3つの指向性や安定した音で楽器も声もOKなコンデンサー・マイク

JZ MICROPHONESBH-1
ネット・オークションなどにより、最近では各所で定番ビンテージ・マイクを入手可能になっているようで、プライベート・スタジオでも実際にそれらを目にする機会も少なくない。そんな風潮に風穴を空けるように、マイク・デザイナーの名匠ユリス・ザリンス氏が放ったのは、ラトビア発のスタイリッシュなサウンドを持つコンデンサー・マイクBH-1だ。チェックしてみよう。

本体からの反射を軽減させる
インパクト大なボディ中央の空洞


全体をシャープな黒でまとめつつ、ロゴやうっすら浮かぶダイアフラムはゴージャスかつモダンなゴールドで、マイク中央にはBH(ブラック・ホール)の名の通り、スコンと穴が抜かれている。“デザイナーズ・ブランドのアクセサリーか”と見紛うばかりの鋭い光沢感に独特の雰囲気を感じる。中央のホールはマイク本体からの反射を軽減させるためのもので、そこにダンパー仕様の専用ホルダーを取り付けるというひねりの利いた使用方法も特徴的だ。それにより、ボディが薄型なこともあり、楽器のすき間やベタONでのセッティング時にとても楽。ホールの内側には単一/無/双の指向性切り替えスイッチがあり、さまざまな楽器やシチュエーションに対応する。一方で、弟機種的なBH-3(231,000円)では指向性は単一に固定されていて、−10/−20dBのパッドが装備されているので、こちらはバスドラやアンプといった大音量楽器の収音に優れていると言えるだろう。BH-1は見た目のインパクトもさることながら、細部にまでこだわりを感じる。心臓部のダイアフラムには通常のコンデンサー・マイクに比べシンプルな構造で、レスポンスが早く広がりのあるサウンドが特徴の“トゥルー・エレクトロ・スタティック”を搭載とのこと。加えて、同社が特許を取得した“バリアブル・スパッタリング・ダイヤフラム”という技術も導入されている。“スパッタリング”とは高品質の薄膜が要求される半導体、液晶などに用いられる薄膜方式で、近年着目されている技術だ。これらで形成したダイアフラムでピックアップしたサウンドを厳選されたアンプで増幅しアウトプットするのである。

ボーカルはブリリアントに
アコギはカラフルに収音可能


そんな本機、今回はボーカル/アコギ/ピアノに対して、筆者がよく使用するマイクと共に使用しながらチェックしてみた。まずはボーカルで試してみたが、非常に音像が安定し、常にオケの真ん中に立ってくれる。はじめはコンプ無しでチェックしたにもかかわらず、微妙なニュアンスも逃さず拾ってくれたのには驚かされた。特に声が小さめのウィスパー系の歌にはとても使いやすい。普通、声が小さくなるとヌケ感も無くなりこもりがちになるのだが、そんなことも皆無。ブリリアントな発音でボーカリストの好感度も高そうだ。アコギでも同じような傾向で、EQ、コンプで多少トリートメントしたような、カラフルかつパンチの利いた音色が新鮮。ザクザクとしたストロークと細やかなアルペジオをほぼ同じマイク・レベルでレコーディングでき、なんとも不思議と言うか、もう1人別のエンジニアがレベル調整やセッティングをリアルタイムで手伝ってくれているような感じ。マイキングが微妙にハズれたとしても、ハッキリとした粒立ちのいいサウンドはさほど変わらず、プレイヤーもマイキングを気にせずのびのびプレイに集中できそうだ。さらにピアノでも試してみたが、これは先ほどと同じく安定感はあるものの、逆に空気感やダイナミズムが希薄になる傾向にあるので、アコースティック中心の空気感のあるの曲には向かなかった。しかしこのハリと安定したアウトプットとが、とりわけ重要なポイントなのは間違いない。いろいろ試したところ、ほかのマイクに比べ本機は圧倒的にセッティングしやすかった。重過ぎず、軽過ぎず、スリムなボディと使い勝手の良いサスペンションで、ほかのマイクの後から追加として立てても隙間を縫う感じでピタっと狙える使い勝手の良さも特筆すべきであろう。また、BH-1はとても存在感が強いので、マイクプリやコンプなどの組み合わせも重要なキーになるだろう。比較的さらっとしたFOCUSRITE系のマイクプリやTUBE-TECH系のコンプとの相性が良さそうな印象を持った。昨今のロック/ポップスのボーカルにおいてNEUMANN U67を代表的なマイクであると感じている筆者だが、それと比較してもBH-1はフォーカスの鋭い音が好印象。太めで重心の低いバック・トラックが主流の現在、ボトムが変わればもちろんその上に乗るボーカルの質感も変える必要がある。新しいスタイルでミックスするにはそんなことも意識し、新しいマイクをチョイスすることも大切。そういう意味で、本機は新しい“時代に生まれた新しいマイク”という表現では足りないほど、新鮮な印象を受け、これ一つでどんな楽器でも対応する“オールインワン”のマイクである。
JZ MICROPHONES
BH-1
273,000円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz
▪指向性/単一、双、無
▪付属品/専用ホルダー、専用ウッド・ケース
▪外見寸法/47(W)×203(H)×24(D)mm
▪重量/220g