素直なサウンドで抜群の定位を誇るDSP搭載モニター・スピーカー

M-AUDIOStudiophile DSM1

20年の歴史を持つ同社は、時間や場所を選ばない新たな音楽制作を提案しており、低価格で先端技術を駆使した製品群を提供している。現場主義で“あったらいいな”の製品を大体そろえているのも同社の特徴。しかし、モニター・スピーカーの開発はDAW関連製品とは少々勝手が違う。今回レビューする165mmウーファーのDSM1と203mmウーファーのDSM2(107,100円/1本)からなるStudiophileシリーズは果たしてどうだろうか。早速チェックしてみよう。

DSP処理による
優れた定位感が魅力


本機の第一印象は“まか不思議”。“手で触れる?”と思うほどに音が立体的で、非現実な3D映像を見たときのように明らかに脳が反応しきれない状況に陥る。すごく直進性があり安定性のある音と言っても想像は難しく“つべこべ言わずに聴いてみろ!”と言いたいところだが、本機がいかに優れているかを知るためにスピーカーの位相について少し説明をしておきたい。スピーカー開発は位相のズレとの戦い。音は上下左右にズレ、前後で打ち消し合って、放っておけばなんともイビツな音像しか得られない。また、高音はスピードが速く、低音は遅い性質がある。さらに、ウーファー/ツィーターが再生する周波数帯域が重なるクロスオーバーが存在するので、ツィーターのクロスオーバーの帯域は速く、ウーファーは遅く聴こえ明らかに違和感のある音となってしまう。クロスオーバーの位相のズレを無くすこと=上下2つのユニット間の位相のズレを無くすこと。では上下がズレると起こる現象について、音をボールに例えて考えてみる。1本のモニターから1つの音=ボールが出てくるとしよう。ウーファーからはそのボールの下半分、ツィーターから上半分が飛んでくる。先述したように低音は速度が遅く、ボールの下半分が少し遅れて飛んでくるので前後にズレのだが、正面から見ればイビツだが球には見える=音がはっきりしている。しかし徐々に左右に移動すると側面が見えてきて上下のズレが目立ってくる=音がぼやけていく。2本のモニターから音がくるステレオ状態なら、左右からのボールが真ん中で聴いている自分に対して斜めに飛んでくるので、どちらも側面が見えるズレボール=ぼやけた音を聴いている。そこでやっと登場するのが画期的とも言える本機。“DSP”でデジタル処理し遅延補正することで位相のズレを限りなくゼロに近づけた。今まで誰も聴いたことのない、想像でしかなかった音を体感できる。飛んでくるボールはどこからでも完璧に近い球体。リスニング・ポイントを変えても音像変化がほとんどない。しかし“どこで聴いてもいい”となると“最適なリスニング・ポイントが見つけにくい”となるのが普通。普段、私は位相のズレでポイントを探すのだが“ズレが少ないと?”と考えてしまう。しかし本機のように位相が奇麗だとセンターから少し左右にずれた場所にある“逆相するポイント”がはっきり分かるようになり、目をつぶって移動すれば逆/正/逆とゴロっと音がひっくり返る。探さなくとも自然と正しいポイントへいざなってくれる印象さえあるのだ。

伸びのいい低域と
シルキーなサウンドの高域


本機の165mmウーファーはアルミ製になっており、高耐食性、摩耗性で絶縁皮膜をほどこす表面加工までもがなされている。なるほど、確かにアルミ・サッシをたたいたような低く鈍く、速いスピードの伝導性に優れた音がする。周波数特性は42Hz〜27kHzだが、30Hz近辺まで聴こえ、ローエンドの伸びが良すぎて多少“ゆるく”感じるのは背面バスレフの影響もあるだろう。25mmツィーターはポリエステル繊維の"テトロン"合成繊維。この素材はピンと張ればパンと高い音が響くが、そのイメージ通りの音がする。シルクではないが“シルキー”と言う表現がピッタリくるほど美しい。なにより湿度に強い素材なので、パルプのように梅雨時に高音が重く感じることはなさそうだ。全体的には脚色の無い素直な音、静かで、良いものは良く、悪いものは悪く、音を冷静に判断するのに適したモニターと言える。また、高密度キャビネット、デュアル・フレア型バスレフ、100W(LF)+80W(HF)のバイアンプ方式クラスDアンプと“スピーカー・マナー”を踏まえた機能のほか、本機は“デスクトップ・フィルター”を搭載している。これはスピーカーを机にじか置きする環境を改善すべく、共鳴して膨れがちな170/200/220Hz近辺を−1/−2/−3dBの3段階で調整できる。これぞ現場主義だ。さらに、最高24ビット/192kHz対応のS/P DIF(コアキシャル)およびAES/EBU(XLR)のデジタル入力の搭載も導入の1つの目安になるだろう。"空気"という抵抗と重力が存在する地球上の音はすべてズレズレ。“位相のズレのないモニター”は厳密にはありえない。空気のない宇宙で音はならないが、モニターが求める理想空間は宇宙。宇宙で音楽を聴いてみたいという昔の夢が本機で少しかなった気がした。あなたもStudiophile DSM1で宇宙旅行してみませんか?
M-AUDIO
Studiophile DSM1
92,400円/1本

SPECIFICATIONS

■周波数特性/49Hz〜27kHz
■ツィーター/25mm
■ウーファー/165mm
■クロスオーバー周波数/2.7kHz
■アンプ出力/100W(LF)、80W(HF)
■外形寸法/229(W)×326(H)×262(D)mm
■重量/7.5kg(1本)