音色データの追加やタッチ・ビュー機能の操作性がアップしたシンセ

KORGM3XP-61
このたび、KORGのワークステーション・シンセ、M3がM3 Xpanded(以下、M3XP)として生まれ変わりました。長年KORG製品を使ってきて思うのが、オルガンの音色やベースの音色の良さ。飛び抜けています。同社からはいろいろなワークステーション・シンセが出ていますが、ベースの音色だけでもOasisの"Finger Bass"、Tritonの"DARK R&B BASS"、Trinityの"Snoop Doggy bass"......など、いろいろな音色を使っています。ソフト・シンセが台頭してコンピューターの中で音を作ってしまいがちな昨今ですが、こういったエバーグリーンな音色は歳月を経ても生き残ってゆくもの。こうなったら、昔を知っているおじさんの務めとして積極的に使ってやる!!(ちなみにTrinityは10年以上前、M1に至っては20年前から使っています!)。

タッチ・ビュー・ディスプレイ上で
フェーダーやツマミの操作も可能に


前置きが長くなりましたが、M3XPは、今回レビューする61鍵モデルのほか、73鍵モデル(336,000円)、88鍵モデル(396,900p> 前置きが長くなりましたが、M3XPは、今回レビューする61鍵モデルのほか、73鍵モデル(336,000円)、88鍵モデル(396,900円)、そして音源モジュールのM3XP-M(186,900円)がラインナップされています。M3とM3XPの違いは、鍵盤系音色の強化やオプションだったPCM拡張メモリーEX-USB-PCM01/02/03音色の追加、エフェクト・プリセット・データの追加、ユーザー・インターフェースの操作性向上など。外見は変わらず、ソフトウェアのみが進化した形です。ちなみにM3からM3XPへのバージョン・アップは、KORGのWebサイト(www.korg.co.jp/Support/Download)からデータを無償でダウンロードして、USB経由でM3に移すだけなので難しくはありません。それでは、まずはユーザー・インターフェースの新機能から見ていきます。KORGのシンセはこれまでも、画面に直接触れながら操作できるタッチ・ビュー機能をディスプレイに搭載しているものがありました。僕もこの機能は大変重宝していましたが、本機のタッチ・ビューでは新たにノブやスライダーの操作をディスプレイ上で行えるようになりました。つまり従来は"ディスプレイで選択→選んだパラメーターのボタンを動かす"という2アクションだった工程が1アクションで可能になったわけで、ライブ/制作のいずれの場合でも、かなりの効率アップが計れそうです。また、シーケンス・モードやコンビネーション・モードなどに、ベロシティ・メーターが搭載されました。これもありそうで無かった機能で、作曲時などに発音中のティンバーやトラックを確認するのに便利です。鍵盤がうまいキーボーディストの方は、自身の演奏の強さを感覚で分かると思うのですが、僕のようにそうではない人は、目で確かめられるとありがたいんです。さらに、シーケンス・モードではトラック・ビュー表示(画面①)とピアノロール表示(画面②)が追加されています。▲画面① 新たに追加されたトラック・ビュー・ページを開いたところ。ノートやベロシティの情報をトラックごとに表示してくれる。また画面右に用意されたペンや消しゴムなどのツールをタッチすれば、指で直接コピーや消去も可能だ▲画面② ピアノロール画面。DAWのようにノートやベロシティなどの情報の詳細を表示してくれる。この画面では、直接画面に触れてタッチ・ドラッグでノートを配置したり、ベロシティを調整することもできるこれはDAWソフトのユーザーにはおなじみの機能ですね。ピアノロールを表示したときに、ノートやコントロール・データを直接画面にタッチして変更できる感覚はかなり新鮮で、コンピューターのDAWソフトでは味わえない感覚です。まさに楽譜上に音符を置くイメージ。なんだか新しい作曲法が生まれそうな気がしてくるくらいです。指でペンシル・ツールを選択して、画面をタッチするとそこに音が置かれていき、いらなければまた指でケシゴム・ツールを選択して消す。ベロシティが気に入らなかったら、指でその値を上下する。めちゃめちゃシンプルです。まずはランダムに音符を置き、そこから得られるフレーズをもとにモチーフを作ったり、ループ状態にしてパターンを作ったり、さらには音符を画面上で規則的に配列して全く新しいアルペジオを作ったりなど、直感をそのまま試せる構造になっていて可能性はいろいろ広がると思います。将来、大きなディスプレイで、こういった曲作りができる楽器が生まれるんだろうなあと思わせるほどでした。

