DAWとの高い親和性を誇る本格的な16ch仕様アナログ・ミキサー

ALLEN&HEATHZED-R16
サイド・パネルの赤が象徴的なALLEN&HEATHのZEDシリーズに今回Rの付く新モデルが加わった。これまでもZED-22FXなどではUSB端子からDAWへの録音が可能だったが、ZED-R16はついにFireWire接続のオーディオ・インターフェースを内蔵。同時に付加機能まで大幅な見直しが行われており、これまでライブ向きの色が強かった基本デザインが、完全にホーム・レコーディング向けに改変されているのが印象的だ。それでは詳しくレポートしていこう。

可変Qの本格的パラメトリックEQを搭載
コンパクトなチャンネル・ストリップ


まずは主要スペックを押さえておこう。


  • 上級機譲りの16マイク/ライン・プリアンプ

  • 本格的4バンド・パラメトリックEQを装備

  • 18イン/18アウト、24ビット/96kHz対応のFireWireオーディオ・インターフェース内蔵

  • ステレオ4系統のサブ入力+2系統の2TR入力

  • 2系統のADAT入出力端子

  • 2系統独立のキュー回路

  • トークバック・マイク内蔵

  • 2系統のモニター・スピーカーを切り替え可能

  • MIDI専用フェーダー×4

  • ロータリー・エンコーダー×12

  • MIDIスイッチ×12

  • 通常のフェーダーもMIDIコントローラーに

  • DAW用トランスポート・スイッチ


といったところ。まず注目すべきは、パラメトリックEQに可変Qが付いたことだ(写真①)。これまでALLEN&HEATHは、業務用機においても割とQが可変の機種が少なく、EQによる音作りよりも"卓本来の音質"で勝負していたように思う。例えば別カテゴリーの上位機種GL2400も、4バンドながらQは可変でなかったのだ。しかも本機では高低域がそれぞれ12kHzと80Hzのシェルビング、ハイミッド・パラメトリックが400Hz〜18kHz、ローミッド・パラメトリックが18Hz〜1kHzとかなりおいしい帯域をカバーしており、これなら生ドラムの録音にも積極的に使っていける。実際にDAWから生ドラム素材を入力して音作りしてみると、かなりいい感じだった。本機を通すだけでヒステリックになりがちな金物が落ち着いて聴こえEQがやりやすいし、ブースト/カット時でQ幅を変えられるので細かい調節が可能だ。もちろんドラムだけでなく、ギターやボーカルといったいろいろな素材をしっかりとEQ処理していける。マイク入力は−6〜−60dBu、ライン入力は+14〜−40dBuで増幅され、100Hzのハイパス・フィルターも付いている。AUXセンドは1/2がプリフェーダーで、主にモニター用、3/4がポストフェーダーでエフェクト用とシンプル。エフェクトよりはEQを優先したデザインと言えるだろう。またZED-12FXなどの象徴であったロング・ストロークの100mmフェーダーが、本機では60mmとグッと短めなっている。このように非常にコンパクトな設計ながら、ピークLEDやEQのオン/オフまでもちゃんと装備しているのが好印象だ(写真②)。またミュート・スイッチ以外にL-Rスイッチも用意されており、必要ないトラックのスイッチをオフにすることで、ミックス・バスのノイズを最低限に抑えるという狙いが見て取れる。この辺りのこだわりも素晴らしい。

本格的なモニター・セクション
ホーム・レコーディング用の機能が満載


本機は先述したように、メイン入力16chのほかにステレオのサブ入力を4系統装備し、うち2系統には2バンドEQとAUXも付いている(写真③)。これらのサブ入力はモニター用のリバーブなど外部エフェクトのリターンをはじめ、CDプレーヤーなどをつないでおくのにも便利だ。また、モニター・セクションも本格的なデザインとなった(写真④)。マスター・アウトのほか2系統の2トラック・レコーダーやDAWのミックス・アウトまでモニター可能。さらにDIG MASTER TO L-Rスイッチで、マスター・アウトの音声にDAW側ミックス信号を混ぜられる。ALT SPKRSスイッチでは2系統のスピーカー・システムを切り替え可能。加えて2トラック・レコーダーの相互コピー・スイッチやトークバックまで内蔵するなど、十分なスペックと言えるだろう。2系統のStudio Monitor Feedsはキュー・ボックスを卓側に内蔵したような機能。ここから外部ヘッドフォン・システムなどに接続することで、例えばAUX1でプリフェーダーからガイド・クリックを送ったり、AUX2で演奏者の生音の音量を上げたりできる。以上のように、本機は現代的なスタジオ・ワークをかなり研究した上で、厳選された機能が惜しみなく搭載されているという印象を受けた。録音作業に必要な機能はしっかりと装備されているので、後から専用機を追加する必要がないのがうれしい。

