DSDだけでなくクリアなPCMの音質も魅力のマスター・レコーダー

KORGMR-2000S
ここ最近、ミックス時のマスター音源をWAVなどのデータで作成することが多くなってきていますが、意外とおろそかになっているのがマスター・レコーダーではないでしょうか。今回紹介するKORG MR-2000Sは、まさにこのマスター・レコーダーとしてスタジオで使うことを考えられた仕様になっています。以前に発売された同シリーズのMR-1000は、どちらかと言えばフィールド・レコーディングを主眼とした機材でした。そのため、スタジオ・ワークを主とする筆者としてはどうしても本機に期待してしまうのであります。早速チェックしてみましょう。

LEDメーターの視認性は抜群
臨場感が魅力のDSDサウンド


まず外観に驚きました。小さいな……横幅は1Uサイズですが、奥行きが220mmとかなりコンパクトな作りになっています。持ち運びも意識したのでしょうか。入出力端子は、ステレオのXLR/RCAピン、S/P DIFコアキシャルが搭載され、ワード・クロック入出力とUSB端子も装備されているので、スタジオ・レコーダーとしては問題ないでしょう。また本機のレベル・メーターは、最近の機器に多い液晶ではなく、視認性と反応速度に優れたLEDを使用しています。ちょっと離れていても分かりやすいし、メーターとしての反応が良くピークも見やすいのでエンジニアとしてうれしいところです。操作性も、もうちょっとボタン類が大きければうれしかったのですが、使ってみて問題になるほどではありませんでした。では、肝心の音について。本機は多くのオーディオ・フォーマットに対応していますが、その中でも最大の特徴と言える点が1ビット/5.6448MHzのDSDで録音/再生ができることでしょう。実際にDSDで録音することは、現在それほど多くないと思いますが、本機はPCMもカバーしているので、“より空気感を求める音楽にはDSDで!”と楽曲や環境によってユーザーが選択できるのは良いことだと思います。実際に録音してみると、フォーマットによる音質の違いをありありと感じられました。まずは1ビット/5.6448MHzで録音してみました。位相/レンジ感ともに繊細に表現されています。特に音数が少なくすき間や空気感のある音楽に適している印象です。曲にもよりますがポップスなどの場合、ちょっと音の押し出しを少なめに表現してしまいます。まあこの辺は一般的なPCM録音のざらついた感じに我々が聴き慣れているせい、というのもあるかもしれません。空間演出が得意そうなので、マイクをステレオで立てて外の高速道路の音を録音してみましたが、その臨場感はやはりPCMよりDSDの方に分がありました。

明るいPCMの音質も出色
多様なフォーマットに変換可能


前述の通りMR-2000Sは、DSDだけでなく一般の現場でよく使われるPCM(最高24ビット/192kHz)での録音にも対応しています。これが思いのほか良かったです。24ビット/48kHzのWAVでまず試したのですが、ほんのちょっと中域は引っ込むものの、位相感が良くクリアに保たれている感じです。特にS/P DIFで録音した際、それが顕著に現れました。ほかの製品で録音した音と比べても、高域の明るさ、低域の膨らみ方など合格点と言えます。また、データとしてDIGIDESIGN Pro ToolsなどのDAWソフトにエクスポートしても、この良さはしっかり残ります。私が現在ミックスしているプロジェクトで、ほかの製品で録音したものと本機の24ビット/48kHzのWAVで録音したものを数人で聴き比べてみたのですが、最終的に全曲のマスター・レコーダーが本機に差し変わりました。その後のマスタリングも、EQをしないでそのまま完成した曲があったほどです。また96kHzで録音すると、高域が広がる一方で低域が薄くなる機材が多いのですが、本機はその感じが少ないので十分マスターのフォーマットとして選択肢に加えることができるでしょう。どちらかというと本機の音はドンシャリ気味です。分かりやすくはっきりとした音なので、さまざまなジャンルのマスターとして利用できるのではないでしょうか。好みに応じて外部のクロック・ジェネレーターを使用できる点も、現在のスタジオでの導入を考えてのことだと思います。本機には、一般的なファイル・フォーマットにはほとんど対応している変換ソフトウェア、AudioGateも付属します。特にDSDで録音したファイルをそのまま再生することはまれですから、このような変換ソフトは不可欠です。変換時の音質変化も最小限に抑えられております。DSDからPCMへ変換すればどうしてもそれなりに変化はしますが、DSDならではのレンジの広がりがしっかり残るのは評価できる点です。本機をはじめとするMRシリーズの専用ファイル・フォーマット、MRプロジェクトの編集もできるので、本体での曲名入力が面倒だという人にも重宝するでしょう。試用した結果、スタジオで使うにあたってMR-1000よりさまざまな機能が見直されていることが分かりました。プロジェクトのフォルダーが日付で振り分けられる点は場合によっては少し不便なこともありますが、AudioGateと併用すればそこまで問題は無いと思います。音質は非常に優秀で、正直に言って欲しくなってしまいました。ぜひ皆さんも店頭で聴き比べてみて下さい。20081201-06-002

▲リア・パネル。左より電源ソケット、USB端子、WORD CLOCK OUT/IN、S/P DIF OUT/IN(コアキシャル)、ステレオ・アウト×2(XLR、RCAピン)、ステレオ・イン×2(XLR、RCAピン)

KORG
MR-2000S
248,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜20kHz(±1dB@44.1/48kHz)、10Hz〜40kHz(±1dB@88.2/96/176.4/192kHz)、10Hz〜100kHz(1ビット形式)
■録音フォーマット/1ビット形式:DSDIFF/DSF/WSD(2.8224/5.6448MHz)、PCM形式:BMF(44.1/48kHz@16/24ビット、88.2/96/176.4/192kHz@24ビット)
■内蔵ハード・ディスク/80GB
■外形寸法/482(W)×45(H)×220(D) 突起部含む
■重量/2.8kg

REQUIREMENTS

■Windows/Windows XP/Vista、1GHz以上のCPU、256MB以上のRAM、USB端子
■Mac/Mac OS X 10.3.9以降、800MHz以上のCPU、256MB以上のRAM、 USB端子