音の回り込みに強い
超単一指向の実力
PL80Aはライブにおける、ボーカル用にデザインされたダイナミック・マイクです。指向性は超単一で、ほかの楽器からの回り込みを抑制し、高いハウリング・マージンを確保しているのが特徴とのこと。また、ポップ・ノイズを軽減する多重ポップ・フィルターや、ハンドリング・ノイズを減らすサスペンション構造を採用するなどの工夫も。マニュアルによると周波数特性は80Hz以下と16kHz以上がロールオフされています。さらに詳しく見ると３〜７kHzの間に数個所、３〜４dB程度ピンポイントで持ち上げられている部分があり、これは、ボーカルでの使用を考慮した設計と言えるでしょう。また、近接効果にも配慮し、オンマイク（1cm）で使うと、100〜300Hzの低域が12dBブーストされるとのことです。それでは、現場で使用した上でのレビューに入ります。まずは、ジャジィな女性ボーカルで試してみました。手持ちで歌ってもらったところ、本体は細めで軽量なため女性でも持ちやすく、長時間のライブでも全く問題無い感じです。彼女はオンマイクとオフマイクの使い分けが極端な歌い方をするタイプで、オフマイクではマイクが口からかなり離れていたのですが、音質的に特に問題はありませんでした。オンマイクではポップ・ノイズに強い印象です。落ち着いた感じの声にはピッタリのサウンドだと思いました。続いて、声量のあるロック系男性ボーカル。彼はかなりオンマイクで歌っていたのですが、声の抜けがよく、しっかり聴こえます。ハード・ロック系のライブなどで、ボーカルが張った声を出すときによく感じられる中高域のピーク感が無く、全体としてはパンチを残しながらも聴きやすく、耳に痛くない音質でハード・ロックを表現できました。さらに、大音量での演奏にもかかわらずボーカル・マイクへの回り込みはほとんどありませんでした。これは超単一指向ならではの効果ですが、予想以上の実力でした。
張り上げる感じのボーカルでもピーク感の無い優しい声質になる
バラードを歌い上げる感じの、声量抜群な男性ボーカルでも試してみました。落ち着いた演奏の中では、輪郭のはっきりした温かみのある優しい歌声になります。平歌部分では、かなり低い音程のメロディもあったのですが、まるでコンデンサー・マイクを使っているかのような低域感が出ていました。低い声でも甘くなり過ぎないのが好印象。歌詞もしっかりと聴き取れる上に、ハンドリング・ノイズもまったく感じられません。ボーカルがオンマイクとオフマイクでの音質の差を理解して使い分けることができれば、表現の幅もさらに広がることでしょう。続いて、ウィスパー系女性ボーカルでの印象。静かめなミドル・テンポの曲でチェックしたところ、高めのゲインと近接効果によりきちんと鳴ってはくれましたが、基本的には声量が無いと、全帯域が薄れがちで、実体の無いサウンドになってしまう感じです。最後はピアノ弾き語りの女性ボーカルでチェック。音域も広く、声量もある彼女では、低いメロディの平歌から、高域で張り上げるサビなど、音質的にはすべてのチェック・ポイントが含まれていました。平歌などでつぶやくように歌う部分では、少々低域感が控えめな感じでしたが、高域の張り上げるメロディでは、ピーク感の無い、気持ちいい歌声になります。おとなしく優しい声質になるのがうれしいところで、オトナっぽい落ち着いたボーカルになってくれます。以上を総合すると、PL80Aは声量のあるボーカル向けのマイクと言えるでしょう。張り上げる感じで、動き回りつつオンマイクとオフマイクを使い分けながら歌うボーカリストにはピッタリと言えます。張った声が落ち着いた感じになるのはモニターにも反映されるので、日ごろライブで自分の声のピーク感が気になっているボーカルも、気持ちよく歌えることでしょう。そのほかの楽器には試せませんでしたが、ギター・アンプ、アコギ、パーカッション、スネアなどでも良い結果が得られると思います。また、オンマイクでがなる感じのラッパーにも向くはず。マイクのみならず、全音響機器を通じて言えることは、その個性を生かしてこそ、良い結果に結びつくということ。“こんな特徴だから、こんな人に、こういう風に使用しよう”と考えながら、使用していきたいものです。
SPECIFICATIONS
▪周波数特性／80Hz〜16kHz
▪指向性／超単一
▪感度／2.2mV/pa
▪出力インピーダンス／600Ω
▪外形寸法／50.7（φ）×189（H）mm
▪重量／333g