FireWireで深まるDAWとの連携
ADAT端子も併用可能


本機は18イン/18アウト、24ビット/96kHz対応のFireWireオーディオ・インターフェースを内蔵しており、DAWへのダイレクトな録音が可能だ。加えてADAT端子2系統も装備しているので、DAWだけでなくADAT入出力端子を備えたレコーダーとの連携にも便利な仕様となっている。それでは、このオーディオ・インターフェース機能を実際に試してみよう。今回、筆者が使用したDAWはAPPLE Logic Pro 8。Mac環境での動作チェックだ。まずALLEN&HEATHのWebサイト(www.allen-heath.com)よりZED-R16用のOS X用ドライバーをダウンロードしてインストール後、再起動。リア・パネルにあるスイッチでFireWireを選び、ケーブルをつないでLogicを起動すると、すぐにオーディオ設定画面にZED-Rが現れた(画面①)。次に48kHzでセッションを立ち上げ、オーディオ・ドライバーをZED-Rに指定すると、オーディオ・トラックのイン/アウトにそれぞれ26(13ペア)のポートが現れる。DAWへの入力としては1〜16がZED-R16の各チェンネルからのダイレクト音、そして17-18にはマスター・アウトの信号が対応している。さらに残りの19〜26の8ch分はZED-R16のADAT端子からの入力に対応している。これは、48kHz以下の設定であればFireWireと同時に1系統のADAT端子も使えるということ。つまり8ch仕様のマイクプリを追加できたりするということで、かなりおいしい仕様だと思う。DAWからのリターン信号は後述のステータス・ボタンを押すことで、直接対応するZED-R16のフェーダーに立ち上がる。なお17-18のリターンは通常DAWのモニター用に使用され、先述のように本機のマスター・アウトにも混ぜることが可能だ。またインストーラーで同時にインストールされるユーティリティのZEDDICE Control Pannel(画面②)にはシンク・ソースやサンプリング・レートの選択から、最新ファームウェアのダウンローダーまで装備されている。

4つのステータス・ボタン
EQ後にDAWへマルチ録音が可能


さて本機の最大の特徴は、各フェーダー左に装備した下記の4つのステータス・ボタンだ(写真⑤)。DIG SND Post-EQ
DIG RET Pre-INS
DIG RET Post-EQ
FADER=MIDIここでオーディオ・インターフェースの接続ポイントなどを各フェーダーごとに切り替えられる。何も押さない状態がデフォルトで、DIG SNDはEQの前から、DIG RETは無しとなる(図①)。まず一番上のDIG SND Post-EQでは、DAWへの録音信号をインサート/EQの前後どちらから送るかを選択できる。ただしインサート端子はEQ前段に固定なので、レコーディング・スタジオではEQ後(ボタン点灯)を選ぶことが多いだろう(図②)。逆にライブ・レコーディングではPre-EQを選択して(ボタン消灯の状態)、PAと録音の音作りを独立させられる。DAWから本機へのリターン信号も、インサート/EQの前後が選択可能だ(図③)。例えばDAWに立ち上がった素材を本機でミックスする場合は、DIG RET Pre-INSを選べばよい。ただし通常のマルチトラック・レコーディングでは、レイテンシーの問題から録音中はDIG RETスイッチを押さない状態での使用が多くなるだろう。パンチ・インする前の再生音はDAW側でミックスした2chをモニターする形だ。なお、これらのボタンはフェーダーにかなり近接しているが、実際のオペレーション時も特に支障はなく、省スペースでうまいレイアウトだと感じた。

