レトロなアナログ感が得られるリミッター/ひずみ系モジュール

STANDARD AUDIOLevel-Or
1960年を代表する名機にPA用のリミッターとして名をはせたSHURE Level-Locがある。日本ではまずお目にかかれないこのレアな名機にインスパイアされ、さらにディストーション・ユニットを搭載したSTANDARD AUDIO Level-Orがお目見えした。今回はその真価を試してみる。

LEVELとCRUNCHの2モードを搭載
単純明快な操作性も魅力的


Level-Locよりも数段コンパクトに仕上げられた本機は、API 500シリーズの互換フレームにコンパチブルで対応する。要はこれ単体で購入しても使えるわけではないので、そういった意味でも通のエンジニアやアーティストなどを対象にした機材であることがうかがえる。接続部は、XLR端子の入出力に加え、LINE(TRSフォーン)をフロント・パネル下部に装備している。フロント・パネル上部左のスイッチはLEVEL/CRUNCHモードを切り替えるもの。通常のリミッター効果を得るにはLEVELを、激しい音を作りたいときや倍音を補いたいときにはディストーションがかかるCRUNCHモードを選択する。その右のスイッチはLEVELモード時のみ有効のFAST/SLOWの切り替え用で、リリース・タイムを変更できる。SLOWを選ぶとLevel-Locと同じ遅めのリリース・タイムが得られ、FASTを選択するとより機敏にかかる早いリリース・タイムが得られる。つまみ類は、INPUTで入力ゲインをコントロールし、その下のOUTPUTで出力レベルを設定するのみと、至ってシンプルな構造と言えるだろう。

適度なノイズが独特の質感に
ピアノなどの生楽器に最適


では、本機が主眼としている"アナログ的質感"がいかなるものなのか検証してみよう。今回はDAWからオーディオI/Oを通してトラックごとにパラ出しをして、本機を通してみることにした。まずはLEVELモードでリミッター感をしばし楽しんでみることに。本機にはレベル・インジケーターが無いため、耳で入力ゲインがオーバーしていないかを気にしつつ設定を行う。第一印象は良い意味でS/Nが悪く"サー"というノイズが加わり、またかなり太い音色に変化するという、古い機材の質感そのもの。温かみのあるサウンドに劇的に変わり、若干多く思われるノイズにより倍音成分までもが独特の変化を遂げている。S/Nの問題があるので、できるだけレベルを突っ込んで本機の性能を最大限に引き出すのが良いだろう。リミッティングの感触も少しのボリューム調整により大きな動きを見せるため、ベタッとつぶすのか、グルーブ感を残しつつ効果的にコンプレッションするのか、2つのつまみだけでも細かく決められる。リリース・タイムをFAST/SLOWの2段階で決めるというのも白黒はっきりしていて分かりやすい。パーカッシブなソースにかける際やより前に音を出したいときにはFASTが良いだろう。SLOWではハードにコンプしたときでもスムーズに音が流れていくようなイメージで、ベースや管楽器などに合っているかも。CRUNCHモードに変更すると格段に音量が上がるので、出力を抑えてから切り替えるのがルールとなるであろう。ベースを通してひずみの感じを試してみると、EMPIRICAL LABS EL8 Distressorのハーモニック・ディストーションを思わせる感触がある。CRUNCHモードは早めのリリース・タイムに固定されていて、ドラムの単体やループものも非常に良い結果が得られた。DAWのクリーンな音の中に本機を通したドラムが出てくると、それだけが3歩ほど前にスピーカーから出てくるように感じる。この感触は多くのアナログ系プラグインでは決して味わえないだろう。極端なことを言えば、全部のトラックにこれを通した場合、例えばテープで全トラックを録音した楽曲くらいアナログ的な音になるのではないだろうか。もちろんその分ノイズは膨大になるので対策を講じなければならないが。いろいろ試した結果、特にピアノには最適だと感じた。通すだけで古めかしくなり、奥行きがドーンと広がる。ただCRUNCHモードだとちょっとやり過ぎになってしまうので、LEVELモードにすることで音は適度に汚れつつギラついた感じが出る。この製品ははただのコンプやリミッターではないということにこのとき良く分かった。澄んだ奇麗な音色をごく普通に通すだけで、絶妙なニュアンスを加えることができるのだ。最近はやりのエレクトロ的なものも突っ込んでみたが、シンセやリズム・マシンなどの電子楽器というよりは、生っぽいループなどにかまして、ABELTON Liveのひずみ系プラグインErosionなどとの対比を楽しんでみると面白いと感じた。総合的に、純粋なアナログ・サウンドが必要な際はその効果を十分に得られ、時には楽曲の極上のスパイスになるという、最高のハードウェアになることに間違いはないだろう。アナログ・ライクなサウンドが好きな人には放っておけないアイテムになりそうだ。
STANDARD AUDIO
Level-Or
67,200円

SPECIFICATIONS

■外形寸法/38(W)×133(H)×150(D)mm
■重量/440g