォーン)、ライン入力×4(TRSフォーン)、マイク/インストゥルメント入力×4(XLR/TRSフォーン・コンボ)MOTU_TRAVELERMK3RSide.jpg▲写真2 右側のサイド・パネルにはMIDI IN/OUT、FireWireバスパワー切り替えスイッチ、DC電源用端子、ACアダプター用端子を装備また本機はDSPを搭載しており、DAWのプラグイン・エフェクトとは別系統でEQ、コンプ、リバーブを、すべての入出力にかけることが可能だ。コンピューターにユーティリティ・ソフトCueMix FXを立ち上げれば、エフェクトの設定など細かい調節も可能。ちなみに内蔵エフェクターは、60秒のリバーブ・タイムを備えるClassic Reverb、イギリス製コンソールに備えられた名EQをフィルター・カーブまでシミュレートした7-band Parametric EQ、UNIVERSAL AUDIO LA-2Aをモデリングしたオートマティック・ゲイン・コントロール機能搭載のLevelerがある。内蔵の高クロックDSPは、ノー・レイテンシー録音を可能にしている。マイク/ギター入力からの録音時にはリミッターが機能し、デジタル・クリップや耳障りなノイズの発生を防ぐ。また本機はWindows/Macに両対応しており、Mac OS X専用の24ビット対応DAWソフトAudioDesk 3も付属している。

しんはあるが固過ぎずとても自然な録り音


実際に使ってみてまず気に入ったのは、"簡単に音が出せる"ところ。DAWの場合、音を出すためにわざわざソフトを起動させなくてはならないが、本機は電源を入れて楽器をつないだだけで音が出せるのだ。コンピューターにCueMix FXを立ち上げ、専用のミキサー画面でレベル調整、EQ、コンプ、リバーブの設定が可能(フロント・パネルのノブでも制御できる)。例えば、エレキギターを本機に直挿ししてCueMix FXを立ち上げる。CueMix FXは動作が軽く視覚的にも分かりやすいので、エフェクトなどで気に入ったサウンドをすぐ作れるだろう。イメージした音を手早く出せればインスピレーションも途切れず、ストレスなく演奏に集中できる。また、いったん音を作ってしまえば、次回からはコンピューターを立ち上げなくとも、Traveler MK3と楽器をつなぐだけで前回設定した音が出せるので、気軽に楽器をつなぎ、弾いていて良いフレーズが思い浮かんだときだけDAWで録るというやり方もできる。もちろん内蔵DSPによってエフェクトがかかった状態でも、レイテンシーは皆無(リバーブはモニターのみにかかるようにも設定可能)。DAWを立ち上げて1人で演奏/録音を行っていると、どうしても"録音"に意識が行きがちだが、コンピューターの画面を見ずに済むこのやり方だと、演奏に集中できる。もちろんバンド・アンサンブルを煮詰めていく際にも、この手法は有効だろう。録り音に関しては、マイクもラインもMOTUらしい音。固過ぎず、しんがあって、とても自然な鳴り方だ。ミックスで処理する際もエフェクトのかかりが良く、扱いやすい。本機は15インチのノート・コンピューターと同じくらいのサイズなので、本体の上にコンピューターを乗せてしまえば、スペースはそれだけで済む。バスパワー対応なので、本機とコンピューターとマイクさえあればどこへ行っても録音ができそうだ。もちろんこれまで紹介したように、コンパクトながら据え置き型の機種とそん色ない高性能を生かし、メインのインターフェースとして使ってもよさそうだ。モバイルの利点である手軽さと据え置き型の高性能を併せ持った本機。音質のクオリティは保ったまま、音楽との向き合い方をもっと自由にしてくれると感じた。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年5月号より)

撮影/黒羽俊之

MARK OF THE UNICORN
Traveler MK3
オープン・プライス(実勢価格:125,000円 )
▪対応オーディオ・ドライバー/WDM、ASIO、CoreAudio ▪外形寸法/375(W)×44(H)×250(D)mm ▪重量/1.72kg

▪Windows/Windows XP/Vista(32/64ビット)、900MHz以上のINTEL Pentium、Celeron、または互換プロセッサー、256MB以上のRAM(5 12MB以上を推奨)、IEEE1394端子 ▪Mac/Mac OS X 10.4以上、Power PC G4 700MHz以上(Power PC G4 1.2GHz以上を推奨)、256MB以上のRAM(512MB以上を推奨)、IEEE1394端子