DAWとの高い親和性を誇り
さまざまなルーティングを実現


そのほかに、このステータス・ボタンの設定で可能になることを列記してみよう。

  1. FireWireやADAT端子を通しての、マルチトラック録音

  2. 本機をライブ用に使いDAWで同時録音

  3. DAW内のプラグインをアナログ・コンソールのエフェクトとして利用

  4. DAW素材を本機でアナログ・ミックス

  5. 1〜16のフェーダーもDAWのMIDIコントロール用フェーダーとして使用可能

  6. DAWミックスにおいて本機のEQセクションをプラグインのように使用可能


③の場合はDIG RETのいずれかのボタンを押して、インサート前後にDAWからの信号を戻す形に設定。ただし遅延を最小にするために、DAW側のバッファー設定をなるべく抑える必要がある。これでアナログ・ミキサー上でDAWのプラグインを駆使した音作りが可能な状態。DAW側で専用のテンプレートを作っておくのがお勧めだ。また⑥の状態は本機に用意された非常に特殊なモードで、本来なら同時押しできないはずのDIG RET Pre-EQとDIG SEND Post-EQを同時押しする(図④)。このモードでは、③とは逆にDAWでのミキシング時に本機のEQ部だけをプラグインのように使用可能だ。ただ、この場合も、レイテンシーに気を遣う必要がある。単体機のオーディオ・インターフェースが全盛の昨今、この規模のアナログ・ミキサーが必要となるのは、生ドラムを含むバンドの同時録音のような状況だろう。既に他社からもFireWire接続のオーディオ・インターフェース内蔵アナログ・ミキサーはリリースされているが、プリアンプからすぐにDAWへ信号を送るタイプが多く、EQを多用するドラム・レコーディングの場合には物足りない傾向があった。本機では外部インサート&EQの後からもDAWへ送れるので、これが大きなアドバンテージとなるだろう。

充実のMIDIコントローラー
クリアで質の高い音質


モニター・セクションの隣に用意された豪華なMIDIコントローラー部も、アナログ・ミキサーの装備としては異例なほど充実していて驚かされた(写真⑥)。ここは特にオーディオ用と併用しているわけではなく、完全にMIDI専用なのだ。リア・パネルにはMIDIアウト端子を1つ装備しており(写真⑦)、ここから外部MIDI機器やコンピューター上のソフトなどをノート・オン/オフ、CC、MMCといった情報でコントロールできる(FireWire経由でもMIDI送受信が可能)。試しにLogicのマスター・フェーダーを本機のMIDI 4フェーダーにアサインしてみると、ダビング作業中にモニター・レベルを合わせるのが非常に楽であった。またガイド・クリックやドラムのグループ全体などをアサインするのにもかなり便利だと思う。また先述したように、16本あるメイン・フェーダーの方も、フロント・パネルにあるFADER=MIDIボタンを押すことで、CC情報でのMIDIコントローラーとして使えるのはすごい。これだけコントロール端子の数が多ければ、DAWに素材を立ち上げてのDJ的ライブ・パフォーマンスにも柔軟に対応できそうだ。本機の音質に関しては、オーディオ・インターフェースが内部接続されているからか、録音される音は予想以上にクリア。十分にワイド・レンジでひずみも非常に少ない。またEQ部は通しただけで少し明るく前に出てくる音になる。さらにグッとアナログ的質感が味わえるのはマスター・フェーダー後の信号で、ここでは期待通りに各トラックの音が"アナログ的"に混ざってくれる。単に"本機メインによるアナログ・ミックス"という考え方でなく、ZED-R6をDAWミックス時のサブツールと見ても面白い。外部アナログ機器を駆使したサブミックス作りはプロの現場でも頻繁に行われているが、本機があれば自宅でもかなり効率よく作業できるだろう。何しろ配線しなくてもボタンを押すだけでDAW内の素材が立ち上がるのが、狭いホーム・スタジオでは非常にありがたい。なお本機にはCAKEWALK Sonar LE(画面③)が標準でバンドルされており、購入後すぐに本格的な録音を始められる。ZED-R16は、単体機のオーディオ・インターフェースに対して筆者が日ごろ感じていた不満点を補完してくれるような製品だ。同様に、単体機のインターフェースは持っているが、録音用として新たにアナログ・ミキサーの追加を考えている人も多いだろう。その場合、本機のような一体型ではインターフェース自体を買い替えることになってしまうのだが、目的次第では機能的にも価格的にも検討するメリットは十分あるのではないかと筆者は感じた。ワイヤリングの簡易さなど一体型である恩恵が意外に大きいからだ。特に生ドラムをレコーディングする可能性がある人は、要チェックの製品である。

◀写真① チャンネル・ストリップのEQ部。上からハイパス・フィルター(フリケンシーは100Hz)、HF(高域)EQは12kHzのシェルビング、HM(中高域)は400Hz〜18kHz、LM(中低域)は18Hz〜1kHzのパラメトリック・タイプで、それぞれQを0.8〜6の間で変更可能。LF(低域)は80Hzのシェルビング・タイプ。一番下のEQ INスイッチを押し込んだ状態で、EQが有効になる



▶写真② チャンネル・ストリップの続き。AUXは4系統で、1/2はプリフェーダー、3/4がポストフェーダーとなっている。その下がパンつまみ、ミュート・スイッチ、フェーダーを上げたりチャンネルのミュートを解除する前の信号をチェックしたいときに使用するPFLスイッチ、HI/SIGインジケーター、L-Rルーティング選択スイッチ、60mmフェーダーの左がDAWとの連携時に使用するステータス・ボタン



