DDPイメージ・ファイルが作成可能なMac専用マスタリング・ソフト

SONIC STUDIOPreMaster CD 3.0
今回紹介するPreMaster CD 3.0はMac OSで動作するマスタリング・ソフトです。近年はWindowsベースのソフトがほとんどでしたので、Macでマスタリングできるというだけで有り難い感じがします。また本ソフトは手軽に工場納品用のDDPファイルを制作できる点も魅力です。

フェード・イン/アウトは
カーブの種類も選択可能


本ソフトでは音源を外部から録音するのではなく、オーディオ・ファイルをプロジェクトに読み込むところからスタートします。まずは"File"メニューの"Open Sound File"から画面中央のEDL(Edit Decision List)上に1つのオーディオ・ファイルを1つのセグメントとして読み込ませます。オーディオ・ファイルはEDL上に直接ドロップすることも可能。対応しているファイル・フォーマットは最高24ビット/44.1kHzのAIFF/WAV/BWF/SD2です。トランスポート・パネルはEDLのすぐ上にあるので扱いやすいです。再生に関しては、波形をクリックした部分に編集ポイントが表示され、そのポイントから再生できます。各セグメントのスタート/エンド・ポイントには、フェード・イン/アウトの設定が自動的に挿入されますが、その時間やカーブの種類を調整できます。マウスのポインターをフェード部分に置くとポインターがフェード・ツールに変わり、フェード・インではセグメント内の下段で開始点、中段でフェード全体の移動、上段での終了点を移動できます。形状はカーブ中段のコントロール・ポイントを上下にドラッグして変更可能。controlキーを押しながらカーブをクリックしてカーブの種類を選ぶこともできます(画面①)。▲画面① フェードのカーブは、controlキーを押しながらクリックすることで、Linear、Root Linear、Cosineなどのカーブのほか、デフォルトのカーブ設定なども選択できるフェード・インとフェード・アウトを重ねると、クロスフェードとして扱えます。そのまま左右にドラッグすることでクロスフェード全体を移動することができ、optionキー+ドラッグでフェード・アウト、controlキー+ドラッグでフェード・インの操作になります。それぞれセグメントの上段/中段/下段で役割が変わるのはフェード・イン/アウトと同様です。shiftキー+上下ドラッグでクロスフェード時間の調整もできます。また、各セグメントではオートメーションでゲインの調整も可能なので、音量調整の際、リダクションされすぎて均一になった曲のダイナミクスを元に戻すような作業や、意図的に盛り上げたい部分をゲインのカーブで調整したりと、音楽的な味付けも可能です。

PQマークの挿入は
マニュアルでも入力可能


曲間編集では、Preferencesで0/1/2/3秒のいずれかを選び、 "Edit"メニューの"Auto Space All Segments"を実行すると、指定したすべてのセグメントを同じ間隔にすることが可能です(画面②③)。ただし、同じ曲が複数のセグメントに分かれていると再度編集が必要になるので、この点は不便かなと思います。セグメント同士を同じグループにできる機能があればいいですね。▲画面② セグメントが異なる曲間で並んでいる状態▲画面③ 曲間を"Auto Space All Segments"で同じ間隔にそろえた状態もちろん、曲間調節はマニュアルで行うことも可能で、これは"Move Segments"メニューでセグメントを移動させたいスタート・ポイント時間を指定します。例えば、再生中に曲が始まってほしい場所でストップし、その時間をMove Segmentsでスタート・ポイントに指定すれば、そのセグメントがその時間に移動するので感覚的な曲間編集が行えます。曲間編集終了後はPQマークの入力を行います。PQとは曲の始まりや終わりを示す信号のことです。EDL上にオーディオ・ファイルをドロップする際に、commandキーを押しながらドロップすると自動的にPQが設定されますが、大抵の場合、始まりや終わりは細かな編集が必要なので、自動でPQを設定した場合でも編集後にPQを打ち直した方がよいと思います。もちろん、オーディオ・ファイル上で曲を始めたいポイント、終えたいポイントに編集ポイントを持って行き、手動でPQを打つことも可能です。また、自動的にゲインが0になるポイントにPQを打つ"Edited Black To Mark"機能や、設定したゲイン・ポイントでPQを打ってくれる"Analog Black To Mark"機能もあります。しかし、どちらの場合も最終的な確認は自分自身でした方がよいと思います。ちなみに曲の終わりにPQを打った場合、次の曲が始まるまでの間はCDプレーヤーだとマイナス・カウントで表示されます。また、CDをプレーヤーで再生する場合、PQの始まりと終わりにはオフセット・タイムをつけるのが一般的です。これは再生ボタンを押してから再生が始まるまでの時間で、再生ボタンを押して突然曲が始まってビックリしないよう、少し間を持たせるために設定します。本ソフトにはデフォルトで10フレームのオフセット・タイムが設定されています。また、必要に応じてPreferenceメニューでオフセット・タイムを変更することも可能です。ちなみに、CDの正確な長さはオフセットも含めての数字になるので、ミックスCDなど曲がつながっている場合、PQのオフセットを0にした方がいい場合もあります。オフセットを0にしないと、前の曲の終わりの音が次の曲の頭にかぶってしまうためです。PQ信号入力が終了した後は、いよいよプレス・マスター用のDDPファイルの作成工程になります。DDP(Disc Description Protocol)とは、PMCD(プレス工場納品用規格のオーディオCD)に代わり、近年主流になってきているプレス工場納品用の規格で、CDをプレスする際に必要な情報(音源、PQ、ISRC、POS、エラー補正情報など)のすべてがデータとして一括保存されます。具体的な手順としては、PQ Deliveryメニューで"Excute"=実行すれば指定フォルダーにDDPファイル、すなわちimage.dat、DDPID、DDPMSのほか、SDというISRCとPOS情報が含まれるファイルが生成されます。オーディオCDよりも若干容量が増えるので、アルバムの長さが70分を超す場合などはDVDなどの大容量メディアへ書き込むことになります。なお、POS(UPC/EAN)は商品についているバーコード。これはCD全体で一つ必要です。ISRC(International StandardRecording Code)は、曲ごとに必要な番号で、iTunes Storeなどでネット販売する場合にも必要です。もちろんDDPファイルで直接オーディオCDを作成することも可能です。

