VSTプラグインをコンピューター無しで持ち出せる小型ギア

SM PRO AUDIOV-Machine
パソコン上のVSTi/VSTエフェクトをハードウェア化する小型マシン

SM PRO AUDIO V-Machine 79,000円 "今回ご紹介するSM PRO AUDIO V-Machineとは......"と、毎回こういう書き出しで概要をお伝えしてからレビューに入っていくのですが、今回はそれが通用しません。新進気鋭の製品で、まだジャンル名の無いツールだからです。V-Machineを一言で説明しようとするなら、"プラグインを単体ハードウェアで使えるようにしてしまうもの"といったところ。ハードのVSTプレーヤーというのが一番近い表現になるのでしょうか。一体どういう製品なのか紹介していきます。 

コンパクトな筐体にUSB端子×3と1系統のアナログ入出力を完備


上述の通り、V-Machineはコンピューター内のVSTインストゥルメント/エフェクトを単体のハードウェアとして持ち出すことができる製品です。具体的なワーク・フローとしては、専用ソフトの"VFXアプリケーション"(画面1/現状はWindowsのみ完全対応)でコンピューター内のVSTプラグインを読み込み、もろもろの設定を施したプリセットを作った後、そのプリセットをUSB接続でV-Machineへ転送するという感じです。この作業をすることで、V-Machine単体でVSTインストゥルメント(以下VSTi)やVSTエフェクトが使えるようになります。SMPRO_V-Machine_VX.jpg▲画面1 Windows上で立ち上げたVFXアプリケーション。ここで作ったプリセット・データを送信して、V-Machine単体でVSTi/VSTエフェクトの使用が可能となる。このVFXアプリケーションがV-Machineのマスターとなるイメージだ。画面のようにVFXアプリケーションに登録したVSTプラグインは画面表示もでき、そこで音を出したり、パラメーター・エディットが可能。ただし、現状VFXアプリケーションはWindows用のみで、Macはベータ版のみ用意されているさて、実際の製品を取り出してみてビックリしたのは、その小ささ! 片手で十分持ち運び可能なコンパクト・サイズです。ボディ自体も安っぽい感触が無く、これなら安心してライブや外部スタジオに持ち出せそうです。本体にはUSB端子が3つ付いており、1つはコンピューター、残りの2つはMIDIキーボードやMIDIコントローラーなどの接続用。本体内のVSTiはこのUSBまたはMIDI IN端子に接続されたMIDIキーボードで演奏することが可能です(写真1)。しかもUSBバス・パワーの供給も可能で、対応MIDIキーボードならば電源を必要としません。また本体には、アナログ入力×1(ステレオ・ミニ)とアナログ出力×2(フォーン)も装備されているので、エフェクターとしても使用できるというわけです。SMPRO_V-Machine_Rear.jpg

▲写真1 リア・パネル。左から電源コネクター、USB(B端子)×1、USB(A端子)×2、MIDI IN、アナログ入力×1(ステレオ・ミニ)、アナログ出力×2(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・ミニ)を装備


早速、本体の電源を入れてみると、プリインストールされたIK MULTIMEDIA SampleTank 2.5 SEの音色がロードされます。この時点で、V-MachineはSampleTankの音源を乗せたハード・シンセとして動作するわけです。ちなみに電源を入れると小さなファンの音。コンピューターに明るい方なら予想できるかと思いますが、V-Machineには小さなコンピューターが入っているのです。もちろん、独自のOSが走っていて、通常の電子楽器ライクな操作感で使えます。作業中にすぐ電源を切っても問題ありませんし、動作の安定感も抜群。販売代理店の方にうかがったところ、"演奏中などにフリーズしたり落ちたりした事例は今のところ無い"ということなので、ライブなど特に安定感が求められる場所でも活躍できそうです。 

最大21個のプラグインを使って1つのプリセットが作成できる


実際にV-Machineの設定をしてみましょう。まずはコンピューター内にあるVSTi/VSTエフェクトをVFXアプリケーションにインストールすることから始めます。まずVFXアプリケーションのエクスプローラーからVSTに必要なdllファイルを指定。これだけでインストールは完了です。もちろん、すべてのVSTプラグインがこれだけで読み込めるわけではなく、正確なインストールに別途VFXオリジナルの設定ファイルが必要なものもあります。今回のチェックではそのようなプラグインは無かったのですが、同社のオフィシャル・サイトで有名VSTプラグインのインストールに必要な設定ファイルが公開されていますので、本ソフトとの互換性が気になる方はそちらもチェックしてみてください。ここで鋭い人はお分かりかと思いますが、VFXアプリケーションはそのプラグインがV-Machineで動くかどうかのチェッカーも兼ねています。つまり、VFXアプリケーションで動作するVSTプラグインなら、V-Machineで動作させることが可能なのです。VFXアプリケーション自体はフリーウェアとしてダウンロードできますので、お手持ちのプラグインが動くかどうか確認しておきたいという方はこれで簡単に試すことができます。さて、VFXアプリケーションの構造も見ていきましょう。ここにはVSTプラグインを立ち上げることが可能な"ミキサー"があり、3つのプラグイン・インサートがそれぞれ可能なch1〜4と、同じく3つのプラグインを立ち上げられる2ch分のFX Bus(エフェクト・センド)とマスター・チャンネルから構成。このミキサーの設定(インサート・プラグインや、各チャンネルのパン/ボリューム)を"プリセット"と呼び、1つのプリセット内に最大21個のVSTプラグインを立ち上げることが可能となっています(画面2)。SMPRO_V-Machine_Mixer.jpg

