1つの入力を複数トラックに割り振れる
インプット・バスが追加で搭載
AcidはWindows専用のループ・シーケンス型の音楽制作ソフトとして発展してきました。ただ、現在では前述したようにトラック数無制限のオーディオ/MIDIトラックにレコーディングや打ち込みが可能となっているため、もはやDAWと言い切ってしまっても問題はないでしょう。オーディオは最高24ビット/192kHzまで、プラグインはVST、Direct Xに対応しています。1画面完結型のシンプルなインターフェース画面および、オーディオ・データのテンポやピッチを自在に操れるのが特徴で、動作も軽く、さくさくとスピーディに音楽制作できるのが魅力です。それでは、ソフトを立ち上げてみましょう。インターフェース画面のコンセプトに大きな変化はありません。基本的には従来のAcidシリーズのように1画面内ですべての操作が可能です。ただ、メイン画面の下部中央にミキサー機能(画面①)が追加されており、これは今回のバージョン・アップの中でもかなり大きなウェイトを占めています。▲画面① 新搭載のミキサー機能はメイン画面の下部に収まっているが、マウスでドラッグすることによりこの画面のように別ウィンドウで表示することも可能だ従来のAcidのミキサー画面は各トラックの左端に付いているボリューム・フェーダーとパンが集まっている程度のシンプルなものでした。一方、新搭載のミキサー機能は一般的なDAWに搭載されているミキサー画面とほぼ同じような感覚でオーディオ・トラック、MIDIトラック、マスター・トラック、バスなどをまとめて操作できるのが特徴。バスや入力などのルーティングやプラグインの使用状況が一目で分かるようになっています。また、1つの入力に対して複数の録音用トラックを選べるインプット・バスが追加搭載されました。これは、例えば複数のコーラスを重ねるときなどに作業効率を向上してくれます。あらかじめEQやコンプをかけたインプット・バスから簡単操作で別々のオーディオ・トラックにテイクを分配して録音可能なので、オーディオ・インターフェース側の入力をわざわざ差し替えたりする手間が省けるのです。また、録音時に演奏者のモニターには仮でエフェクトをかけたいけれども、実際の録り音はドライで録っておきたい、などという状況にもしっかりと対応してくれます。今までAcidを使ってきた人の中にも“ミキシングはほかのDAWで……”なんて人もいたと思いますが、やはり作業は一つのソフト内で完結させるほうが効率的ですし、その方が曲の管理もしやすくなります。作曲とミキシングの境目が無くなることでより柔軟な曲作りが可能になでしょう。さらに、トラックが増えると1画面のみで作業を行うAcidのようなソフトではどうしても、視認性が悪くなりがちです。そんなときはミキサー部の左側に“オーディオ トラック”とか“MIDIトラック”とか書いてあるボタンを選択することで、作業に必要なトラックのみを表示させることが可能なので、すっきりとした見た目にできるのもうれしいところ。
新アルゴリズムの導入で精度の上がった
タイム・ストレッチ/ピッチ・シフト
ミキサー機能が“見える大きな新機能”としたら、“見えない新機能”もあります。それは、新しく採用されたタイム・ストレッチ/ピッチ・シフトのエンジンです。ZPLAINの開発したElastique(画面②)というアルゴリズムが採用されているのですが、資料によるとこれは現在発売されているほかのDAWやDJソフトでも多く採用されてとのこと。従来のAcidに装備されていたアルゴリズムもクラシックという呼び名で続けて搭載されており、必要に応じて使い分けられるのが特徴です。CPU負荷は重いが精度の高いElastiqueと、精度はElastiqueほどではないがCPU負荷の軽いクラシックという感覚でとらえるとよいでしょう。さらに使い分けということでは各アルゴリズムには複数のモードがあり、Elastiqueでは4種類、クラシックでは19種類が用意されています。サウンドの傾向や使用状況で使い分けることにより、クオリティの高い処理を施せるでしょう。▲画面② オーディオ・データのプロパティ画面。ここではタイム・ストレッチ/ピッチ・シフトの精度が本ソフト内で2番目に高いElastiqueのエフィシエントが選択されている それでは、実際にElastiqueがどれほどのものかチェックしてみましょう。モードは2ミックス向けとなる“エフィシエント”と“Pro”をチョイスしてみました。Acid Pro 7中ではProが最高精度、エフィシエントが2番目という位置付けで、精度が高いほどCPU負荷は重くなります。