671種の大量のドラム・パターン
エフェクト・データも700種類に


次に目をひいたのはドラム・パターン。149種類追加されて、合計671種類入っています。一つ一つ聴いていては切りがないくらいです。特に基本の8ビート、16ビートはかなりしっかり作られていて、"HOUSE"や"REGGAE"などジャンルごとのドラム・パターンも収録。作りたい楽曲のタイプによってパターンを選択できるので、とりあえずラフで曲を作る際には内蔵のビートだけを鳴らしながら曲を作っていくことも可能です。特に、基本のビートに関してはかなり細かいバリエーションまで網羅されています。例えば、一般的な楽曲構成の一例として、INTRO→A→B→C→2A→2B→2C→D→3C→ENDINGという10シーンで構成されている曲があるとします。こういった場合、最低でもドラム・パターンは4〜5種類必要になります。シーンごとの細かい変化や、シーンを展開するためのステップになるフィルなどを考えると、小さい変化も含めて10〜20パターンのドラム・パターンが必要な場合もあるでしょう。恐らくそうしたことも考慮されていると思うのですが、このように多くのパターンが必要な曲でも、1曲まるまるプリセットだけでプログラミングが可能になるのです。なお、プログラム・モードではドラム・トラックにドラム・パターンを張り付けていくことができるので、DAWを使用せずに曲を作る方はこのドラム・パターンを曲作りに生かせると思います。また、ドラム・パターンはドラム・トラック用のティンバーを設定することでコンビネーション・モードでも使用することができます。続いて見ていくのは、こちらも新規搭載となったなんと700種類のエフェクト・プリセット・データ。これもほんとに切りがないくらい入っています。エフェクトって、結局同じエフェクト/同じパラメーターを使用しがちですよね。でも、これだけのプリセット・データがあれば、助っ人的にサポートしてくれるのではと思いました。というのも、楽曲を作ったりアレンジしたりするときの音色選びは積極的にやるものの、エフェクトを積極的に活用することはなかなかしないものです。しかし、700種類もの開発者の衆知を集めたプリセットがあれば、自分の想像力も合わせて、また音色との組み合わせによって、無限の可能性を得ることができます。実際にいろいろ音を聴いてみたところ、ダイナミック・モジュレーションやステレオ・ランダム・フランジャーがかなり良い感じでした。KARMA機能に関しても同じことが言えますね。KARMA機能は、入力された情報などを元にフレーズやパターン、アルペジオなどを作り出す機能。そのエンジンとなるのがGEです。"アルペジエイターのすごい版"とでも言うべき機能で、自分の知恵以外の力でかなりパワフルな可能性を得ることができます。今回はバージョン2.2になり、ユーザーGEエリアを1,024個拡張、GEを切り替えた際にスムーズに切り替わる機能や、シーン・チェンジのクオンタイズ・トリガー機能を追加しています。これがあると、例えばあらかじめ"1小節"などと設定しておけば、自動的に1小節でシーンが切り替わるので、ライブ中などにシーンを切り替えたいときなど、余裕を持って演奏することができます。