◀写真③ トップ・パネル右上には、ステレオ4系統のサブ入力端子(TRSフォーン)を搭載。ST 1/2にはHF/LFの2バンドEQと2系統のAUXを装備。右下のStudio Monitor FeedsセクションはMIX L-R、AUX1-4から選択してスタジオ出力に切り替える。その際に複数のボタンを押すと信号がミックスされる



▶写真④ トップ・パネル右の充実したモニター・セクション。上からZED-R16に接続した2基のレコーダーのダビング時に使用する2 TO 1/1 TO 2スイッチ、2TRACK 1 REPLACE L-Rスイッチ、トークバック音量つまみ、トークバック・スイッチ、ヘッドフォン音量つまみ、レコーダー用の2TRACK 2、2TRACK 1、DIG MASTERスイッチ、CRM音量つまみ、MONOスイッチ、ALT SPKRSスイッチを押し込むことで、もう1系統のモニター・スピーカーを制御できる。その下がDIG MASTER TO L-Rスイッチ、ヘッドフォン端子



◀画面① Mac用ドライバーをインストールした後、APPLE Logic Pro 8を立ち上げたところ。オーディオ設定画面の"Device"ポップアップをクリックすると、"ZED R"と表示されている



▲画面② 付属ユーティリティのZEDDICE Control Pannel(Windows/Mac対応)。ここでシンク・ソースやサンプリング・レートの選択を行う



◀写真⑤ 各チャンネルのフェーダー左に装備された4つのステータス・ボタン。ここでオーディオ・インターフェースの接続ポイントなどを設定する。上からDIG SND Post-EQ、DIG RET Pre-INS、DIG RET Post-EQ、FADER=MIDI



▶図① 基本モード=デフォルトの状態ではステータス・ボタンは点灯しておらず、DAW接続時には、EQ前の信号がAD変換され、DAWへと送られる



▲図② DEG SND Post-EQボタンを押すと、ZED-R16のEQを通った後の信号がAD変換され、DAWに送られるようになる



▲図③ DAWからのリターン信号は、DIG RET Pre-INSを押すとZED-R16のインサートの前段に、DIG RET Post-EQを押すとEQ後段に返される



▲図④ DIG RET Pre-EQとDIG SEND Post-EQを同時押しすることで、ZED-R16のEQ部だけをDAWのプラグインのように使用することができる



◀写真⑥ アナログ・ミキサーとは思えない充実度を誇るMIDIコントロール・セクション。アサイナブルなロータリー・エンコーダー×12、MIDIスイッチ×12に加え、スタンダードなMMCトランスポート・コントロール部、60mm仕様のMIDIフェーダー×4が搭載されている



▲写真⑦ ZED-R16のアナログ入力端子はトップ・パネルに設けられており、リア・パネルには電源インレットのほか、写真左よりFireWire/ADAT切り替えスイッチ、44.1/48kHz切り替えスイッチ、FireWire端子×2、MIDI OUT、ADAT出力9-16/1-8、ADAT IN 9-16/1-8の各端子が並んでいる



▶画面③ パッケージにはWindows専用のDAWソフト=CAKEWALK Sonar LEが付属しているので、コンピューターさえあれば、ZED-R16を購入してすぐにマルチトラック・レコーディングが始められる

ALLEN&HEATH
ZED-R16
246,750円

SPECIFICATIONS

周波数特性/
20Hz〜140kHz(±0.5dB、マイク入力→ミックスLR出力、ゲイン@30dB)
20Hz〜20kHz(±0.5dB、ライン入力→ミックスLR出力、ゲイン@0dB)
20Hz〜40kHz(±0.5dB、ステレオ入力→ミックスLR出力)
全高調波歪率/
0.0025%(マイク入力→ミックスLR出力、ゲイン@6dB、@1kHz、出力@+10dBu)
0.0045%(マイク入力→ミックスLR出力、ゲイン@30dB、@1kHz)
0.003%(ライン入力→ミックスLR出力、ゲイン@0dB、+10dBu@1kHz)
0.004%(ステレオ入力→ミックスLR出力、ゲイン@0dB、+10dBu@1kHz)
AD変換/24ビット、114dBダイナミック・レンジ
DA変換/24ビット、118dBダイナミック・レンジ
サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96kHz
外形寸法/704(W)×102(H)×470(D)
重量/13kg

REQUIREMENTS

▪Windows/Windows XP/Vista、INTEL Pentium 4/Athlon 64 2.8GHz以上のCPU、1GB以上のRAM
▪Mac/Mac OS X 10.4.11以降、Power PC/INTEL Core 2 Duo 2GHz以上のCPU、1GB以上のRAM