新設計のボイス・コイルとダイアフラムで
温かいアナログの質感を実現
クローム・メッキのヘッド・グリルにラバー塗装の黒いボディ、TELEFUNKENのロゴが輝くその外観は品があり、細部までしっかりとした作りの良さがうかがえる。いかにもアメリカらしいポップな絵柄の筒の中に梱包されていたのだが、本国では木箱入りで追加ブラック・ヘッド付きの"スタジオ・セット"というものも存在するらしい。サイズは手に持つことが想定されているマイクとしては標準的な大きさだが、その重さが372gとやや重量級。ずっしりという手応えがある。資料によると、このM80の特徴は新設計のボイス・コイルおよび超薄型のダイアフラムとAMI/TAB-FUNKENWERK製のカスタム出力トランスにあるという。ボイス・コイルの軽量化&ダイアフラム部分を薄型にすることで振動ロスを減少させ、より繊細に効率よく空気振動を電気信号に変換できる......というのが前者。後者のAMI/TAB-FUNKENWERKとはもともとAEG TELEFUNKENに在籍していたオリヴァー・アヒュート氏が設立した会社で、V72をリイシューしたマイクプリやDIなどを製造している。TELEFUNKENの現行マイクにはAMI/TAB-FUNKENWERKのカスタム出力トランスを使っているものがほかにもあるのだが、これを使用することで古き良きアナログ独特の温かみとプレゼンスのある音が得られる......とのこと。さらにダイナミック・マイクながらコンデンサー・マイク並のパフォーマンスを発揮する......というふれこみなので、早速実際にレコーディング現場で使用してみよう。
ボーカルの高域はクリアに
ギターは弦の響きをしっかりと収音
まずは女性ボーカルで試してみる。FOCUSRITE ISA430 MK IIのマイクプリを使い、本機をマイク・スタンドにセットして歌ってもらう。まず驚かされたのが、アップテンポでリズミカルな強めのオケの中でもしっかりと際立った声の存在感。ハイエンドのエンハンス感が声の明りょう度を上げ、はっきりとした輪郭を感じ取れる。子音も奇麗で耳障りな部分が全く無い。強めに張った声に対しては、しっかりと中域をとらえながらも、ダイナミック・マイクにありがちな"詰まった"感じが少ない。低域は上質なコンデンサー・マイクにて得られるふくよかさには及ばないものの、思った以上に豊か。とはいえ決してブーミーな印象は無く、おいしいポイントがほど良く存在している。近接効果もしっかりと感じ取られ、コントロールもしやすい。とにかく音源に対する反応が機敏で、言葉の細かいニュアンスをしっかり拾っている。一緒に聴いていたプロデューサーも"これ本当にダイナミック・マイク!?"と驚いていた。アーティスト本人も大変気に入ったらしく、当初はいつも使っている某コンデンサー・マイクを使用する予定だったが、声の感じが曲調にもぴったりだったため結局本マイクで録りきってしまった。さらにアコギでもチェックしてみる。マイクプリはSSL XLogic Super Analogue Channelを使用し、ギター正面からサウンド・ホールに向けるという極めて普通のマイキング。ストローク、アルペジオどちらに対してもしっかりとした弦の響きをしんに、ふくよかなボディ鳴りも十分拾えている。ボーカルで感じられた高域の伸びはここでも存分に感じられ、きらびやかでいかにもアコギらしいサウンドがEQ全く無しで先程のオケの中に居場所を作ってしまった。この原稿には間に合わなかったが、後日エレキギターやドラム(特にスネア)でも使用してみるつもりだ。恐らく期待するサウンドを得られるだろうと確信している。このM80のカラーを端的に言うとカラッとしたアメリカンなサウンド。それも明らかな狙いをもって入念に作り込まれたものであると感じる。不要な帯域はバッサリと削られてはいるものの、物足りなさは全く感じられない低域。しんははっきりとしながら詰まった感じが少ない中域。強めに脚色されているがそこに嫌らしさを感じない高域。上等なコンデンサー・マイクが持つ"つややかさ"を表現するまではいかないが、とにかくバランスが良く、出音が音楽的にまとまっている印象を強く受けた。レコーディング/ライブを問わず、ボーカルはもちろん、ギター、ドラム、パーカッションなどの楽器に対し積極的に使っていけると思う。ダイナミック・マイク故に強固で取り扱いもやさしく、音色はコンデンサー・マイクに匹敵という"良いところ取り"もこのレベルならば"看板に偽り無し"であろう。ともあれ、これほどのポテンシャルを秘めたマイクがこの価格で販売されるということにただただ驚くばかりである。
SPECIFICATIONS
▪周波数特性/30Hz〜18kHz
▪指向性/単一
▪外形寸法/48(φ)×184(H)mm
▪重量/372g