ふくよかさや温かみを増した
エレピやクラビの音も搭載


さて、ここまでは新機能を中心に紹介してきました、実は一番大事な音色についてはこれからなんです。M3XPにはかなりの音色が追加されました。冒頭でも触れた通り、エレピ、ビンテージ・キーボード、クラビなど鍵盤楽器系の音色のほか、これまでオプションだった拡張用ライブラリー、EX-USB-PCM01/02/03のデータが搭載されたのです。合計で160プログラム、32コンビネーションとなっています。特に今回追加されたエレピ、ビンテージ・キーボードなどの音色はかなりいい感じです。これまでのKORGのエレピをさらに発展させた感じで、かなりキテます。プログラム・モードで弾くと、適度なエフェクトがあらかじめ設定されていて、ふくよかさや温かさがあって、とても気持ち良い音色。今回、仮にほかの機能がアップされていなくても、このエレピ、ビンテージ・キーボード類の音色の追加だけでもかなりの価値があると思います。ぜひ楽器屋さんでお確かめください。またOasysで拡張ライブラリーEXSのブラス系やウッドウィンド系音色を使っていたので同社のサウンドの優秀さは十分知っていたのですが、本機にEX-USB-PCM01/02から移植された金管/木管系音色に関しても、特にフルートやクラリネット、サックスやバスーンはなかなかの音です。最後に、もともとM3のときからあった機能なのですが、オプションのFireWireボード、EXB-FW(23,940円)を試してみたところ、これがかなり良いです。これは、コンピューターとM3XPをFireWire接続するためのもので、コンピューター上からM3XPの音色エディットも可能になります。しかも、2イン/6アウトのデジタル信号の送受信ができるオーディオ/MIDIインターフェースとして使用できるようになります。実は、シンセを使うときにいつも気になっているのがノイズです。コンピューターが近くにあるせいなのか、ケーブルが少し長いとすぐにノイズが乗ってしまいます。ミキサーに接続する際にいろいろなケーブルを試してみているのですが、なかなか解決策がありませんでした。ところが本機はデジタル接続が可能。そのおかげで、ノイズの心配はありません。これは非常に助かります。どんなに高いケーブルを買っても結局逃れられなかったノイズから、すんなりとスマートに逃げることができました。いろいろ見てきましたが、かなりポテンシャルの高いシンセの登場と言えそうです。また狭い我が家にも、もう1台シンセが増えるような気がしてきました。

▲モジュール部のリア・パネル(全機種共通)。左からACV IN、電源スイッチ、USB A(2.0)、USB B(2.0)、MIDI THRU/OUT/IN、DAMPER(TRSフォーン)、SWITCH(TRSフォーン)、PEDAL(TRSフォーン)、S/P DIF OUT/IN、LEVELノブ、MIC/LINEスイッチ、AUDIO INPUT2/1(TRSフォーン)、EXB-FW、AUDIO OUTPUT4〜1(TRSフォーン)、MAIN OUTPUT R/L(TRSフォーン)、ヘッドフォ

KORG
M3XP-61
249,900円

SPECIFICATIONS

▪システム/EDS(Enhanced Definition Synthesis)
▪最大同時発音数/シングル・モード時:120ボイス(120オシレーター)、ダブル・モード時:60ボイス(120オシレーター)※最大同時発音数は、ステレオ・マルチサンプル、ベロシティ・クロスフェードなどオシレーターの設定により実際の発音数は変化
▪プリセットPCMメモリー:標準64MB(ただし512KBはシステムで使用可能) ※EXB-M256(オプション)装着により320MBに拡張可能
▪サンプリング/16ビット/48kHz
▪インサート・エフェクト/5系統、ステレオ入出力
▪マスター・エフェクト/2系統、ステレオ入出力
▪トータル・エフェクト/1系統、ステレオ入出力
▪ティンバー、トラックEQ/1ティンバー、トラックにつき1基の3バンド EQ
▪エフェクト・タイプ/170種類
▪トラック数/16MIDI+1マスター
▪外形寸法/1,016(W)、372(D)、121(H)mm
▪重量/14.1kg
▪付属品/ACコード、CD-ROM(M3パラメーター・ガイドPDF、ボイス・ネーム・リストPDF、KORG USB MIDIドライバー、M3 Editor/Plud-In Editorなど)

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