▲画面2 1つのプリセットにはミキサーが用意され、ch1〜4、内部センド・エフェクト用のFX Bus×2、マスター・チャンネルを装備。各チャンネルには最大3つまでのVSTプラグインがインサートできるので、あらかじめVFXアプリケーション上で凝ったサウンドを作っておいて、V-Machineで持ち出すということが可能となる。もちろんプリセット内の各パラメーターはV-Machine本体上でも行える


VFXアプリケーション上では、VSTiをMIDIキーボードなどで演奏したり、そのサウンドにVSTエフェクトをかけることが可能。つまり、スタンドアローンのVSTプレーヤーとしても機能するわけです。ただし、ch1〜4にインサートできるVSTiはそれぞれ1つまでで、残りのインサート・スロットはVSTエフェクト用となります。また、各プラグインでMIDIチャンネル指定が個別にできるので、深い使いこなしも可能。ついでに、プリセットは"バンク"に128個まで作成することができ、バンク自体も64個まで作れるので、プリセットの数で困るようなことはまず無さそうです。 

本体へのプリセット送信は簡単 演奏レイテンシーの無さも素晴らしい


さてVFXアプリケーション上でプリセットを作成したら、ミキサー画面の上にあるメニューのSYNCボタンをクリック。これでVFXアプリケーションで作ったプリセットがV-Machineに送られ、接続を解除してもV-Machine単体で同じように演奏 or エフェクト処理が可能です。もちろん、プリセットのパラメーターはV-Machine本体のパネルで表示させて設定もできます。VSTi独自のプリセット・プログラム(VFXのプリセットとは違う意味)を変えることも可能ですが、プリセット・プログラムのファイルとdllファイルが別々になっているVSTプラグインに関しては、前述の設定ファイルの読み込みで対応できるようです。ここで、V-Machine内のVSTiをポロポロとMIDIキーボードから弾いてみたところ、入力レイテンシーが気になることは皆無でした。単体動作をうたう以上、当然のこととはいえ、少しのレイテンシーも気にならなかったのには、ちょっとビックリしました。また、汎用的なMIDIコントローラーを接続したときも特別な設定無しに認識してくれました。V-Machine本体にもLearn機能が付いているので、MIDIコントローラーのノブとパラメーターのリンク設定も一瞬で完了! これは素晴らしい操作感でした。もちろん、エディットした数値やMIDI Learn設定は本体に保存可能です。 

膨大な数のプリインストールVST Mac用ベータ版もダウンロード開始


ところで、VFXアプリケーションはWindows用と先ほど書きました。"それじゃMacユーザーはどうすんじゃい!"とお思いの方もいるでしょうが、ご安心あれ。原稿執筆時点でベータ版ではありますが、Mac版のVFXアプリケーションが公開されています。ただしMac版で使う際も、VSTプラグインはWindows用のdllファイルを使う必要があります。逆に言うと、Mac版のVFXアプリケーション上でWindows用VSTプラグインを使えるという、Macユーザー積年の夢がかなうわけです! これはV-Machine自身のコンセプトと同じように大変画期的なことだと思います。また、"使いたいプラグインはUSBドングルが必要だしなあ"ということもあるでしょう。残念ながら現段階ではUSBドングルを使用するVSTプラグインは動作しません......が、さる情報筋(というか代理店の方ですが)によると、近日STEINBERGキーとiLokキーへ対応するとのこと。さらに将来的にはUSBメモリーやUSB HDDからのサンプル・ストリーミングにも対応予定ということで、大容量サンプルを使用するVSTiも単体ハードウェアとして持ち出し可能になる模様です。ちなみに、V-Machineには多数のVSTプラグインが既にプリインストールされています。その内容は、SampleTank 2.5 SE、4FRONT Bass Module、E-Piano Module、Piano Module、ALGOMUSIC Arpy、PhadiZ、E-PHONIC Drumatic 3、Invader、Lofi、Retro、Delay、Solo String、FSYNTHZ 15 & 15.5、Air4th、UGO Motion、Texture。さらにバンドル・ソフトとして、MAGIX Samplitude SE No.9、AM-Track SE Plug-Inも無償ダウンロード可能です。VSTプラグインをハードで動かす本製品。例えば、Macしか無いDIGIDESIGN Pro Toolsスタジオに持ち込んでWindows用VSTプラグインを使用したり、ライブでハード楽器としての安定感を求めたり、はたまたDJ用の小型で強力なエフェクターとして使用したりと、かなり幅の広い使い方が考えられるのではないでしょうか。とはいえ冒頭でも述べた通り、かなり新進気鋭の製品ですので実際の動作はどうなるんだろうと思う方もいらっしゃるでしょう。まずはVFXアプリケーションをダウンロードして実際に動作可能かどうかをご自分で確かめてみてください! 余談ながら、チェック中、コンピューター・オタクとしての本体分解欲を抑えるのに苦労しました......。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年5月号より)

撮影/黒羽俊之

SM PRO AUDIO
V-Machine
79,000円
▪内蔵コンピューター/1GHz CPU、512MB RAM、1GBフラッシュ・メモリー ▪外形寸法/179(W)×42(H)×122(D)mm ▪重量/560g

VFXアプリケーション用 ▪Windows/Windows XP、Vista ▪Mac(ベータ版のみ)/Mac OS X 10.5以上