まず125BPMの曲をAcidに取り込んでみましょう。クラシック・アルゴリズムのデフォルト設定で試したところテンポを下げた場合は105BPMくらいが限界でした。一方、Elastiqueアルゴリズムのエフィシェントでは87BPMくらいまでが自然に聴こえる限界といった感じです。最後にElastiqueアルゴリズムのProで試してみましょう。こちらはかなり強力で、70BPMくらいまでは自然に聴こえます。曲を構成している楽器やサウンドなどによって変化のほどは違いますが、かなり極端な変更を加えても自然な感じです。実際の使用ではここまでテンポを変えることはないとは思いますが、レンジが広いに越したことはありません。個人的にはこのタイム・ストレッチ部分だけでも買いです。リミックスやミックスCDなんかを作りたい、または既に手掛けているという人であれば、これを見逃す手はないでしょう。楽器を演奏する人であればピッチを変えずに、テンポを落とした状態で練習することもできますね。
テンポ・カーブ機能で
1曲内でBPMを変更可能
そのほかの追加機能としてMIDIトラックのフリーズ機能があります。これはソフト音源などが立ち上がっているMIDIトラックを一時的にオーディオ・データに変換して、CPU負荷を軽減してくれる機能。フリーズしたデータを波形編集したりはできませんが、例えば作曲途中でまだアレンジする余地のある曲をライブで演奏したいなどという場合に使われたりします。いくら最近のコンピューターのCPUパワーが上がったと言ってもソフト音源の中にはかなりCPUパワーを使用するものがあるので重宝しそうな機能です。また新搭載のテンポ・カーブ機能も使えます。ある曲の中でテンポを変更したいときに始点のBPMと終点のBPMを設定して、その間を何秒かけてどういうカーブで移行していくかを簡単に設定できるのです。曲中でテンポをいきなり変えることや、徐々にテンポ・アップ(またはダウン)させたりといったことが可能となります。さらには3,000種類以上のループ・ファイルとソフト音源2種類、プラグイン2種類が同梱されており、即戦力として音楽制作に活用できます。ソフト音源のラインナップは、オーケストラやビッグ・バンドのサウンドなどもカバーするマルチ音源のGARRITAN Aria For Acidと欧米でカルト的な人気を誇るリズム音源、SUBMERSIBLE DrumCoreをシンプルにモディファイした、SUBMERSIBLE KitCore(画面③)。プラグインとしてはマルチエフェクターとして空間系、ひずみ系などの基本的なエフェクトを内蔵するIZotope Effects Rack、アンプ・シュミレーターのNATIVE INSTRUMENTS Guitar Combosを用意しています。▲画面③ 付属のソフト音源SUBMERSIBLE KitCore。ドラムの音作りに特化されており、多彩なパターンのMIDIデータが付属するため、即戦力として活用可能だ さらにかなり分かりやすいチュートリアル機能(画面④)があるのも特色。これをアクティブにしながら、作業内容をメニュー・リストから選ぶと、画面上で作業の流れに沿って、クリックする先を赤い枠で囲ってくれるのです。かなり手取り足取りな感じなので、初めての人も安心でしょう。▲画面④ チュートリアル機能をアクティブにすると、ヘルプ・ウィンドウと赤い枠で必要な操作方法を丁寧に説明してくれる加えて、あったら便利な機能として紹介したいのがプラグイン・マネージャー。これは新搭載というわけではないのですが、プラグインを独自の分類法で分かりやすくカテゴリー分けしてくれるというもの。大量のプラグインを使用する人にとっては作業の効率化につながる機能といえます。さまざまな追加機能がありますが、それでも自分が初めてAcidを使ったときに感じた“シンプルだな〜”という印象は変わりませんでした。ただ、バージョン・アップに伴って“これは使えるツールだ”という感じはどんどん上がってきています。より多機能なソフトになりつつも、シンプルで分かりやすいという根っこの部分は相変わらずなので入門編としてもよし、中級者や上級者はデモやリミックス作りに使用してもよし、はたまた作曲からミキシングまでを一気にやってしまうのもよし、と幅広い層の期待に応えてくれるソフトだと思いました。
REQUIRMENTS
▪Windows/Windows XP(SP2以降)/Vista、1.8GB以上(2GB以上を推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)、150MB以上のハード・ディスクの空き容量