Sonic EQなどを搭載する
オプションのFixIt


次は別売のオプション機能について。オプションのFixIt(157,500円)でEQのSonic EQ、DeCrackleやDeclick、DeNoiseで構成されるNoNoise、それにサンプリング・レート・コンバーターを追加することができます。まず、Sonic EQ(画面④)には通常マスタリングの音質補正で使われるパラメトリックEQのほかにハイ/ローシェルビングの機能があります。▲画面④ オプションのFixItに収録されている4バンド仕様のEQ、Sonic EQ。アルバム全体のほか、セグメント単位でも使用できるSonic EQは、EDL上でどのセグメントに対してプロセスするかを選ぶこともできるので、アルバム全体のプロセスはもちろん、個別の楽曲のレンジ調整や音質補正にも有効です。アルバムを通して聴いてみて、低域が少なくバランスが悪いと思ったら楽曲に低域を足してあげたり、またアタック感の調整などもできます。すべての楽曲には当てはまりませんが、中域をブーストすると楽曲全体のアタック感は強調され、20kHz以上の超高域をブーストすると空気感が増え、アタック感が少なくなる傾向になります。EQ自体の音質も素直にかかる印象なので、癖がなく狙った通りのことができます。ただ、過剰なゲイン・ブーストはひずみの原因になるので注意が必要ですね。このようにEQだけでも楽曲に対してのアプローチは結構幅広く、マスタリング時には欠かせない重要なプロセスと言えます。NoNoiseは、以前から世界中のマスタリング・スタジオで使用されていた同社のプラグインです。昔はとても高価なものでしたが、時代の流れってすごいですね。その中でもDeCrackleは、広範囲にわたって耳障りな感じのノイズを修復するプラグインです。DeClickは、突発的なサンプル・ノイズ、クリック・ノイズやリップ・ノイズ等短い時間のノイズの除去するプラグインで、使い方はノイズの部分をセグメント上でドラッグして選択/指定するだけ。選択する際はサンプル単位まで拡大して行ったほうがプロセス後も自然に聴こえますし、プロセス時間も短くて済みます。ノイズ以外の波形を編集ポイントに入れてしまい、必要な音まで消えてしった場合はRestore Clickでプロセス前の状態に戻すことも可能ですが、CPUの負担は大きそうな感じでした。いずれにしても基本的にデータを書き換える作業になるので、ノイズがL/Rどちらか片方のみか、両方で鳴っているかを注意してからプロセスしないと時間が大変かかってしまいます。うまく使うと自然にノイズの無い音を再現できますが、選択範囲を誤ると逆に不自然になってしまう場合もありますので、それなりの経験も必要かと思います。そのほかDeNoiseもあり、前述のプラグインがファイル・ベースだったのに対し、こちらはリアルタイムで再生しながらスレッショルドの調整/確認して、ノイズを軽減できるプラグインです。なお、NoNoise機能とは関係ないですが、直接オーディオ・ファイルを編集してサンプル・ノイズの消去を行う場合もあります。1〜10サンプルのノイズだと、その分カットしてつないでも聴感上は問題ない場合も多いのです。また、FixItにはサンプリング・レート・コンバーターも内蔵しており、8/44.056/44.1/47.952/48/48,112/88.2/95.904/96/176.4/192kHzというかなり広範囲のサンプリング周波数を44.1kHzへ変換してくれます。このプロセスはバックグラウンドで行われるため、メインのプロジェクトで作業しながら行えるのが便利でした。結構時間のかかる作業なので有り難いですね。音も素直で、操作も直観的にできるので初めての人でも扱いやすい製品かなと思いました。今後ますますDDP納品も増えていくと予想されますので、Macユーザーの方にとっても貴重なソフトになる思います。
SONIC STUDIO
PreMaster CD 3.0
79,800円

REQUIREMENTS

■Mac/Mac OS X 10.4.3 以降、Power PC G4 1GHz以上、1GB以上のRAM(2GB以上推奨)、13インチ以上のディスプレイ、iLok用USBスロット